第4話 刹那の因果断絶、砕け散る華宴の夜
重厚なシャンデリアの光が舞踏会場を柔らかく照らしていた。王都の貴族たちが煌びやかな衣装で集い、表面上は華やかな宴が繰り広げられている。
だが、その下に蠢く悪意は誰の目にも見えない。
アリエル・ローゼンベルクは高貴なドレスに包まれ、紅い瞳で周囲を冷徹に見渡した。
「今夜、この一歩で全てが動き出す――」
幼馴染のメイド・リリアが静かに差し出す小さな巻物を手に取り、彼女は息を整えた。
舞踏会の大広間では、義母リュシエールが王侯貴族の間を巧みに泳ぐように歩き、笑みを浮かべながらも目に宿る冷え断つ狡猾さが隠せない。
「アリエル殿、どうかこの宴を楽しんでいただきたいな」
そう皮肉を込めた言葉を投げつけられた。だがアリエルの表情に動揺は一切ない。
花のように美しいその笑みは、復讐の刃をひそかに研ぐ鋼の如き冷酷さの仮面に過ぎなかった。
時は満ちている。アリエルは心の中で、因果断絶の呪文を力強く唱える。
「断ち切れ、偽りの糸。崩壊せよ、その華麗なる鎖」
彼女が軽く指を鳴らすと、会場の空気が一瞬凍りつくように張り詰めた。
そして、幾重にも絡んだ運命の糸が音もなく断ち切られていく様が、アリエルにははっきりと視えた。
その結果、リュシエールが計算に織り込んでいた一枚のカードが揺らぎ出した。
舞踏会の主催者であるリュシエールの盟友、侯爵ヴィクトルが突然苦悶の表情に変わる。胸を押さえ、倒れこみそうになる彼をアリエルは見逃さなかった。
「これが……因果断絶の力」
だが、この一手は確かな代償を伴った。
アリエルの胸に冷たい激痛が走り、意識が遠のきかける。
「…やはり、これは私の命を少しずつ奪う呪いの刃……」
それでも立ち上がる。許せない感情が彼女を支えていた。
リリアが傍らでそっと見守る。
「アリエル様、この勢いで次の動きを」
「ええ、行動は迅速に。まだ見ぬ敵も多い。油断は禁物」
そのとき、大広間の隅で義妹セレナが鋭い視線をアリエルに向けていたことに、誰も気づかなかった。
薄く歪んだ微笑みとともに、セレナは低く言葉を漏らす。
「姉様、私たちの勝ちにはまだ早いわよ」
夜はまだ深まったばかり。運命の糸はさらなる絡まりを見せながらも、今、確実に動き出していた。