第46話 進化する残骸、迫る新たな脅威
王都の空は依然として灰に覆われていた。
各地に散った「廃墟の芽」は、もはや植物の形を保たず、人々の恐怖を吸い上げるように姿を変え始めていた。
◆ 北区 ― カリサの戦場
炎槌を振るい続けるカリサの前で、焼き払われたはずの芽が再び形を成した。
ただの黒い巨樹ではない。鋼のように硬く絞られ、槍や刃の形へと変容していく。
「ちっ……今度は兵器の真似か!」
群生した芽は合わさり、まるで鎧武者のような巨影を作り出した。
その眼に当たる部分は虚ろでありながらも、“怒り”だけを宿している。
カリサは血を吐き捨て、槌を構えた。
「焼いて壊して叩き潰す! それが私の役目だ!」
轟音と共に、炎と黒影が北区を揺らす。
◆ 南区 ― リリアの戦場
水門に絡みついた芽は、リリアの光の鎖に何度も封じられていた。
しかし、今度は水を媒介に姿を変える。
黒い蔦が川面を這い、無数の人影を象りながら進みだしたのだ。
「幻影……? いえ、これは……!」
人々の「記憶」を模した姿が現れ、泣き声や懐かしい声を叫びながらリリアに迫る。
彼女自身の父母の声すら混じり、胸を刺し貫いた。
「……こんなものに、惑わされません!」
涙を流しながらも杖を掲げ、祈りの光を強める。
「私の記憶は私のもの……利用させはしない!」
川を渡る光の橋が展開し、幻影を次々と焼き消していく。
◆ 中央区 ― アリエルの戦場
王城跡に現れた最大の芽は、ついに塔のような高さにまで成長していた。
そして、そこから滴る残骸の黒い雫が地に落ちると――兵の姿をした影となって歩き出す。
「これは……廃墟の主の模倣……?」
アリエルは胸の痛みに耐え、剣を構える。
紅黒金の光は揺らぎながらも強く輝き、兵影を次々となぎ払う。
しかし塔の中心で、新たな鼓動が生まれていた。
巨木の幹のように膨れた部分に、赤黒い光点――まるで第二の心臓が形成されつつある。
「……言っていた通り……廃墟は“種”を残していた。これが”次”になる前に、止めなければ……!」
彼女の剣先が震える。
胸の裂け目はさらに広がり、金と黒の光が入り混じって暴れ狂う。
影の声が囁いた。
『選べ……新たな廃墟を断ち切るか……お前自身を守るか……』
アリエルは歯を食いしばり、吐血しながらも声を張った。
「私は守るも壊すも選ばない! ……“繋ぐ”んだ!!」
刃に宿る光が閃き、兵影を一掃する。
だが第二の心臓は脈動を強め続け、確かな災厄の胎動を告げていた。
王都全域で芽は進化を始め、人々の不安を糧に新たな “存在” に変わろうとしていた。
それぞれの戦場で仲間たちが必死に踏みとどまる――
だが、この戦いはもはや「残骸の掃討」ではなく、「新たな廃墟の誕生」を阻止する決戦に繋がりつつあった。




