第54話 総鳴の鼓動、覆いかぶさる影
「……見たか? さっきまでの広場の光を。」
「見た。だが人々はまだ恐れている。次に芽が出れば――今度こそ街ごと壊れる。」
「なら、待つだけだ。怯えきった心がまた餌になる。」
「アリエル様、鼓動が強まっています。地下全域から……!」
「一部じゃない……全ての残骸が同時に震えている!」
「……総鳴か。街に散った芽が一つに繋がり始めたんだ。」
「止められますか?」
「止めるしかない。これを放置すれば王都そのものが呑まれる。」
「民を退避させろ!」
「もう避けきれない! 各区から悲鳴が……!」
「見ろ! 家の下から根が突き出てる!」
「南北両方だ、線で覆われている!」
「アリエル! 胸が……!」
「……暴れてる。でも、剣を……離さない。」
「無理しないでください!」
「無理しなきゃ守れないだろ! アリエル、行け!」
「二人が隣にいる――だから私は折れない!」
「……旗印よ。お前ではもう止められぬ。総鳴は街全てを抱き、廃墟を再び産む。」
「影が囁く……だが私は飲まれない!」
「アリエル様!」
「リリア、祈りを街に! 皆の声を繋げ!」
「はい!」
「カリサ、道を作れ!」
「任せろ!」
「炎槌、轟けぇぇっ!」
「光よ、街の声を一つに――!」
「……紅黒金、ここにすべて束ねる!」
「──〈因果断絶・黎明総破斬〉!」
「……地鳴りが止まった?」
「根が消えていく……! 各区で吸い上げていたものも……!」
「止まった……本当に、止まった!」
「アリエル……立てるか?」
「はぁ……っ……まだ……いる。裂け目の奥に……消えぬ鼓動が。」
「……完全には断ち切れていないのですね。」
「そうだ。奴らの声はまだ地下に残っている。次はもっと大きくなる。」
「セラフィエル、どう?」
「ええ、とても愉快。力を合わせれば止まる……だがそのたび旗印は傷を広げる。」
「つまり、繰り返せば繰り返すほど裂け目は深くなる。」
「そう。そして最後に歴史は記す。“旗印は自ら廃墟へと変じた”とね。」
「……私はならない。裂けても、繋ぎ続ける。それが、私がここに立つ意味だ。」
「アリエル様……」
「俺たちも絶対に離れねぇ。街が何度裂けても、背を預けろ。」
「恐れも痛みも……一緒に抱えれば、必ず繋げます。」
「……ありがとう。まだ夜は明けていない。けれど、必ず朝に届かせる。」




