第53話 街頭の衝突、響く鼓動
「旗印を信じろ! 彼女がいなければ、俺たちは滅んでいた!」
「怪物をこの街の象徴にするのか! 次も廃墟が芽吹けば終わりだ!」
「やめろ! 手を出すな!」
「黙れ! 先に石を投げたのはそっちだろう!」
「子どもたちが怯えている! やめてくれ!」
「恐怖を見せたのはアリエルだ! 我らを守る盾は他にある!」
「……声が届く。分裂が争いに変わっている。」
「アリエル様、行かねば! このままでは民が互いを傷つけます!」
「チッ……こっちにも戦場が増えるのかよ。だが止めねぇと。」
「行こう。街は――人々は旗を失おうとしている。」
「皆、やめなさい! 争うことが――廃墟を呼ぶ原因になる!」
「解放者だ!」
「怪物が口を出すな!」
「アリエル様、後ろ!」
「地下から……黒い根が!」
「まさか……また鼓動が……!」
『人の声……争い……それが糧……』
「……聞こえる。下から……残骸が呼応している!」
「やっぱりな。人の心が裂ければ、あいつらが湧く仕組みか!」
「皆、下がって! 私が止める!」
「もうあなた一人じゃありません! 私も光で抑えます!」
「俺も燃やし尽くす!」
「アリエル様、胸が!」
「くっ……鼓動が暴れる……でも、止めなければ……!」
「無茶しないで!」
「黙ってられるか! お前が崩れたら街はどうなる!」
「二人がいる……だから私は、立ち続けられる!」
「──〈因果断絶・黎明三重奏〉!」
「今度は俺の炎をもっと重ねる!」
「私の祈りも! この街の声を繋ぐ光を!」
「……すべて、抱え込んで繋ぐ!」
『人の怒号……人の裂け目……だが……拒まれ……』
「効いてる! 崩れていく!」
「もう一押し!」
「行け、アリエル!」
「旗は……折れない!」
「……消えた……?」
「ええ、残骸の影は灰に戻りました……」
「だが、広場の人間どもは……」
「……泣いてる。恐れて、でも……少しは理解したんじゃないか。」
「アリエル様……」
「恐れてもいい。けどその恐れが廃墟を呼ぶなら、共に抑えていけばいいだけだ。繋ぐのは私たちと民、両方で。」
「セラフィエル、見た?」
「ええ。素晴らしい。争いが新たな災厄を産み、それを再び彼女が討つ。その繰り返しこそ“歴史”。」
「ヴァルシュ、記した?」
「残さず。“旗は裂け目を抱き、それでも人を繋ぐ”」
「なら、次はさらに大きな裂け目を……用意しましょう。」




