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#2 前話:幸せな「幽霊」

『死ぬ時はいつだって一緒だ』

そう約束した友は、戦場で泣きながら僕を殺した。




 眩しくて、寒くて目を開ける。砂塗れだったはずの景色が、緑に囲まれている。

 あの時、友人から斬りつけられた筈の傷も塞がっていた。ゆっくりと立ち上がり状況を整理する。

「…生き返った?」

 確か僕は「戦争」をしていたんだ。人を殺す事が出来なかった僕を面倒見てくれた友。上からの指示なのだろうか、「役立たず」は殺せとでも言われたんだろう。僕は友に殺されるなら本望だと告げて、全てを諦めて友の剣を迎え入れた。

 あれから何年経ったのだろうか。戦場だった筈の場所が森になっていて、誰かに捕食される事も無くボロボロの衣服の僕。何故目が覚めたのか、誰かの策略なのか。考えたってすぐに答えを理解できるはずは無い。とりあえず、近くの川で顔でも洗おう。川のせせらぎが聞こえる方へ顔を向けると、一人の老婆が目に映った。

 老婆が僕の存在に気づく。一瞬だけ驚いた後、悲しいような哀れむような表情でこちらに近づいて来た。

「遂に…お目覚めになったのですね」

 僕はこの人の事を全く知らない。でも貴重な情報源だし、仲良くなっても損は無いだろう。僕は下手したてに、丁寧だけどちょっぴり生意気な感じを装い会話する事にした。

「僕は…寝坊してしまったみたいです またアイツに怒られちゃうな」

 アイツとはかつての「友」の事。よく寝坊した僕を怒ってくれたっけ。思い出して懐かしいと思っていたら、老婆は急に泣き出した。

「覚えているんですね…あの人の事…!」

「なんで泣いてるの?変な地雷踏んだ?」

「紹介が遅れました…あなたが言う『アイツ』の妻にして頂いた者です」

 そんなバカな。アイツ、熟女趣味だったのか。いや待て冷静に考えてみよう。僕は「何年」の寝坊をしたんだ?

「狼狽えるのも無理はありません あなたは約『80年』眠っていたのですから」

「嘘でしょ…なんで起こさなかったの」

 まるで母親に呆れるように言う。当時の僕がまだ13くらいだったから…93歳か。その割には、見た目は若いままだ。

「アイツ…私の旦那様はずっと あなたを気にかけていた 死んでも尚腐らずに眠り続けるあなたに」

「僕怖くない?」

「はい 『呪い』だとみんな恐れていましたよ」

 冗談のつもりで言ったんだけどそりゃそうか。

「僕の事 アイツの代わりに気に掛けてくれたんだ」

「先程 先にゆきましたから」

 捻くれた口も、一瞬止まる。僕とは違って、長い間起きてたみたい。

「そっか…アイツ死んだんだ…」

「最後まであなたのことを言っていましたよ 『俺の代わりに世話を頼む』と」

「…」

 複雑な感情に、整理が出来ない。悲しいのか怒りたいのか、どうすればいいんだろう。

「私もそう長くはありません あなた様が望むのであれば私にできる事を何なりと申し付け下さい」

 老婆の気遣いに素直に感謝をする。今の時代の事を聞いて、これからどうするのか決めていこう。何故「起きてしまった」のかは後でいいや。考える事は苦手だしね。


 そして説明と軽い教育をしてくれた、母親のように世話をしてくれた老婆は笑いながらこの世を去った。あれから1年も経っていないのに、本当に長くなかったんだ。でも捻くれた僕は涙を流さない。むしろ、やっと解放される事に感謝していた。いつまでもこんな森の中でババアと二人きりなんて楽しいわけが無い。これからは僕の好きに生きれる、僕の新時代が幕を開けるのだ。まずはこの死体をどうしようか。確か警察に電話をして…。

 色々な対応を分からないままにやってみた。何故か僕がババアを「殺した」事になった。なんでなんだろう。

 僕は面倒くさくなってその場から逃げ出した。走って走って、知らない場所で車とぶつかりそうになる。轢きかけた癖に全くリアクションのない車にイラついていると、急に眠気に襲われた。

 面倒な話に急に運動までしたんだ、体もついていかないよね。運よく見つけたバス停で横になり、少しだけ眠る事にした。次こそは寝坊しないから、そう誓って。


 まぁ寝坊するよね。僕だし。

 バス停の周りには人が賑わっていた。これから学校や職場に向かうのであろう人でいっぱいで、誰もベンチに近づかない。僕が占領しているのもあるのだけれど、それにしたって誰か一人くらい僕を気に掛けてよ。起こしてくれたって良かったのに。僕は皮肉をぶつける為に、賑わう人たちの中心に行った。

 おかしいな、誰も見てくれない。知らないフリとかじゃなくて、まるで僕が「居ない」ような感じ。たとえ裸になっても、誰も見てくれない。やがて来るバスにみんなが乗り込んで行ってしまう。流石に僕は泣いた。

 それからベンチで座り込んでいると、やっと僕に話しかけてくれる人が来てくれた。

「お兄さん暇そうだね」

 布を被った…少女?

「君…僕が見えてるの?」

「消えかけてるけど ちゃんと見えてるよ」

 消えかけている?僕は手を見てみる。確かに透明になりかけている。

「僕は…消えるのかな 折角これから楽しくなれると思ったのに」

「それは残念 そこを救うのが私の役目ってね」

 少女は横に座り、僕の顔を覗く。

「幸せな『幽霊』になってみない?」

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