第51話 旗を巡る声
「……街は落ち着いたか?」
「いいえ、落ち着いたとは言えません。救われたと安堵する者たちと、恐れを募らせる者たちで完全に分かれています。」
「やっぱりな。戦っても戦っても、結局は人の心が裂け目を広げやがる。」
「カリサ……言葉が乱暴です。でも、嘘ではありません。」
「アリエル様、あなたの力を讃える声も確かに届いています。信じる者も増えています。けれど同時に、“怪物”と呼ぶ囁きも止まりません。」
「……怪物でもいい。旗印でも、反逆者でも。私はここに立ち続ける。だから……二人は、まだ隣にいてくれる?」
「当たり前だ。あんたを放り出したら、この拳は何のためにある。」
「私も離れません。……怪物だと呼ばれようと、あなたは私の救いであることに変わりありません。」
「二人とも……ありがとう。」
「でもよ、アリエル。いつまであんたが一人で全部支えなきゃなんねぇんだ? 王都そのものを動かす仕組みが要る。旗印ひとりに全部背負わせたら、そりゃ潰れる。」
「正直、それは正しい意見だと思います。臨時評議は割れていますが……人々が自ら選び、決める場を残すべきです。」
「……私は剣を振るう者として前に立つ。でも、未来を定めるのは皆で、だ。」
「けどな。人は弱い。すぐに恐怖に流される。お前の裂け目を見て、その力を怖れる。」
「その恐怖を受け入れるしかない。私自身が背負って……その先で繋ぐ。」
「繋ぐ、か。綺麗ごとじゃねえな。だが――今まで全部そうしてきたか。」
「……胸は痛みますか?」
「ええ。けど、この痛みは私の証。滅びも抱え、希望も抱えて進む。」
「アリエル様……」
「よし。なら俺も腹を決める。評議だろうが群衆だろうが、誰が何を言おうが、この大槌はお前の旗を守るために振るう。」
「私も支えます。あなたが一歩でも間違えたら、その時は私が必ず隣で正す。だから……恐れないでください。」
「二人がそう言ってくれる限り、私は歩ける。」
「なら歩こうぜ、旗印さん。街はまだ半壊だ。これからが本当の勝負だろ。」
「はい。これから、人々にも自ら選んでもらわなければなりませんね。」
「ええ。旗印に従うだけでなく、旗を共に支える未来を。」
「……行こう。朝が来る。次の戦いはもう始まっている。」




