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第三話

太陽が地平線から顔を出して少しした頃、僕ことルアナは寮の自室で目を覚ました。

眠気によりいまにも閉じてしまいそうな目をこすりながら、僕はのそのそとベッドから出る。

ゆっくりとした足取りで、洗面台に向かう。

パシャパシャと音を立てながら顔を洗い、半覚醒状態の脳を起こす。


「ふわぁ……ねむ。昨日はあの後、いろいろとあったから、結構疲れたんだよねぇ。」


あのクソガキ…あの後に知ったことだが、クソガキの名はジルフェイド・ザーツェルムというらしい…が僕のアップルパイを食えなくしたことが原因でこうなったのだが、その後に僕は日が暮れるまで事情聴取に付き合わされることになった。

まぁあのクソガキが公爵家の子息だということを考えれば、事情聴取は仕方のないことだろうし、そうしないと学院の人たちにも迷惑がかかるかもしれない。

それは良くないので、僕はとくに駄々をこねることなく、事情聴取を受けていたのだ。

僕は人に迷惑をかけることは好きじゃないからね。


殺すことはできなかったけど、トラウマは刻み込まれてたみたいだし、すごく楽しかったから今回はこれで十分だと言えるだろう。

アップルパイは無駄になったけど、ジルフェイドくんのおかげで、隠れた原石を見つけられたわけだし。

アップルパイは食べられなかったけど、あれが最後の機会だったってわけじゃないからね。


昨日のことを振り返るのはこれくらいでいいだろう。

そろそろ登校の準備をしないと、遅刻しちゃうかもしれないからね。


✚✚✚


昨日のお昼を食べたところとは違う、寮に併設されている食堂で朝食を済ませてから、黒を基調とした制服に着替えて学院の校舎へと一人で向かう。

見慣れた通学路を歩きながら、僕は背後から接近して肩を組もうと伸ばしてきた男子生徒の右腕を避ける。


「おいおい、つれないことをしないでくれよ…ルアナ。友だちがすることくらい、温かい心で受け入れてくれないか?」


僕と肩を組むことは諦めたのか僕の右隣に並んで歩き始める男子生徒…ゼルツェルト・ファルドルコス。

姓があることから分かると思うが、ゼルツェルトはファルドルコス家という貴族の子息だ。

そしてこのゼルナヴァ学院に通っている貴族の中で、数少ない平民を蔑視しない貴族の一人でもある。


「友人の嫌がることを無理やり受け入れさせるのが、キミのやり方なのかな?そうだとするなら、僕とは馬が合いそうにないよ…ゼル。」


僕は悲しそうな素振りをしながら、ゼルに告げる。

ゼル…それはゼルツェルトに親しい者が呼ぶ、彼の愛称みたいなものである。

まぁつまるところ、僕とゼルは友人みたいなものなのだ。


「ハハッ、ルアナは面白いことを言うね。たぶんだけど、俺以上に君のことを理解していて、気が合うような人間はこの学院にはいないと思うよ?」


まぁたしかにゼル以上に気が合うヤツはこの学院にいないだろうね。

全員と話したことがあるわけじゃないけど、発せられる雰囲気でなんとなく分かってしまうのだ。

誰と気が合い、誰と気が合わないのかを。


「そんなことより知っているかいルアナ?今日からの2週間、面白い行事があるらしいんだよ。」


ゼルの言葉の意図が分からずに、僕は首をかしげる。

2週間も時間をかける大きな行事なんてあっただろうか?


「その様子だと知らないみたいだね。まぁルアナのことだから、知ってるとは思わなかったけど…。」


本人が目の前にいるんだから、もう少しオブラートに包んでくれても良かったと思うな。

いや…そこまで気にしたりはしないけどさ。

今はそんなことよりも、もっと気になることがある。


「それで?この2週間にどんなことがあるんだい?キミがそういうってことは、ある程度の面白さは確約されているんだろう?」


「ルアナにとって面白いかは分からないけど、まぁ俺にとっては面白いことで間違いないよ。」


「ふーん…それなら期待はしないほうがいいのかな?で、どんな行事があるの?もったいぶらずに教えてよ。」


「うーんと…そうだなぁ。まぁ簡潔に言うと、フェリドリート王国…ゼルナヴァ学院を建てた国家…とその友好国にある国立学院を対象とした武闘大会が開かれるんだよね。それでゼルナヴァ学院から武闘大会に出る人を決めるための予選が、この2週間で行われるんだ。まぁ二年生と三年生だけだけどね。一年生はまだ入学して間もないから、代表決めの本戦は一ヶ月後とかなんだ。」


そんな情報は初めて知ったな。

しかし…そんなイベントがあるんだ。

まぁ僕が出たりすることはないからいいか。

僕は観戦だけ楽しませてもらおう。

こういうのは外野として、やじを飛ばすのが一番楽しいんだよね。


「もしかしてゼルもその予選とやらに出るの?だとしたら観に行くんだけど…。」


「あー…そうだね。まぁ一応は出る予定だよ。代表になれるかどうかは分からないけど、やれるとこまではやってみるつもりさ。」


それは面白そうだ。

ゼルが自分から戦おうとするのはめずらしいからね。

どんな戦いが見れるのか今から楽しみだよ。


この時の僕は完全に他人事のつもりだった。

おそらくだが、ゼルはあのことをわざと話さなかったのだろう……そっちのほうが面白いと思ったから。

この時の僕はあんなクソみたいな制度があるなんてことを、みじんも想像していなかった。

まぁとにかく、めんどくさいことになったのである。



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