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第44話 再建の誓い、揺らぐ市街

夜が明け、王都は荒廃した姿を露わにした。

焼け落ちた通りには瓦礫が積み重なり、負傷者の呻きが響く。

それでも人々は立ち上がり始め、崩れた建物を片づけ、互いに水と食糧を分け合っていた。


「……鎖に縛られなくなった分、自分たちで動かねばならぬのだな」

「解放者のために、この街を立て直すんだ!」


一部の人々は希望に燃えていた。

だが、別の声も確かに存在していた。


「アリエルがいる限り、再び廃墟が目覚めるのではないか……」

「異形の力を抱え込んだ者を旗印にしてよいのか……」


歓喜と恐怖。街は両極の声に割れ続けていた。


王城跡。

アリエル・ローゼンベルクはまだ胸を押さえ、ようやく立てる状態だった。

裂け目は黒と金が混ざるまま鼓動を続け、完全には癒えていない。


リリアが不安げに囁く。

「……アリエル様。もしその力が再び暴れ出したら、人々の声はあなたを見放してしまうかもしれません」


アリエルはそれを承知の上で微笑みを浮かべた。

「怪物と呼ばれようとも構わない。私が倒れれば、また新たな鎖が人々を縛る。……だから歩き続ける」


カリサが拳を鳴らし、短く笑った。

「なら俺は支えるだけだ。世話が焼ける旗印だよ、まったく」


三人が立ち上がったその時――。


王都の東区から悲鳴が上がった。


「逃げろォォォッ!」

「黒い芽が、家を飲み込んでいる!」


アリエルたちは即座に駆け出す。


現れたのは、地面から突き出した黒い樹木のような異形だった。

枝先は因果の糸を模しており、触れた家屋をまるで腐らせるように崩壊させていく。


リリアが蒼ざめる。

「これは……廃墟の主の残骸……!」


カリサが叫び、大槌を振るう。

「なら根っこごとぶち砕くだけだ!」


槌が幹を砕くが、破片から芽が再び伸びる。

焼いても斬っても分裂して再生する、厄介な「芽」だった。


アリエルが剣を構える。

胸の疼きは再び強まるが、彼女は叫んだ。

「……生き残りを逃がせ! 私が、この芽を断つ!」


〈因果断絶〉の閃光が枝を切り裂き、黒い破片が宙に飛ぶ。

だが金の輝きを帯びない斬撃では芽が再生を止めない。


「……普通の断絶じゃ効かない……!」


胸の裂け目が熱を帯びる。

影の声がまた囁く。

『お前が私を受け入れなければ、この芽は止められない……』


だが今回は、恐怖より仲間の声が勝った。


「アリエル様! あなたは一人じゃありません!」リリアが叫ぶ。

「俺が止めとく! お前は全力で狙え!」カリサが枝を押し返す。


アリエルは深呼吸し、剣に手を添えた。

「……なら、“今”を信じて斬る!」


紅黒と金を溶かし合わせた光――〈黎明ノ刃〉が再び走る。

閃光が芽の中心を切り裂き、その根を焼き尽くす。


黒い残骸が悲鳴のような音を立てて崩れ落ち、周囲の枝も霧散して消えた。


人々は恐怖に震えながらも歓声を上げる。

「アリエルが……また守ってくれた!」

「……やっぱり彼女しかいない!」


だが同時に恐れの声も。

「あの光は……廃墟の力そのものだ……」


アリエルは剣を下ろし、黙ってその両方の声を受け止めた。


「……いい。希望と恐怖、どちらも背負う。それが旗印として生きることだから」


空はようやく朝焼けを迎え始めていた。

だが地下で芽吹いた残骸は一つではないことを、まだ誰も知らなかった――。

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