表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/78

第35話 深奥の胎動、影の分身

廃墟の根を断ち切った空洞は、なおも脈打ち続けていた。

切り裂かれた因果の糸は千切れながらも、さらに奥へと収束し、黒く輝く階段を形づくる。


「……呼んでるのか」

アリエル・ローゼンベルクは胸を押さえ、立ち上がった。

血と共に黒い紋様がさらに広がり、左の肩から頬にかけて浮き出ている。


リリアが慌てて止めようとする。

「アリエル様! もうこれ以上は……」


アリエルは静かに首を振った。

「ここで止まれば、王都ごと廃墟に沈む。……進まない選択はない」


カリサが大槌を担ぎ直し、低く呟く。

「なら、私たちも腹を括るしかねえな」


三人は黒い階段を降りていく。

次第に空気は重く、声が吸い込まれるように静かになった。

やがて辿り着いたのは、漆黒の大聖堂のような空間。


そこには、巨大な「影の人影」が待っていた。

輪郭は曖昧だが、その顔立ちはアリエルと瓜二つ――

だが今回は完全な幻ではなく、“主の影の分身”が自立した形を取っていた。


「……また私……?」

アリエルは剣を構えながら歯を食いしばった。


影の分身が揺らめき、低く笑う。

「違う。私はお前の“終焉の姿”。来世を捨て、廃墟を抱いたお前が必ず行き着く未来」


その言葉にリリアが蒼白になる。

「……つまり、それがアリエル様の……行き着く姿……」


影は巨大な刃を構え、一歩ずつ迫る。

因果の鎖が背後から伸び、無数の残骸を絡め取りながら迫ってくる。


「戦うしかない……!」

アリエルは因果断絶を発動し、閃光を放つ。

だが影の分身は紅黒の光をまったく同じ色で打ち消した。

二人の剣閃がぶつかり、廃墟の大聖堂が激しく揺れる。


カリサが援護しようと突進するが、鎖に絡め取られて吹き飛ばされる。

リリアも魔術を放つが、影が伸ばした黒い手に吸収されてしまう。


「……あなたたちに構っている余裕はない!」

アリエルは叫び、踏み込みざまに刃を振るった。


影は薄笑いで受け止め、冷たく囁いた。

「同じ刃で私を斬れると思うのか? 私はお前だ。お前の諦め、怒り、そして滅びだ」


一瞬、アリエルの剣が揺らぎ、影の刃が彼女の肩を深く抉った。

地に膝をつき、血が滴る。


「アリエル様!!」リリアの悲鳴。


視界が赤黒に染まる中、彼女は呻きながら顔を上げた。

影の分身はなおも静かに歩み寄る。


「抗いは無駄だ。お前は“廃墟の主”として滅び、私に変わる」


胸の裂け目が焼けるように熱し、影の囁きと一体化しそうになる。

だが、その中でアリエルは微かな声を思い出した。


――「どんな姿になっても、あなたはあなたです」


リリアの言葉。


その瞬間、彼女の紅黒の瞳に光が戻った。

剣を握り直し、血を垂らしながらも立ち上がる。


「……私は、未来を捨てた。でも、“今”を譲る気はない!」


影の分身と再び刃が交錯する。

廃墟の地下での決戦の序章が、ついに幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ