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第78話 象徴の閃光、運命の余波

王都の天も地も、影と光の渦に呑まれていた。

黒い樹冠が都市全体を飲み込み、根は底へと伸び、人々の声すらも渦へ吸い込んだ。

希望も恐怖も、祈りも憎悪も、あらゆる感情が災厄の怪物となり、都市の心臓を重く鼓動させていた。


その中心で、アリエルは限界すら失いながら立ち続けていた。

旗としての象徴は人らしい輪郭をすでに捨て、光と影の断片が剣を軸に結晶した存在へ昇華していた。

民衆の心は揺れ、誰かの絶望は災厄を膨らませ、誰かの希望は閃光に力を与える。

両極を等しく抱え込んだその姿だけが、崩壊寸前の街に残る唯一の拠り所となっていた。


災厄の怪物は咆哮を上げた。

それは王都の声の集合であり、終末を告げる鐘のように響いた。

触手のような枝が広場を突き破り、逃げ惑う民を捕まえようと動く。

そのたび、アリエルの剣が唸り、紅黒金の閃光が枝を断ち、根を焼き、大地に道を穿った。


秘めた力を出し尽くすたびに、旗はさらに人間性を失い、ただ「意志だけの光」として輝く。

リリアの祈りは残響となり、カリサの炎は輪郭だけを焼き残す。

仲間の支えも、すでに「象徴」となった存在にはわずかな糸となって届くのみとなっていた。


民衆の声はやがて一つのうねりとなり、恐怖と祈りが混ざって旗に収束した。

その瞬間、アリエルの閃光は災厄の怪物の中心を貫き、王都全体に亀裂を走らせた。

影の枝は砕け、根は天地から剥がれ、広場の闇が数瞬だけ消え去る。


余波は王都を震わせ、民の目には「旗が人を超えた瞬間の輝き」として深く刻まれた。

その輝きは都市の運命を決定づける光にも、次なる物語の口火ともなりうる余韻であった。


英雄の終焉も、災厄の発露も、もはや一人の意思によって揺らぐ段階ではなかった。

それでも旗は――象徴は――なおも街の中心に立つ、運命の余波として消えずに残り続けていた。

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