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第58話 影の胎動、黒幕の名

王都に、ひとときの静寂が訪れていた。

だがそれは休息ではなく、嵐を呼ぶ静けさだった。


敗走した傭兵たちの背に刻まれていた黒い紋が、各地で同じように発見されていた。

その紋は「廃墟の残骸」が媒介した烙印であり、操る者の存在を示していた。


アリエルは、勝利の歓声の裏で胸の痛みに押し潰されそうになっていた。

裂け目はさらに広がり、金と黒が無秩序に入り乱れ、心臓の鼓動ごと混線している。

剣を握る手すら震え始め、彼女自身が次の「廃墟」となる未来が、否応なく迫っていた。


民は一つにまとまり始めている。

旗印の下で並び立ち、自ら剣を持ち、外敵を退けたという誇りが芽吹いていた。

だが同時に、恐怖は消えてはいなかった。

「その力は、いつか街を呑む」という囁きは絶えず続き、喜びと疑念がせめぎ合っていた。


セラフィエルとヴァルシュは王都の外壁を見下ろしながら、静かに未来を観察していた。

二人の視線の先、敗走した傭兵は新たな集落へと逃げ戻っていた。

そこでは、漆黒の外套を纏った男が静かに彼らを迎え入れていた。

その眼は虚無を孕み、掌には蠢く紋を宿している。


彼こそが、廃墟を操る黒幕だった。


敗残兵のうち、生き残った者たちは膝を折り、無意識のままその紋に額をかざした。

次の瞬間、彼らの胸から同じ黒い芽が芽吹き始める。

兵というよりも「苗床」と化したその姿を前に、外套の男は微笑んだ。


王都に向けられる次なる波が、確かに用意されつつあった。


アリエルはまだその存在を知らない。

彼女はただ「旗を降ろさず、仲間と共に立ち続ける」と心で誓い続けていた。

だがその誓いこそが、黒幕の思惑を加速させていることに気付く術もなかった。


夜が深まり、王都全体に鼓動の残響が再び広がっていった。

それは廃墟の声であり、黒幕の笑いでもあった。

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