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死ねない私の鉄のテディベア  作者: ノイズマリー
おかえりが聞こえない
4/15

4 もしもし


 移動手段も通信手段も失い、孤立してしまった。


 けれど、この霧が計器類を止めるなら、彼らは私たちに近付けない。

 ステルス仕様の軽装甲車は密閉性が高く、外部観測の多くを電子デバイスに依存している。

 バックアップの光学窓や潜望鏡があるとしても、その狭い視界で装備不明のターゲットを霧の中で探すのは避けたいはずだ。


 皮肉な話だけど、彼らの仕掛けたこのノイズを撒き散らす霧が今のところ私たちを守る唯一の盾になっている。


 横目でカインをちらっと見て呟いた。


「……この霧、もしかしてコントロールできないやつだったりすると思う?どうしてさっさと霧散させて撃たないんだろう」


「当該ナノ粒子の制御可否:不明。

 可能性:敵性環境制御下における行動パターンの収集中」


「はぁ……やたら静かなのはそのせいか」




 霧に包まれてから、やがて5分程度が経過しようという頃だった。


 小さく息を吐いた。そっと強ばっていた筋肉が緩んで、銃を持つ手がわずかに下がる。


 その時、急に霧の奥から大きなホーンが鳴り響いた。


 反射的に肩が跳ね、銃を抱える腕に力を込めた。


『おいッ!いるのは分かってるぞ』


 スピーカー越しの声が響いて、無意味だと理解していても思わず視線を巡らせる。

 まさか敵が話しかけてくるとは思っていなかった。


『ハッハー!今めちゃくちゃビビりやがった!心拍数上がりすぎだろ!』


 咄嗟に胸のあたりを押さえた。味方が来るまでこの霧の中で大人しくしていればやり過ごせるかと思っていたのに、今までずっと見られていたのか。


『さっきの二組はコケてクラッシュしてくれたからラクだったけどよ。お前は法定速度でも守って安全運転でもしてたのかよ?

 おい、しゃがんでも意味ねーぞ。ネズミみてぇにコソコソ動きやがって。丸見えなんだよバーカ!

 ……ぶっ、息止めんなって!素直か!あんまり笑わせんなよ。愛着湧いちまうじゃねえか!』


 わざわざ真空断熱材か何かで防護済みの計測ユニットを、辺りにいくつも隠してある。どうやってそのデータをノイズまみれの霧の外側に送ってるのかまではわからないけど。

 静かに観察するフェーズは終わったということだろうか。


 そしてまたホーンが軽快に響く。

 ‥‥なんで三三七拍子なんて知ってるんだ、こいつは。


 見られてると思うと身体の向きを変えるのすら躊躇する。

 この無様な姿が相手を楽しませていると思うと、一矢報いることはできないかと無謀な考えに振れてしまいそうだ。


『奇跡的にバイクが動いたとしてもどうせ逃げられねえんだ。ヘイ、そんな泣きそうな顔するぐらいならさっさと出てこいよ。

 たった一人で、どうやって生き延びるってんだよ、オイ!』


 ……『一人』?

 私の隣に立つこのでかい鉄の塊が見えていないのか?

 挑発の材料としてこれ以上のものはない。それなのに、一言も触れてこない。


 それじゃあ、敵が使っているのは生体反応の“点”を追いかけるバイタルトラッカーだ。

 解像度の低いマイクロ波式。心臓や肺の挙動や位置は計測できても、唇の動きや銃を構えているかまでは分からない。カインの発する駆動音は周波数が人間と異なるから、環境ノイズとして処理され計測されていない。


 おそらく、それがこの干渉粒子の中での送信できるデータ量の限界なのだろう。座標もせいぜい反応のある計測器での大まかな予想しかできていない。


 カインを見上げて、思わず笑いかけてしまった。あなた、見えてないらしいよ。

 私が笑った意味がわからないのか、こちらを見て明度を落とした青いセンサーをふわりと点滅させただけだった。首でも傾けたら少しくらい可愛げがあるのに。


『When we die, there's no time for mourning. Just good morning, huh?

 お互い時間を無駄にするのはやめようぜ』


 俺達はどうせ悼む間も無く次の身体で「おはよう」だろ、と言いたいらしい。

 この星の兵士は敵も味方も、死は単なる次の肉体までのスリープモードに過ぎない。先行した二組も数時間後には新しい身体で起き上がる。


 でもそれは外側から見た仕組みだ。


 『前の私たち』が今の私と繋がっている感覚はある。それらの記憶は体感としてあるし、行動のロジックも理解できる。

 だけど、『次の私』との繋がりなんて、今の私が知ることはない。

 『前の私たち』と同じように『今の私』の記憶も引き継いで、『次の私』が記憶を積み重ねて生きていく。


 この名状しがたい不統合感を、あいつだって知らないわけがないくせに。

 サムいジョークとホーンの音が、まるで格好つけるように響いて、笑えてくるのと同時に反吐が出るほど腹が立つ。ああ。挑発としては大成功だ。クソ。


 急に機銃の発砲音が響き、反射的に頭を下げた。


 着弾音は遠い。適当に掃討射撃をしているだけだと分かってはいても、息が詰まった。


『おっ、反応速度悪くねぇな!ちっと5分間タバコ休憩にするわ。早めに出てこいよ。次の「おはよう」を俺が早めてやるからよ!』


 喉に土埃が張り付き、言葉にならない呻きが漏れる。

 敵が私の細部まで見えているわけじゃないことが分かったところで、形勢は何も変わっていないことを思い知らされた。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

直しました。まだなんかダサい気がする。

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