第43話 王都再建、芽吹く残骸
夜が明けた王都の空は、まだ煙に霞んでいた。
黒い柱は消えたが、街は崩れたまま、瓦礫と傷だらけの人々の呻き声に満ちている。
広場の中央、アリエル・ローゼンベルクは人々の前に立っていた。
その胸には依然として〈光と影〉の裂け目が残り、脈動を続けている。
それを見上げる人々の瞳には、感謝と畏怖の両方が宿っていた。
民衆の中から叫びが上がる。
「彼女がいなければ、俺たちは皆死んでいた!」
「解放者だ! アリエルこそ旗印だ!」
だが別の声も重なる。
「……だが、あの裂け目は何だ……」
「怪物と同じ力を抱えたままじゃ、再び王都を滅ぼすかもしれん!」
賛美と恐怖の声が入り乱れ、群衆は一つの答えを出せずに揺れていた。
リリアは必死に声を上げる。
「皆さん! アリエル様はあなたたちのために戦い続けたのです! この力は危険かもしれません、でもそれ以上に、この国を救う希望です!」
カリサも炎槌を地に叩きつけ、荒々しく叫ぶ。
「臆するな! あんたら、この旗を失えばまた鎖に縛られるだけだ! 怪物になるかどうかなんて――俺たちが支えればいいだろ!」
人々のざわめきは収まらなかったが、少なくとも「見守る」「共に進む」という気配が一部に芽生え始めた。
アリエルは疲弊した身体で微笑み、短く告げる。
「……私は旗を下ろさない。怪物でも反逆者でも、それで未来を切り拓けるなら構わない」
その言葉は人々の胸に深く突き刺さった。
恐れと希望を抱えながらも、民衆は新たな秩序を模索し始めた。
――だが一方で。
街の外れ、倒壊した塔の残骸の奥。
地中に埋もれた“心臓の破片”が、静かに脈動を始めていた。
欠けた鼓動は、王都の大気を揺らし、黒い芽のような残骸が地を突き破る。
それを遠くから見下ろす二つの影――セラフィエルとヴァルシュ。
「やはり完全には終わらなかったわね」
セラフィエルは冷ややかに微笑む。
ヴァルシュは記録帳を開き、淡々と書き記す。
「“廃墟は倒れても種を残す”……これも歴史に記されるべき流転だ」
セラフィエルが視線を王都の中央、アリエルの方角へ向ける。
「彼女がどれほど旗を掲げても、この芽は彼女を追う運命。いずれ解放者か、怪物かを決めさせられる」
黒い残骸は幼体にも似た影の形をとり、地を這って広がっていく。
王都再建の火は確かに灯った。
だが同じ時、滅びの芽もまたここで芽吹いたのだった。




