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第17話 因果の牢獄、揺らぐ真実

王子ルシアンとの短い邂逅は、嵐の前触れのように静かで不穏だった。

その余韻を振り切るように、アリエル・ローゼンベルクたちは王城の奥へと進む。

冷たい石壁は、長い年月と無数の陰謀を飲み込み、息をするかのように重く佇んでいた。


「この先は……監獄区域です」

案内役のセリオが低声で告げる。

「何故ここへ?」とリリアが問うと、アリエルの紅の瞳が揺らめく。


「この城の地下牢には、〝因果”を切断された者たちが幽閉されていると聞いたことがある。もし本当なら、“来世の因果”について何か掴めるかもしれない」


石段を降りるたび、空気は冷たさを増し、影は濃く深くなる。

やがて鉄格子の並ぶ通路にたどり着いた瞬間、かすかな歌声が耳に届いた。


『――来世を失くした者は、この世で二度死ぬ……』


アリエルが眉を寄せる。

歌っていたのは、痩せ衰えた老囚人だった。

その目は濁っていたが、彼女を見るなりぎょろりと光を宿す。


「お前か……“断絶”の娘……」


「私を知っているの?」

アリエルが格子に近づくと、囚人は震える手で壁をなぞった。そこに浮かび上がるのは、因果の糸を模した奇妙な刻印。


「その力で過去を断ち切れば、来世は廃墟になる。……お前はもう、その廃墟の主だ」


胸がざわめく。

「廃墟の主……?」とリリアが息を呑む。


その時――背後で金属音が響いた。

数人の衛兵が現れ、檻の通路を塞ぐ。

「反逆者アリエル! ここで捕らえる!」


即座に剣を抜こうとしたリリアを手で制し、アリエルは短く詠唱する。

「――因果断絶」


衛兵たちの動きが空白に呑まれ、突進のはずの時間軸が崩れて動きが沈む。

だが、またしても冷たい激痛が胸を貫き、視界が霞む。

立て直す間もなく、頭の奥であの声が響いた。


『急げ、アリエル・ローゼンベルク。お前の“鍵”はもう開きかけている』


息を整え、衛兵をかわしながら急ぎ地上階へ戻る。

だが脳裏では、老囚人の言葉が何度も反響していた。


――来世を失くした者は、この世で二度死ぬ。


王城の奥で、扉がひときわ重く音を立てて閉まる。

その向こうには、おそらく真実の一端と、更なる罠が待っている。


「行くわ。もう、引き返せない」

アリエルの声は低く、しかし確かに燃えていた。

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