表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない私の鉄のテディベア  作者: ノイズマリー
おかえりが聞こえない
2/15

2 安全だと思ってたらこれ


「……あなたがまともなロボだって祈ってる」


 ため息混じりの私の呟きに、彼が何かリアクションを返す前に、通信が入った。


『本部より連絡。

 先行した2組の死亡通知を確認。

 視界外からの強襲による全滅と推測。

 いずれもお前たちから北の地点、未舗装路上だ』


 ……強襲?こんな場所で?


『問題発生地点の座標を確認』


 通信機越しにカインの声が響く。バイクが木の陰に静か滑り込み停止すると、ジェットが草を焼いたにおいが追いついて鼻を掠めた。


 彼の頭だか胸部だか知らないけど、とにかく彼の脳みそにあたるところに件の座標を直接受信したのだろう。

 私はといえば、手首を持ち上げ、そこに巻き付けたパッドを逆の手で操作して座標を確認する。


 路を無視し東に向けて最短距離を突っ切るカインの合理性が、結果として私たちを地図上の赤い二つのバッテンから遠ざけていたようだ。


『当機現座標において空陸域、敵機未検知』


 ここから目標地点までは、味方の保持エリア内だけを通ることになる。

 だからこそ非武装だが高機動のホバーバイクで移動するよう指示があったわけだ。


 なのに運の悪いことに、こんな時に限って――おそらく調査目的の敵車両がこちらの基地の近くをうろついているらしい。


『了解。航空支援を要請する。

 お前たちは戦闘を避け敵機掃討が完了するまで自分たちの安全を確保しろ』


 私たちの装備は、車両戦を想定していない。

 指示通り、戦闘に参加するよりも、安全な場所に移動するなりして攻撃に巻き込まれないようにするべきだろう。


 たぶん、到着まで10分程度かかる。

 臨時の出撃要請とはいっても、このあたりは即応戦力が置かれていないエリアだ。応答が遅れるのは当然。

 仮に遭遇したとしても彼の運転技術とこのすばしっこいバイクなら、よほど接近してなきゃ撒くのは難しくないだろう。

 彼がバグらなきゃ、だけど。


「了解。現地にはそっちで連絡入れておいて。遅くなっても文句言うなって」

 通信を切った。


『南東基地の攻撃支援範囲まで避難。発進に備え、姿勢保持を推奨』


 いちいち安全アナウンスしてくれる律儀さが、いかにも機械って感じ。若干うんざりしながら、お返しとばかりに「了解」と返してやった。


 バイクは進行方向を変更し、カインはより慎重に周囲をうかがっている。


 見通しの良い場所に差し掛かるたびに左右を目視確認している仕草はまるで人間を演じてるようにも見えて、無骨な金属製のボディとのギャップがなんだか笑える。



『通信対象:平原南東基地。応答を要――』


 叫び声とも悲鳴ともつかない金属音がカインの声を切り裂き、全ての音を塗り潰した。


 鼓膜を蹂躙する衝撃に全身の毛が逆立ち、自分の呻きすら聞こえない。

 可聴限界ギリギリの高音に脳が壊されそうで、バイクのサイドバーを握りしめる指が震えた。


 音の正体を推測する余裕なんか無いまま、次は地面から弾けたように白く濁った蒸気が吹き出し、拡散し始める。

 思考が追いつかない。


 滞空維持できなくなったバイクが、バウンドしながら慣性に押されるように腹を地面に擦る。


 今にも身体が放り出されそうで、堪らずカインの背中に法線力を求めてヘルメット越しに思い切り頭を叩きつけた。


 耳が塞がれた世界の中で、彼の硬い背中とぶつかる音だけが骨を伝って脳に届く。

 その音が、この鉄の塊に食らいついている限りは、私はこちら側に踏み留まっていられるのだと教えているようだった。


 カインが脚で地面をえぐりながら、のたうつように暴れる車体を強引に抑え込んだ。




 世界が静かになって、「早く降りろ」とでも言いたそうにカインが顔を少しこちらへ向けた。


 浅い呼吸を繰り返しながら、地面に彼のつま先で引かれた線を見つめる。

 現実感を取り戻すのに、少しだけ時間が必要だった。


 もし彼が制御してくれなければ――


 その先を想像したくなくて、頭を振った。


 あの金属音は収まり、嘘みたいに静か。

 地面を踏みしめてから、この感触も嘘じゃないかと少し疑った。


読んでくれてありがとうございます。少し修正と加筆しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ