第45話 芽吹く災厄、分かたれる旗
王都の夜明けは赤黒く濁っていた。
東区で「廃墟の芽」が倒された直後にも関わらず、城下の各所から次々と悲鳴が上がる。
「北区にまた黒い芽が!」
「南の水門が飲み込まれている!」
「市場にも影が……!」
人々は逃げ惑い、瓦礫に崩れた街は再び混乱へと陥った。
アリエル・ローゼンベルクは胸の裂け目を押さえたまま立ち上がる。
「……やはり、残骸はあちこちに種を残していたのね」
カリサが大槌を握り、険しい顔で言った。
「全部をあんた一人で相手取るのは無理だ。ここからは分かれて叩くしかねえ」
リリアも強く頷く。
「アリエル様は一番大きな芽を。この二人で散らばる芽に当たります!」
アリエルは二人を見つめ、しばし言葉を呑んだが……やがて微笑んだ。
「……分かった。なら託す。生きて戻ってきて」
三人は短く拳を合わせ、それぞれの戦場へ向け走った。
◆
北区。
カリサは瓦礫の街角で、再生を繰り返す「芽」の群れに対峙していた。
その幹は鉄骨を飲み込み、燃え盛る家屋ごと巨樹に変わっていく。
「こんなもん……火力で押し切るしかねえ!」
大槌を振りかぶり、全身の魔力を炎に集中させた。
彼女の渾身の一撃は大地を割り、芽をまとめて焼き尽くす。
「俺は俺のやり方で支える……アリエル、絶対に倒れるなよ!」
◆
南区の水門。
リリアは詠唱を重ね、流れ込む芽の根を光の鎖で封じ込めていた。
「再生するなら、その度に祈りで縫いとめる……!」
しかし光と影のせめぎ合いは苛烈で、彼女の身体も徐々に削がれていく。
それでも彼女は迷わなかった。
「アリエル様が一人で背負わないように……私が必ずここを護る!」
◆
そして中央区。
アリエルは最も巨大な「芽」の前に立っていた。
それは王城跡地を覆い尽くす黒い塔となり、因果の鎖を空へ伸ばす。
周囲には群衆が怯えて取り残されており、逃げ場はない。
「ここで……止める」
胸の裂け目が痛みを増し、視界が霞む。
影の声が再び忍び寄る。
『力を差し出せば楽になれる……抗うのは無駄だ……』
だが、遠くから届く仲間の声がそれを打ち払う。
――「絶対に倒れるなよ」
――「私が必ず護ります」
アリエルは剣を握り直し、膝を地に叩きつけるように立ち上がった。
「無駄じゃない。私たちは旗を分け合ってる……私だけの戦いじゃない!」
紅黒と金の光が剣に宿る。
そして彼女は巨大な芽へ――突き進んだ。
王都全域で、解放者と仲間たちがそれぞれの戦場を支え合い、抗い抜く。
人々はそんな姿に声を上げた。
「解放者に続け!」
「皆で街を護るんだ!」
――芽吹く災厄はまだ終わらない。
だが確かに、王都には新たな秩序と希望の炎が広がり始めていた。




