表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/78

第48話 秩序の胎動、さざめく陰謀

崩れた王城跡にて。

残骸の灰が風に散る中、アリエル・ローゼンベルクは民衆の視線を浴びていた。

胸の裂け目はいまだ消えぬまま、黒と金の脈動を続けている。


「……彼女がいなければ街は滅んでいた」

「だが、あの力は……」


人々の声は称賛と畏怖のあいだで揺れていた。


リリアは手を取り合う子供らと共に祈りを捧げ、カリサは疲弊した兵や市民を導き、瓦礫をどけていた。

光と炎――旗印を支える二人の姿が民に勇気を与えていた。


だが、問題は「その先」だった。


◆ 臨時評議

救出を終えた後、大広間の残骸にて臨時の会合が開かれた。

各区の代表、退役兵、そして民兵の指導者たち。


「これ以上の混乱を防ぐには、暫定的に新しい“統治者”が必要だ!」

「いや、王制はもう終わった。評議で運営すべきだ!」

「解放者本人にこそ立ってもらうべきだろう!」


賛否両論が飛び交う中、アリエルは沈黙していた。


リリアが小声で呟く。

「民衆は、あなたに王の代わりを求めています……でも本当は――」


アリエルは目を閉じ頷いた。

「私は王にはならない。旗印であり、戦う者でしかない。……未来は皆で決めるべきだ」


その言葉は一部の代表には歓迎されたが、反発の声も同時に上がった。

「だが旗印の存在が大きすぎる! 結局、彼女の影響に街が呑まれる!」

「彼女が怪物になったら、王都は再び滅びる!」


アリエルは唇を嚙みしめ、それでも静かに答えた。

「恐れてもいい。……それでも私はここに立ち続ける」


会議は終わりを見ず、亀裂だけを残して散会した。


◆ 影の視点

その夜、王都から遠く離れた丘に二つの影が佇んでいた。セラフィエルとヴァルシュである。


「評議も民も揺れに揺れているわ。あとは少し糸を引けば、自然と裂ける」

女天使の微笑は冷酷だった。


ヴァルシュは記録帳を閉じ、満足げに呟く。

「“解放者は王ではない”と自ら宣言した――それを記録した。必ずその矛盾が彼女を蝕む」


セラフィエルの瞳が王都の灯を映す。

「旗印は大きければ大きいほど、いずれは民自身の影を呼び寄せる。……王都を守ったその力が、今度は分裂を呼ぶ」


二人は囁き合いながら姿を煙に溶かした。

王都はまだ静寂を保っていたが、地中に埋まった残骸の破片が、かすかな脈動を響かせていた――。


夜遅く。

アリエルは城跡の瓦礫に腰を下ろし、痛む左胸を押さえながら呟いた。

「……終わりはまだ遠い。でも、私がここに立つ意味は確かにある」


遠くでリリアの祈りの声と、カリサの笑い声が聞こえてくる。

それを聞きながら、アリエルは剣を膝に置き、薄い月光の中で目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ