表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/78

第24話 影の決着、因果を抱く者

廃墟の空が鳴動していた。

赤と黒に染まる虚空の中で、二本の剣が激しく何度もぶつかり合う。

響きは幻の王都にも反響し、崩れかけた街が剣声のたびに崩落と再生を繰り返す。


黒いアリエルが低く笑う。

「力は拮抗している。だが、お前の身体はもう限界だ」


アリエル・ローゼンベルクの膝は確かに震えていた。胸の裂け目はこれまでにない速さで脈動し、視界には赤いノイズが走る。

だが、その中で彼女は苦笑すら浮かべた。


「弱さを突かれるのは慣れている……でも、私は倒れるためにここまで来たんじゃない」


剣と剣が再び火花を散らす。だが次の瞬間、黒いアリエルが刃を止めた。

笑みを消し、低く囁く。


「なら問う。お前は何故、来世を捨ててまで今を選んだ? 本当にリリアの命だけが理由か?」


胸に痛みが広がる。答えられない。

だが確かに、自分の決意は“復讐”と“仲間を救う想い”の狭間に揺れ続けていた。


「……私は……」

その時、不意にリリアの声が遠くから届く。

『アリエル様! 私はここにいます! どんな姿になっても、あなたはあなたです!』


その叫びが胸に熱を灯した。

アリエルは剣を下ろし、黒い自分をまっすぐ見据える。


「そうね……私は自分のために戦っている。そして、それを支えてくれる人のためにも進んでいる」


黒いアリエルの瞳に、一瞬だけ揺らぎが生じた。


「……矛盾している。だが、その矛盾こそが人間か」


彼女は唐突に剣を下げ、紅黒の光に溶けていく。

「よかろう。お前が抱えられるというなら、私はお前の一部として残ろう」


身体に冷たい刃の感覚が走り、一瞬息を呑む。

しかし苦痛ではなく、不思議な安定だった。

黒い自分は完全に消滅することなく、胸の裂け目に吸い込まれ、内側へと溶け込んでいったのだ。


静寂。

廃墟の空に亀裂が広がり、世界が再び現実へと戻されていく。


リリアが駆け寄り、涙交じりに笑う。

「アリエル様……! ご無事で……!」


アリエルは頷き、左手を見下ろした。

そこには黒い紋様が消えず残っていたが、不思議と痛みは和らいでいる。

それは影を受け入れた証。


高みからヴァルシュの声が響く。

「……選んだか。影を滅ぼさず抱えること。それが歴史にどんな結末を記すのか、見届けさせてもらおう」


そしてセラフィエルの冷ややかな声が続いた。

「廃墟を抱いた娘……面白い余興になりそうね。だが、選んだ以上は抗い続けること。でなければ、すぐに呑まれる」


アリエルは紅い瞳を細め、玉座の間の残滓を睨んだ。

「怪物と呼ばれても構わない。でも私は、“私”として進む」


王家の心臓はなお脈動を続けている。

そしてその鼓動は、王国中の因果を確かに揺さぶり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ