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第33話 廃墟地下、囁きの迷宮

黒い光柱を背に、アリエル・ローゼンベルクたちは地下への崩れた通路を進んでいた。

湿った空気は常の土臭さではなく、どこか鉄と血が混ざるような臭気。

壁は石ではなく、因果の糸が編み込まれた脈打つ膜で形成されている。


リリアが肩をすくめ、声を潜める。

「……ここは……城の地下とはもう別物ですね」


アリエルは頷き、紅黒の瞳で闇を鋭く射抜いた。

「これは“廃墟”が作り出した迷宮。私の中の裂け目と呼応して、現実と幻が溶け合ったもの」


カリサが大槌を背負い直し、苛立つように壁へ拳を叩きつける。

「因果の糸でできた壁だと……こいつら全部が敵みたいじゃねえか」


その瞬間、壁から光の糸がほどけ、人影の形を結び始めた。

兵士、子供、老人、商人……見覚えのある市民たちが次々と浮かび上がり、無数の幻影となって通路を塞ぐ。


リリアが思わず後ずさる。

「……街の人々……? いえ、これは記憶を模した糸……!」


幻影の群れが囁きながら歩み寄ってくる。

『解放者……反逆者……お前は廃墟の主……』

『選択を誤れば……この街も……この人々も……』


声が幾重にも重なり、胸の裂け目が疼く。

アリエルは歯を食いしばり、剣を構えた。


「黙れ……あなたたちは幻。けれど――ここで立ち止まれば、本物も救えない!」


紅黒の剣閃が走り、幻影の群れを一閃で薙ぎ払う。

だが切り裂かれた影は霧散せず、細かな糸となって再形成しようと絡まり合う。


カリサが咆哮し、炎槌を振り下ろした。

轟音と共に炎熱が糸を焼き、幻影を押し返す。

「やけにしつこいな……!」


リリアは詠唱の光で仲間を守りながら声を上げた。

「恐らくこれは、王都に生きた人々の“来世の因果”を写し取ったもの! 倒しても、記録が残っている限り再生します!」


アリエルは胸の裂け目の疼きを飲み込み、低く答えた。

「なら……因果そのものを断つ!」


剣を掲げ、地を震わす一歩と共に〈因果断絶〉を放つ。

紅黒の衝撃波が広がり、幻影の糸が軋みを上げながら分断された。

今度は再生しない――核心を断ち切ったからだ。


静寂。迷宮を覆う息苦しさがわずかに和らぐ。


リリアが安堵の息を吐き、カリサが肩を鳴らす。

「やれやれ、これが地下の“最初”の試練か。先が思いやられるな」


アリエルは前を見据えた。

迷宮のさらに深くから、再び低いうねりが響いてくる。

――鼓動のような、巨大な存在の息吹。


「この先に……廃墟の根がある。そして、それに巣食う“主の影”が……」


彼女は胸の痛みを抱きつつも歩みを止めなかった。

地下迷宮は囁きを絶やさず、彼女たちをさらに奥へと誘っていく。

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