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第2話 暗闇に潜む毒牙と因果断絶の誓い

訂正しました。

重苦しい夜霧に包まれたローゼンベルク邸の図書室。


星明かりのほとんど届かぬその薄暗い空間で、アリエルは静かに机に突っ伏していた。冷え切った心が執拗な痛みを奏でている。


「……このまま、許せるはずがない」


彼女の指先で、古ぼけたペンダントを握り締める。


それは幼い頃からずっと彼女の胸元にあった、母からの形見の品。


「私の大切な人を奪ったあの呪われた家族を、今度こそ裁くのよ」


ぶつける先のない怒りが、次第に冷静さを甦らせる。


「因果断絶……」


アリエルは薄暗い室内で声を潜める。独り占めしたその能力は、運命の糸を断ち切り、事象の連鎖を解き放つ。


しかし、使うたび彼女自身の心は冷たく凍りつき、まるで凍てついた刃が胸を刺すような苦痛が走った。


「逃げては駄目だわ。私は既に覚悟はできているはず」


記憶の底から湧き上がる衝動は、失われた幼き日々の邪悪な影の幻影。


あの日、継母リュシエールの冷笑に全てを持っていかれた。


「セレナ。あの子も同じ血を分けた妹……いや、仮初の姉妹ね」


苦渋の声が微かに漏れる。義妹でさえ、自分の敵。


だが、彼女だけを無下にするわけにもいかない。


「すべてが壊れる前に、先手を打つの」


アリエルは立ち上がった。剣の柄に手をかけるその所作に、格段の冷徹さが宿る。


「第一段階は情報掌握。味方を増やすことから始めるわ」


誰もが見過ごした、彼女の強みは繊細な観察眼と計算高い策謀だった。


村の密偵からの情報によると、リュシエールは最近、王都の裏社会と密接な関係を持ち、新たな陰謀を企てているという。


「この裏切り者に、取り返しのつかない一撃を――」


静かな決意で、彼女は巻き戻された過去の知識を武器に動き始めた。


邸宅の廊下を忍び足で進むと、影が壁に揺らめく。


「アリエル様?」


慎ましい声と共に、幼馴染のメイド、リリアが現れた。


「あなたは……?」


「私はあなたの味方です。あの継母にはもう飽き飽きしております。ですので、お手伝いいたします」


その言葉に、アリエルの頬が僅かに緩んだ。


「ありがとう、リリア。あなたの存在が、唯一の救いよ」


だが安堵を胸に秘めても、彼女の眼差しは一切の隙を許さない。


「千の命を刈り取る。覚悟を持って、この戦いを進めること」


強く言い聞かせる思いが、別のページをめくる姿に重なる。


「過去はもう変えられない。でも未来は変えられる」


新しい一歩を踏み出すアリエルの影が、夜闇に溶けてゆくのだった。

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