第37話 滅びの影、継がれる真実
廃墟の大聖堂を揺らす激突は、なおも続いていた。
アリエル・ローゼンベルクの剣は紅と黒、さらに金の光を帯び、影の分身の刃に食い込み押し返す。
「なぜだ……!」
分身がうめいた。
「お前は私だ……滅びに堕ちる未来だ……なぜ抗える!?」
アリエルの声は揺るがず、胸の痛みに耐えながら叫ぶ。
「未来を失くした私に残っているのは“今”だけ! そして“今”を支えてくれる仲間がいる限り、滅びには屈しない!」
刃が火花を散らし、ついに分身の大剣が砕け散った。
影の身体が大きく揺らぎ、崩れかける。
「……馬鹿な。私はお前の終焉……」
声が揺らぎ、影は紅黒の霧へと溶け始めた。
アリエルは深く息を吐き、わずかに刃先を下げた。
「……もしあなたが私の“終わり”なら、その未来はここで断つ。私は進む……何度でも」
影の分身は嘲笑ではなく、微かに安堵するように口元を歪めた。
「ふ……やはり“終わり”も……お前の一部か……だが……忘れるな」
「何を……?」
「滅びは消えぬ。ただ……受け入れて進むしかない。……抗いと滅びは、同じ刃の両側……」
霧が完全に散り、分身は消滅した。
残響のようにその言葉だけが大聖堂に残る。
短い沈黙。
リリアが駆け寄り、震える手でアリエルの肩を支えた。
「……勝ったのですね。でも、その言葉……」
アリエルは紅黒の瞳を閉じ、深く頷いた。
「そう……滅びは私の中に残る。完全には消えない。それでも進む……選んだ以上は」
カリサが息を荒げつつ立ち上がり、大槌を背負った。
「なら次だ。影を斬ったってことは……もっと奥があるってことだろう」
まさにその時、大聖堂の床が低い唸り声を上げた。
黒い根が一斉に震え、空気が張り裂けるように震動する。
地下最深――地の底から、巨大な存在の鼓動が轟いた。
倒れかけの石柱が揺れ、因果の糸が蜘蛛の巣のように広がり、天井を裂いていく。
リリアが蒼ざめ、呟いた。
「……これは、分身ではありません……“本体”……!」
アリエルの胸の裂け目が灼熱に変わり、足元の影が揺らぐ。
「……廃墟の“主”が……覚醒する……」
黒い柱が大聖堂を突き破り、地上へ届こうと噴き上がる。
その柱の奥に、まだ姿を見せぬが確かに存在する「圧倒的な意志」が胎動していた。
アリエルは立ち尽くす仲間を振り返り、苦しくとも笑みを浮かべた。
「……次こそ、決戦よ。ここで止めなければ、この国も、この世界も呑まれる」
紅黒の光に金色の糸を帯びた刃を握り締め、大地の轟きを迎え撃つように、彼女は前へ進んだ。




