第42話 戦後の王都、揺らぐ秩序
黒い柱が消え去った夜、王都は初めて「静寂」を取り戻していた。
だがそれは安堵ではなく、恐怖と混乱の余韻を孕んだ沈黙だった。
大聖堂の崩壊した地下から、アリエル・ローゼンベルクは仲間に支えられながら地上へ戻ってきた。
空には煙が漂い、焼けた街並みの中で民衆が彼女を見つめている。
「……本当に終わったのか」
「反逆者が……怪物を討った……」
「いや……彼女がいなければ、俺たちは滅んでいたんだ……!」
恐怖と感嘆が入り混じった囁きが広がる。
アリエルはまだ立つのも難しいほど消耗していた。
胸の裂け目は完全には塞がらず、黒と金の光が交錯したまま脈動している。
だがその姿にこそ、民は“救いと畏れ”の両方を覚えていた。
リリアは必死に周囲へ告げる。
「……アリエル様は、皆さんを救うために戦ってくださったのです! 怪物ではありません!」
だが民の中から叫ぶ者もいた。
「だとしても、あの力は危険だ!」
「いつ彼女自身が“次の廃墟”になるか分からん!」
ざわめきが広場を満たし、王都は「解放の歓喜」と「新たな不安」に引き裂かれた。
カリサが舌打ちする。
「チッ……このままじゃ内部から分裂する。せっかく廃墟を倒しても意味がねえ」
アリエルは唇を噛み、ようやく声を振り絞る。
「皆……恐れるのも当然よ。でも私は、旗印を下ろさない。反逆者でも怪物でもいい……この国を導くために生き続ける」
その言葉に、一部の人々は涙を浮かべ、拳を握りしめた。
「……解放者だ……!」
だが別の者たちは怯えながら背を向ける。
それが現実。解放の後も、道は割れていく。
夜空の月を仰ぎ、アリエルは静かに呟いた。
「ここからが本当の戦い……この手に残った光と影を、どう使うかで未来は決まる」
――そして場面は移る。
王都から遠く離れた廃墟の裂け目の縁。
そこに二つの影――セラフィエルとヴァルシュが佇んでいた。
セラフィエルは薄笑みを浮かべる。
「……面白い結末だったわね。廃墟を内に抱えたまま、“滅びを力に換える”なんて」
ヴァルシュは羽ペンを走らせ、淡々と応じた。
「記録された。彼女は廃墟を討ちつつも、その魂は半ば廃墟に染まった。つまり――次の頁は“人か怪物か”だ」
二人の背後で、かすかな黒い脈動が再び蠢く。
廃墟は滅びてはいなかった。断たれた心臓の残骸が、別の地で胎動を始めていたのだ。
セラフィエルは夜風に髪を靡かせ、囁くように言う。
「彼女が選ぶ道……その先で、この世界の秩序は完全に変わるでしょうね」
――王都は解放された。
しかし、新しい秩序の萌芽と、残された影の胎動により、未来はなお不確かなままだった。




