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第65話 決断の一閃、裂け目を越えて

振り下ろされた刃は、夜と黎明を引き裂く一条の光となった。

紅黒金が交じり合い、制御を超えた奔流は戦場そのものを覆った。

黒幕の掌から迸った漆黒の紋と衝突し、二つの力は重なり合いながら周囲を薙ぎ払う爆風を解き放つ。

城壁に亀裂が走り、地面は捲れ上がり、王都全体が心臓の鼓動のように震えた。


その一撃は刃だけのものではなかった。

胸の裂け目から溢れる光と影、その全てが放たれた。

旗として人々を繋ごうとする意志と、廃墟として全てを呑み込もうとする影が、一つに収束し矛盾の閃光を形作った。

それは正義でも滅びでもない。ただ「存在そのもの」を問う光であった。


黒幕の紋もまた拡大した。

彼の身体を超え、王都の地を巨大な術式の円形に縛り上げ、その中にいる全てを吸い込もうとした。

だがその中心で、アリエルの閃光は確かに抗った。

光と闇のせめぎ合いはやがて境界を崩し、戦場の誰もが目視できぬほどの閃爆へと変わった。


時間が止まったかのように見えた。

王都の民は声を失い、祈りも炎も掻き消える中で、そのただ中に立つ旗印の姿だけが鮮烈に映されていた。


裂け目はさらに拡大し、もはや胸を越えて全身に紋様が走った。

それでも彼女は地に膝を折らず、影に吞まれることを拒んだ。

光を振るえば自身が崩壊し、闇を許せば街が滅ぶ。

その両極を同時に抱え込みながらも、彼女は「繋ぐ」ことを捨てなかった。


閃光が走り抜けた。

王都を結ぶ線が一瞬だけ清められ、影の根が断ち切られ、黒幕の紋が小さく揺らいだ。

完全な勝利ではない。

だが確かに、廃墟の意思を押し戻す一瞬の裂け目が穿たれた。


戦場には沈黙が訪れた。

崩壊しかけた建物や瓦礫の中、光に照らされた人々はまだ息をしていた。

恐怖と希望のどちらが勝るとも言えない揺らぎの中で、ただ一つ確かだったのは――旗印が立ち続けていたこと。


黒幕は微動だにせず、ただ一歩後退した。

その眼には敗北の色はなく、むしろ新たな愉悦が宿っていた。

旗が決断を下すたびに裂け目は深まり、未来は崩壊へと近づく。

それを確認しただけのように、彼は再び紋を揺らし、闇へ溶けていった。


空にはまだ紅黒金の残光が漂っていた。

その中央に佇むアリエルの姿は、血と影に濡れ、それでも確かに旗印として掲げられていた。


戦場は終わってはいない。

むしろここからが、本当の決戦の始まりだった。

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