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第14話 反逆者の烙印、王都への道

古戦場の朝は灰色だった。

雲は低く垂れこめ、勝利の余韻を祝福するどころか、むしろその代償を静かに見下ろしているようだった。


アリエル・ローゼンベルクは崩れかけた石塁に腰を下ろし、荒い息を整えていた。

最強規模の〈因果断絶〉発動から数時間、身体の凍えはまだ収まらない。

指先から肘にかけて、氷の棘が刺さったままのような感覚が続いている。


「…まるで、命そのものが削れていく感覚」


目を閉じると、あの声が甦る。

『次は、お前の“来世の因果”に触れる番だ』――。

あれはマルセルとは別の、もっと古く深い闇の底からの響きだった。


「来世の因果…。何を意味するのかしら」

小さく呟く声に、すぐ隣のリリアが反応する。


「アリエル様、何か聞こえたのですか?」


「ええ…でも、説明のしようがない。言葉でなく、魂に直接刻まれるような声だった」


リリアは一瞬ためらい、真剣な眼差しを向ける。

「それが敵なのか、味方なのかも、まだわからないということですね」


その通りだ、とアリエルはうなずいた。

だが一つだけ確信できる。

その声の持ち主は、私の“未来”と“来世”の両方を左右し得る存在だ。


そこへ、敗戦から戻った偵察兵が報告を持ってくる。

「王都ではすでに、アリエル様を“王国反逆者”として指名する布告が発せられました。

街中の掲示板に令状が貼り出され、城門でも読み上げられています」


兵士の目に怒りが宿っていたが、アリエルは表情を変えない。

「予想より早い動きね。……これは、迎えに行ってやらないと」


リリアが驚いたように眉を上げる。

「まさか、このまま王都に?」


「ええ。彼らは私を討つための舞台を王都に用意している。なら、その舞台を逆に利用するまで」


アリエルは立ち上がり、凍えた左手をマントの中でぎゅっと握る。

立ち眩みが襲うが、それを悟らせぬよう、背筋を伸ばす。


「準備は整えて。少数精鋭で行く。王都の中枢――王城の心臓部まで」


その言葉に、仲間たちの顔にも決意の色が広がった。


リリアは短く頷き、荷をまとめる兵たちに指示を飛ばす。

「我らはこの方と共に行く。どれだけの闇が待っていても、王都を抜け、真実へ辿り着くのだ!」


風が強まる。

古戦場の空気が、まるで“次章”への扉を押し開けるように変わっていく。

東の空には淡く光が滲み、王都の尖塔が遠く霞の中に浮かび上がるのが見えた。


アリエルはその景色を見据え、心の中で静かに誓う。


「反逆者と呼ばれようとも、私は行く。来世の因果すら、私の手で断ち切るために」


――その一歩は、王国史を根底から揺るがす途方もない一歩だった。

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