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第32話 王都地下、廃墟の胎動

解放から一日が経った王都は、まだ混乱の中にあった。

各区では瓦礫が積み重なり、人々は必死に食糧を分け合い、兵を失った街路で自警団を組み始めている。

だが歓声も残っていた。


「鎖は断たれた!」

「もう因果に縛られない!」


人々はアリエル・ローゼンベルクを反逆者ではなく、「解放の旗印」と呼び始めていた。


広場の片隅――アリエルは黒衣を纏い、剣を膝に置いたまま目を閉じていた。

胸の裂け目は熱と冷気を繰り返し、心臓に迫るように広がっている。

「……まだ、大丈夫」

小声で呟き、己に言い聞かせる。


リリアが寄り添い、湯気の立つ水を差し出した。

「アリエル様……どうかご自分の体をもう少し……」

「時間がないのよ、リリア。感じるの。この大地の下で……何かが呼吸してる」


言葉が終わる直後、王都全体が揺れた。

瓦礫が崩れ、遠くで建物の塔が傾く。

大地の深層から、低く不気味な脈動が鳴り響いた。


「……来たか」

カリサが大槌を握りしめ、険しい顔を向ける。

「音が地下から響いてる。まるで……巨大な獣が目を覚ましたみたいに」


広場に集まった人々が怯え始める。

異様な霧が路地から噴き出し、人々の影を不自然に伸ばしていく。


そして――地面が裂け、黒い光の柱が天を突いた。

その表面には歪んだ因果の鎖が絡みつき、無数の囁きが夜空を満たす。


『来世を失くした者よ……主を完成させよ……』


人々が耳を塞ぎ、次々と膝を折る。

アリエルだけが、赤と黒の瞳でその光を睨み返した。


「……私の中の廃墟と呼応してる。あれを放置すれば、王都ごと呑み込まれる」


リリアが恐怖を押し殺す。

「……行くのですか? あの地下へ」

「ええ。今や“廃墟”は私自身。その胎動を止められるのも、私だけ」


カリサがアリエルの隣に立つ。

「なら私も行く。あんた一人で抱え込んだら、本当に呑まれる」


リリアも迷いなく頷く。

「私も。……一度救ってくださった命です。最後まで共にあります」


アリエルは微かに笑みを見せ、剣を握り直す。

「……ありがとう。では行きましょう、王都の地下へ」


夜空に黒い柱が轟き、街を覆う影が広がる。

戦いは地上から地下へ――廃墟の胎動の根源へと舞台を移そうとしていた。

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