第三話 戸惑い(コンフューズ)
違和感は、最初は小さな棘だった。
グラスが割れたとき。
サトミは、素手で破片を拾っていた。
ためらいもなく。
——切れるかもしれない
人間なら、一瞬くらい躊躇するはずだ。
食事をしない。
水も飲まない。
「今はいいの」と微笑むだけ。
——そして、あの目。
時折、瞳の奥が、遅れて瞬く。
僕は、「これ」を知っている。
——ソクラの瞳。
*
「サトミ」
僕は正面から問いかけた。
「君は、本当にサトミなのか?」
彼女は驚いたように瞬きをした。
「どうしたの?セツナ。怖くなっちゃったの?」
ベッドに腰掛け、僕の前髪を指先で耳にかける。
優しい微笑み。
「混乱しているのね。
不安もある。
車椅子だっていいじゃない。
セツナはセツナ。
私のセツナよ」
ふと、気が緩む。
——僕はどうかしてたんじゃないか?
そんな疑問が起き上がる。
——君のために書くよ
昔の台詞だ。
『売れなくったっていいじゃない。
セツナはセツナ。
私のセツナよ』
寸分違わない。
嗚咽が漏れそうになる。
堪えながら、絞り出す。
「ごめん。サトミ」
声が震える。
彼女は、ただ微笑んでいる。
——でも彼女は……
僕は揺らぐ。
*
破砕音。
ドアが弾ける。
大きな音に、瞬間的に身構える。
「兄さんから離れろ」
タイガだった。
手にはブラスター。
——銃口は
サトミに向けられている。




