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第31話 解放の余韻、蠢く影

夜の王都に、戦火の煙が立ち昇っていた。

広場にはまだ瓦礫と血の匂いが残り、崩れた建物の影で人々の声が交錯する。


「……奴らの鎖はもうないのか?」

「アリエル様が断ってくださったんだ!」

「反逆者じゃない、私たちを救った“解放者”だ!」


歓声と涙。だが同時に、不安と混乱が街に蔓延する。

食糧をどうするのか、次に何が起きるのか――秩序を失った王都は〝自由と混乱〟の両方に揺れていた。


アリエル・ローゼンベルクは広場の瓦礫に座り込み、荒い息のまま空を仰いでいた。

胸の裂け目は心臓を背後から掴むように痛み、黒い紋様は鎖骨にまで伸びている。


「……生きてはいる。でも……猶予は、そう長くない」

彼女は唇をかすかに噛んだ。


リリアがすぐそばで介抱にあたる。

「アリエル様、どうか少しでも体を休めて。民衆はあなたを信じています。しかし……あなたが倒れてしまえば……」


そこへ、兵を従えたカリサが現れた。

炎槌を肩に担ぎ、硬い表情で報告する。

「各区で民が武器を取って蜂起した。近衛の一部も脱走し、こちらに加勢している。……だが秩序が保てない。王都が崩壊しかねない」


アリエルは瞳を細めて答える。

「秩序など、古い因果に束ねられた幻だった。……なら私たちが、新しい秩序を示すしかない」


リリアが驚き、カリサも眉をひそめる。

「……あなたが、王になるつもりですか?」


アリエルは首を横に振る。

「王ではなく、旗印よ。誰かが前を照らす役として立つだけ。それで人々が自ら進めるなら、それでいい」


二人が答えようとしたその時、地面が低く震えた。

瓦礫の隙間から、不気味な囁きが吹き出す。


『来世を捨てた娘……廃墟はまだ眠らぬ』


アリエルの胸が痛み、汗がにじむ。

「また……声が……!」


リリアが支えるが、振り払うように頭を振る。

「違う、これは……私を呼ぶ声じゃない。誰か別の……場所からの声……」


場面は変わり、王都地下深く。

崩れた因果牢獄の根に、漆黒の空洞が口を開けていた。

そこに立つのはセラフィエルとヴァルシュ。


「……想定より早く目覚め始めたわ。廃墟そのものが、王都の下で胎動している」

セラフィエルの声は愉悦を帯びていた。


ヴァルシュは記録の羽ペンを広げ、地下に蠢く黒い光を映す。

「廃墟は“主”を得て、完全な力を発揮する……そしてそれが史に記される時、この王国は本当に終焉を迎える」


セラフィエルの背に漂う因果糸が光り、彼女は小さく笑んだ。

「さあ、どこまで抗ってくれるかしら、アリエル・ローゼンベルク」


夜空の月が曇り、戦いの余韻は新たな恐怖の胎動へと変わろうとしていた。

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