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第23話 廃墟の胎動、黒き鏡との邂逅

光の爆発が収まった時、王家の心臓の間はもはや別の空間になっていた。

壁も天井もなく、赤黒い空が広がり、足元には崩壊した王都の幻影が果てしなく延びている。


アリエル・ローゼンベルクはその中心に立っていた。

紅の瞳には黒い縁が渦を描き、左手の“裂け目”は鼓動に合わせて蠢いている。


「……ここは……」

かすれた声に応えるのは、すぐ目の前から聞こえる自分自身の声。


「ここは廃墟。お前が来世を捨てたことで開かれた、もう一つの因果世界」

現れたのは“黒いアリエル”――同じ顔、同じ瞳の色だが、全身が影と黒炎に包まれている。


「お前は私……?」


「そう。お前が選ばなかった可能性、捨てた後悔、封じ込めた怒り……全てが私だ」

黒い自分は一歩近づくたび、周囲の幻影が崩れ落ちていく。


背後ではリリアの叫びが聞こえる。しかし、足元の空間はガラスのように割れ、二人は別れた世界に隔てられてしまっていた。


そこへ低い声が割って入る。

ヴァルシュが廃墟の空を踏みしめ、淡く光る羽ペンのような武器を手に現れた。

「予定通りだ。セラフィエル、聞こえているな?」


遠く、幻影の空の裂け目からセラフィエルの声が降り注ぐ。

「ええ……廃墟の主が己の影と対峙する瞬間こそ、因果を“再編”する好機」


アリエルは彼らを睨みつける。

「……やはり、最初から狙っていたのね。この力を兵器のように使うために」


ヴァルシュは笑わなかった。

「兵器ではない。“選択の記録”だ。お前が影を討てば、因果は再び一つに統合される。討てなければ……お前は完全に廃墟に呑まれる」


黒いアリエルが微笑む。

「さあ、どちらを選ぶ? あの時と同じように」


選択。

リリアを救うために来世を捨てた時と同じ、魂を削る選択の時。


黒い自分が疾風のように踏み込み、刃がぶつかる。

衝撃は現実と廃墟の両方を震わせ、王都の幻影が一斉に揺らいだ。


互いの剣圧が拮抗する中、黒いアリエルが囁く。

「私を斬れば、リリアは本当に救われるかもしれない。だが同時に――お前は完全に怪物になる」


胸の奥で、黒い裂け目がさらに広がる音がした。

アリエルは歯を食いしばり、紅と黒に染まる瞳で影を睨み返す。


「怪物でも構わない……でも、“私”をあなたに譲る気はない!」


渾身の力で刃を振り抜く。廃墟の空が悲鳴を上げ、因果の糸が無数に弾け飛んだ。


世界は再び揺れ、現実と幻の境が壊れ始めていく――。

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