第1話 義母様、それは私が殺しました──
冷たい石畳の上にひざまずいた令嬢アリエル・ローゼンベルクは、曇り果てた空を仰いだ。
「義母様の、その血の味は──」
唇から零れた言葉が風に攫われる。
「──意外と甘いものですね」
その瞬間、鋭く冷えた視線が彼女を射抜いた。
「アリエル殿! これが最後の言葉か? 悔い改めよ、罪深き悪女め!」
法廷の声が重く響いた。しかし彼女の表情は一切揺らぐことなく、むしろ薄く微笑んでいた。
彼女の後ろで、継母のリュシエールが嘲弄の視線を送る。義妹のセレナはその目に涙を浮かべるが、それは偽りの涙だと見抜けた。
「私は何ひとつ、間違ってなどいない」
アリエルの心は静かに燃えていた。誰にも渡せぬ、この尊厳と人生を守るために。
それなのに、彼女は裏切り、謀略、嘘の証言により、一夜にしてすべてを奪われた。
『呻きの書記官』──それは、神にも等しい存在だった。
死の直前、冷たく固い処刑台の感触と共に、彼女の視界は真っ白になったはずだった。
だが、彼女が次に目を開けたのは、二ヶ月前、あの運命の夜の前日だった。
「また会ったな、アリエル・ローゼンベルク」
暗い闇から現れた不可視の存在が、淡々と言い放った。
「お前には復讐の機会を与えよう。ただし条件がある。この人生で殺めた者の数だけ、来世の運命はそのまま過酷になる」
苦痛の提示。しかしアリエルは迷わなかった。
「ならば、千の命を刈り取ってやろう。来世の呪いなど背負いながらでも、私は私の人生を取り戻す」
彼女の瞳は燃え盛る焔のように赤く燃えた。
そう、“因果断絶”──アリエルが手にした特殊異能は、運命の繋がりを断ち切り、因果律を破壊する力。
だがそれは、決して万能ではない。使うごとに霜のように心が冷え、代償は大きかった。
「覚悟はできている」
彼女は静かに立ち上がる。
「この国を蝕む偽善と腐敗を、私は清算する」
アリエル・ローゼンベルクの復讐劇は、今、幕を開けた。




