第26話 呼応する民、迫る包囲網
王城の天頂を突き破った光柱は、王都の隅々にまで届いた。
兵士たちも市民も、誰もが空を見上げ、巨大な閃光の軌跡を目に刻む。
「……あれが、反逆者アリエル……!」
「怪物だという噂は本当だったのか……」
「いや……あれは……私たちのために戦っているのでは……?」
囁きと恐怖、そして小さな憧憬が、民衆の間で同時に膨れ上がっていく。
王城の広場に転がる瓦礫を背に、アリエル・ローゼンベルクは剣を下ろした。
息は荒く、胸の裂け目はさらに脈動を強めていたが、紅黒の瞳は確かに生きて燃えている。
リリアが駆け寄り、囁く。
「アリエル様……! 街全体が、あなたの姿を目撃しました……これで、もはや後戻りは……」
「それでいい。戻る必要なんて最初からない。私は進むだけだから」
その時、群衆の中から一人の若者が走り出てきた。
薄汚れた外套を纏いながらも、その声は澄んでいた。
「アリエル! 俺たちは見た……! あんたが王族の因果に抗い、兵を退ける姿を! あんたこそ俺たちの旗だ!」
その叫びに呼応するように、他の市民たちも声を上げる。
「反逆者? 違う、解放者だ!」
「アリエルに続け! 王族の鎖を断て!」
リリアが驚いて振り返る。
「……民衆が……あなたを支持して……!」
だが、その歓声を即座に打ち消すように、広場の四方から軍勢が殺到した。王都を守る近衛の精鋭部隊。
鉄の靴音が地を揺らし、数百の兵が一斉に槍を構える。
先頭に立つ将校が声を張り上げた。
「反逆者アリエルを包囲した! 市民どもは散れ! 従わぬ者は同罪とみなす!」
民衆の支持と、王権の武力――王都の空気が一瞬で引き裂かれる。
リリアが不安げに囁く。
「アリエル様……この数は……」
だがアリエルは前へ出て、剣を掲げた。
「恐れるな! 因果の鎖は、必ず断ち切れる! ここが、この国の未来を決める地だ!」
紅黒の閃光が剣から奔り、空を切り裂く。
その瞬間、民衆の中から十数人が武器を取り、兵に立ち向かう姿を見せた。
小さな火種だが、その決意は確かに広がっていた。
将校が怒声を上げる。
「この場で討ち取れ! 一人も逃すな!」
兵の槍衾が一斉に突き出される――。
アリエルは剣を握り直し、低く呟いた。
「……来なさい。私は反逆者であり、同時に解放者でもある。それは誰にも止められない」
そして彼女は、紅黒の影を纏い、軍勢へと突き進む。
群衆の怒号と歓声が交錯し、王都はまさに全面戦へと突入していった。




