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第72話 救済の余白、失墜の影

王都の夜を覆っていた黒幕の影は、確かに押し返されていた。

根は裂け、壁を軋ませた圧力は途絶え、都市は再び呼吸を取り戻した。

瓦礫と灰の中、人々の声がかすかに甦り、恐怖と安堵の涙が混ざり合った。


だが静寂の奥で、確実な異変が進行していた。

アリエルの身体は限界を超え、裂け目が全身を縫うように走り、皮膚は光と影の断片に変わっていた。

人としての輪郭は崩れかけ、立つ姿は蜃気楼のように揺らいで見えた。

それでも剣だけはなお握り、掲げられたままにあった。


民衆はその姿を見上げ、歓声を上げる者と声を失う者に分かれた。

希望の象徴として仰ぐ眼差しと、怪物の誕生を予感する震える眼差しが、同じ場所で交錯していた。

救済は確かに訪れた。だが同時に、不安もまた深まっていた。


リリアの祈りはアリエルへ届こうとしたが、裂け目に触れるたび光は弾かれ、余波に呑まれて消えた。

彼女を癒す術はなく、ただ祈りを続けることで心を繋ぎ止めるしかなかった。

カリサの炎もまた傍らに灯っていたが、その炎は仲間を抱きとめるにはあまりに小さかった。


黒幕の影は退いていたが、敗北したわけではなかった。

王都全域に根づいた紋は消えていない。

鼓動は鈍くなったが絶たれず、夜を震わせる低音として静かに残り続けていた。

それは再び動き出す時を待つかのように、都市全体を下から脈動させていた。


アリエルの息は荒く、目の焦点は揺らぎ、言葉はもはや紡げなかった。

存在が自壊することを覚悟した代償は確実に刻まれ、旗として掲げられていた彼女の姿は崩壊の瀬戸際にあった。

人を繋ぎ止める光でありながら、崩れ落ちればそのまま「廃墟」と化す危機。

希望と恐怖が重なる象徴として、彼女はそこに立ち続けていた。


街は救われた。

だが旗は、失われようとしていた。

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