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『凍結』  作者: セツナ(刹那)


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第一話 頂上(ピーク)

——「悲劇の前に、幸福は最高潮を迎える」


僕は、自分の小説の中で、そう書いた。


街はクリスマスの喧騒で、華やいでいた。


都内でも薄っすらと雪が積もり、ライトアップされたツリーに装飾を施していた。


「サトミ!急いで。もう出ようよ」


僕は、ベッドルームの妻に向かって声をかけた。


「待ってよう」


たたまれた着替えを、バッグに詰めていた。


「何やってんの。そんなのソクラにやらせればいいじゃないか」


「だって、下着とかだし…」


「そんなもの身につける必要なんかない。なぜなら…」


僕はサトミを後ろからそっと抱きしめた。


「やめてよ。ソクラに聞こえてるじゃない」


AIソクラは我が家の執事アンドロイドだ。ナノマテリアルボディの最新式。


僕の十作目の印税のほとんどをつぎ込んで、購入した。


「ソクラ。今の会話をメモリーから消去」


「かしこまりました。


旦那様が奥様を深く愛しておられることのみ記録しておきます」


ソクラの青い瞳が、微かに明滅する。


青い髪、青く発光する瞳。


ひと目で人間と違うとわかる。


——AIには、そうすることが「義務付け」られていた。


特に最新式は、「人間との区別」が難しい。


最新式AIを使った犯罪も社会問題になりつつあった。


「早くしろよ。真っ暗な雪道なんて走りたくないんだから」


「わかってるもん」


父が祖父から受け継いだ、奥軽井沢の屋敷。


明治時代に神戸に建てられた異人館を移築したと聞いた。


父や母が存命だった頃は、家族皆で、暖炉の前に集まった。


お気に入りのブランケットと飲み物を持って。


父はスコッチ。母は紅茶。僕と弟のタイガはホットチョコレート。


——記憶が人間を形作っている。


屋敷もそれ自体が、巨大な記憶装置とも言える。


懐かしさを感じていると、ソクラから「タイガさまから着信です」と言われた。


スマートグラスのテンプルをタップする。


目の前に広がったディスプレイの中に、がっしりとした体格の三十代の男性。


『新作出版おめでとう。兄さん』


「ありがとう、タイガ。もう読んでくれたかい?」


『もちろん、読んでないよ。AI犯罪対策課は忙しくてね』


弟のタイガは、僕と正反対のタイプだ。


運動神経抜群で、剣道で何度も全国制覇をした。


今は刑事だ。


『それより屋敷に行くんだろ?運転はAIにやらせろよ。危ないんだから』


「意地悪なおまわりさんだな。僕の楽しみを奪わないでくれよ。


ここんところ、出版社のパーティーやらテレビ収録だとかで、へとへとなんだよ」


タイガが苦笑する。


『サトミ姉さんによろしくな』


「タイガも来いよ。


ワインセラーが空っぽになる前に。


サトミも会いたがってる」


僕は少しからかうように言う。


僕の口から、サトミの名前が出ると、タイガは少しバツの悪そうな顔で言った。


『無茶言うなって。


飲み過ぎて、サトミ姉さんに迷惑かけるなよ。


じゃあな』



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