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第45話 芽吹く災厄、分かたれる旗

王都の夜明けは赤黒く濁っていた。

東区で「廃墟の芽」が倒された直後にも関わらず、城下の各所から次々と悲鳴が上がる。


「北区にまた黒い芽が!」

「南の水門が飲み込まれている!」

「市場にも影が……!」


人々は逃げ惑い、瓦礫に崩れた街は再び混乱へと陥った。


アリエル・ローゼンベルクは胸の裂け目を押さえたまま立ち上がる。

「……やはり、残骸はあちこちに種を残していたのね」


カリサが大槌を握り、険しい顔で言った。

「全部をあんた一人で相手取るのは無理だ。ここからは分かれて叩くしかねえ」


リリアも強く頷く。

「アリエル様は一番大きな芽を。この二人で散らばる芽に当たります!」


アリエルは二人を見つめ、しばし言葉を呑んだが……やがて微笑んだ。

「……分かった。なら託す。生きて戻ってきて」


三人は短く拳を合わせ、それぞれの戦場へ向け走った。


北区。

カリサは瓦礫の街角で、再生を繰り返す「芽」の群れに対峙していた。

その幹は鉄骨を飲み込み、燃え盛る家屋ごと巨樹に変わっていく。


「こんなもん……火力で押し切るしかねえ!」


大槌を振りかぶり、全身の魔力を炎に集中させた。

彼女の渾身の一撃は大地を割り、芽をまとめて焼き尽くす。

「俺は俺のやり方で支える……アリエル、絶対に倒れるなよ!」


南区の水門。

リリアは詠唱を重ね、流れ込む芽の根を光の鎖で封じ込めていた。

「再生するなら、その度に祈りで縫いとめる……!」


しかし光と影のせめぎ合いは苛烈で、彼女の身体も徐々に削がれていく。

それでも彼女は迷わなかった。

「アリエル様が一人で背負わないように……私が必ずここを護る!」


そして中央区。

アリエルは最も巨大な「芽」の前に立っていた。

それは王城跡地を覆い尽くす黒い塔となり、因果の鎖を空へ伸ばす。


周囲には群衆が怯えて取り残されており、逃げ場はない。


「ここで……止める」


胸の裂け目が痛みを増し、視界が霞む。

影の声が再び忍び寄る。

『力を差し出せば楽になれる……抗うのは無駄だ……』


だが、遠くから届く仲間の声がそれを打ち払う。

――「絶対に倒れるなよ」

――「私が必ず護ります」


アリエルは剣を握り直し、膝を地に叩きつけるように立ち上がった。

「無駄じゃない。私たちは旗を分け合ってる……私だけの戦いじゃない!」


紅黒と金の光が剣に宿る。

そして彼女は巨大な芽へ――突き進んだ。


王都全域で、解放者と仲間たちがそれぞれの戦場を支え合い、抗い抜く。

人々はそんな姿に声を上げた。


「解放者に続け!」

「皆で街を護るんだ!」


――芽吹く災厄はまだ終わらない。

だが確かに、王都には新たな秩序と希望の炎が広がり始めていた。

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