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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
最終章:卒業と旅立ち

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44/46

【44】性善説と性悪説~完璧な人間のただ一つの欠陥

44-1◆王からの三度目の“招待状”◆

卒業式の喧騒が、嘘のように静まり返った翌日の午後。

その穏やかな時間の中、俺のスマホが静かに震えた。

画面に表示されたのは、たった一行のメッセージ。

『今日はバスケ部の練習も休みなんだ。もしよかったら、少しだけ家に遊びに来ないか?』


送り主は、天宮蓮司。


ミラー:「…王から、またまた招待状か」

奏:「…何の話だろう?」


三度目となるあの太陽の城。

南禅寺界隈に静かに佇む異次元の豪邸。

しかし俺の心は、初めてここを訪れた時のような、劣等感や緊張感にはもう包まれていなかった。


玄関で俺を迎えた天宮は制服ではなく、ラフな私服姿だった。

その顔には昨日までの、王としての張り詰めた空気はない。


「やあ、音無くん。来てくれて、ありがとう」

そこにいたのは、“太陽”ではない。

ただの穏やかに微笑む一人の同級生だった。

俺は静かに頷き返し、その城の中へと一歩を踏み入れた。


44-2◆王が描く、新しい“脚本”◆

応接室の重厚なソファ。そのあまりにも柔らかな沈黙を破ったのは天宮だった。

「卒業式での轟木先輩からの指名、俺も驚いたよ。改めて君を見直した。君は学園中に最も影響力を持つ人物だと思う」


そして彼は、俺に驚くべき「未来」の脚本を語り始めた。


「まず来年度の生徒会長だけど、現状どおり、一条院瑠璃さんが続ける。彼女ならこの学園の伝統を、しっかりと、守ってくれるだろう」

その言葉に、俺はただ静かに、頷いた。

一条院瑠璃。あの『白蓮会』の二年。大病院グループの理事長の娘。

彼女は昨年の7月、久条の指示で生徒会長に立候補。

会長選挙で当選し、昨年9月から生徒会長を務めている。


「しかし現在の副会長が、海外へ留学してしまうことになった。つまり欠員が出るんだ」

天宮は続けた。その瞳には悪戯っ子のような光が宿っていた。

「これは生徒会を改革するチャンスだと俺は考えた。あの、あまりにも『正しすぎる』生徒会に、新しい“風”と“魂”を、吹き込みたいんだ。」


天宮は俺の心の奥底を見透かすかのように続けた。

「だから空いた副会長の席に、俺は柴田隼人を推薦しようと思う。彼も承諾してくれている」


ミラー:「…はっ。面白い。あのムードメーカーを学園の政治の中心に据えるつもりか」

奏:「…ああ。だがそれだけじゃない。天宮の本当の狙いは…」


そして天宮はその太陽のような瞳で、俺を真っ直ぐに見つめて言った。

我々の物語の本当のクライマックスを告げる、その一言を。

「そしてその不器用な柴田を支える、最高の“補佐役”として君にその任をお願いしたいんだ」


44-3◆脚本家が語る、“性悪説”という名の真実◆

「卒業式での轟木先輩から君へのスピーチ。そして姉さんも君に一目、置いている」

「音無くんこそが、この停滞した学園を本当に変えられるヒーローだと俺は確信した」

天宮のそのあまりにも真っ直ぐな言葉。

それは、俺のこの半年間が、全て肯定されたかのような甘美な響きを持っていた。


「君が、生徒会のような表舞台に興味がないことは分かっている。君はそういう人間じゃない。それでも俺は音無くんにお願いしたいんだ」


ミラー:「…どうした、奏。王からの最高の“オファー”だぞ。お前の完全な勝利だ」

奏:「…違う。勝利なんかじゃない。これはただのあまりにも美しい誤解だ」

ミラー:「誤解?何を言っている。結果が全てだろうが」

奏:「…もう、耐えられないんだ。天宮のこの一点の曇りもない善意に。…俺はこいつにだけは、本当のことを話しておきたい」


俺は、初めて天宮のその太陽のような瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。

そして俺という人間の醜い「本性」を、告白する。


「俺はヒーローなんかじゃない。ちっぽけな人間なんだ」


俺の、その、静かな否定に天宮の完璧な笑顔が僅かに揺らぐ。

俺は淡々と続ける。当然、スキル〈観識〉のことは、伏せたままだ。

それは俺の罪の告白であり、そして彼が信じる「美しい世界」への静かなる宣戦布告だった。


「俺は、人間の“醜さ”“汚さ”“弱さ”を確信している。人は嫉妬と恐怖と憎悪と自己顕示欲で動く。俺は、ただ、どうしようもない“本性”を利用して、彼らを俺の脚本通りに、動かしただけだ」

「三好を救ったのは、善意じゃない。その前に彼の長峯への嫉妬を“利用”して、彼を罠にハメた」

「久条さんを助けたのは、友情じゃない。彼女の“敗北への恐怖”を人質に取っただけだ」

「轟木先輩の心を癒した? 違う。俺は彼の“憎しみ”を、利用して彼の報復から逃れた」

「これらは全て、俺自身の嫉妬や憎しみ、劣等感、恐怖心が原因で行動してしまった」

「こんな器の小さな俺をヒーローなんて呼ばないでくれ」


俺は全てを吐き出した。

窓辺で風が、薄いカーテンを一度だけ揺らした。

沈黙が、この広すぎる応接室を支配する。

目の前の、完璧な男が初めて、俺のそのドロドロとした「悪意」に触れた瞬間だった。

これでこいつも俺に幻滅するだろう。

軽蔑の視線を向けるだろう。そして何も期待しないだろう。

…そう、なるはずだった。


44-4◆太陽に“悪意”は見えない◆

俺の、そのあまりにも、醜い「真実」の告白。

しかし天宮蓮司は、眉一つ動かさない。

彼は、俺の言葉を、彼自身の完璧な「善意」のフィルターを通して、再解釈してしまうのだ。


俺のスカウターが、彼の【本心 100%】を、無慈悲に表示する。


天宮:「…すごいじゃないか、音無くん。君はそんな複雑な人間の心を理解した上で、それでも彼らを、正しい道へと導いてくれたんだろう?」

天宮:「君が、どんな動機で、どんな手段を使ったとしても、結果としてみんなが救われた。笑顔になった。ならそれは紛れもなく“正義”だよ」

俺は笑うでも反論するでもなく、テーブルのコースターを指先で一度だけ回した。

一瞬だけ、天宮のまぶたが伏せられた。

だが次に顔を上げたとき、その瞳は、何もかも受け入れた“太陽”のままだった。

ミラー:「お前の台詞、毒を撒いたつもりだったのにな。こいつ、全部“栄養”に変換しやがったぞ」


ミラー:「…天宮には通じない。人間の悪意という“言語”がそもそもインストールされていないんだ」

奏:「…そうみたいだな。天宮には、人間なら誰もが見えている“闇”が、そもそも見えていないんだ」


ミラー:「面白いな。全てが完璧であるがゆえ、誰からも愛されすぎた。人格まで優れている。彼を悪く言う人間はいない。だから、敵意を向けられたことがない。だから人間は、皆、善であると信じて疑わない。…だが、そんな世界で生きているのは、この学園でこいつただ一人だ。つまりこいつの『性善説』は、あまりにも美しい“誤解”なんだよ」


奏:「ギリシャ悲劇に、ハマータという概念があったな」

ミラー:「ほう?脚本家先生、博識じゃないか」

奏:「英雄が持つ、一つの、優れた資質が、逆に彼を破滅へと導く“悲劇的な欠陥”。…天宮蓮司にとってそのハマータは、**“誰からも愛されてしまうがゆえに人間の本当の悪意を知らない”**というその究極の純粋さそのものだ」


ミラー:「その通りだ。奴の最大の長所が、奴の最大の弱点であり、この世界を根本的に誤解する原因となっている。そしてそれこそがお前とこいつの決定的な違いだ」

奏:「天宮蓮司は、彼自身の特異な環境によってのみ成立する、あまりにも無垢な**“性善説”の体現者」

ミラー:「そしてお前は、世界は欺瞞と悪意に満ちていると確信する“性悪説”の体現者というわけだ。真逆の存在だな」

奏:「俺たちの戦いは、どちらがリーグの頂点に立つかというちっぽけな競争じゃなかった。そもそも戦ってもいなかったが…この世界の“真実”は一体、どちらの姿に近いのかという根源的な問いかけだったんだ」

ミラー:「だからこそ、天宮は三好のようなクズの本質を見抜けない。いや、見抜かない。彼の世界では、全ての悪意はただの“過ち”であり、全ての人間は“救済”されるべき対象でしかないのだからな」

奏:「ああ。その、どうしようもない“勘違い”こそが、彼の全ての行動原理の、証明なんだ」

ミラー:「こんな人間も存在するんだな」

奏:「俺も驚いた。人間として持っていて当然の醜い部分。天宮も隠し持っているはずと考えていた」

ミラー:「それは大きな誤解だったんだな」


俺は、初めて目の前のこの完璧な男のその魂の“形”を、完全に理解した。

そしてそのあまりにも悲劇的で美しい「欠陥」に、俺は畏怖とそしてほんの少しの哀れみすら、感じていた。


44-5◆光と影の永遠の“契約”◆

俺は、彼を「説得」することを諦めた。

そして彼のそのあまりにも、美しい“誤解*を、受け入れた上で彼の「オファー」に答える。


「…分かった。その役目、引き受けよう」

俺のその静かな肯定に天宮のその太陽のような瞳が見開かれる。

俺は続けた。

「ただし条件がある。俺は君のような光にはなれない。だからこそ俺は影として俺のやり方で、柴田をそしてこの学園を動かす。それでもいいか?」


その俺の言葉に天宮は心の底から嬉しそうに笑った。

「ああ。もちろんだ。君は君のままでいい。光には必ず影が必要なんだ。…君が自ら影を選んでくれた」

「これから、よろしく頼むぜ。…“相棒”」

そして少しだけ申し訳なさそうに付け加えた。

「俺自身が、生徒会に携われれば、一番、良いんだけど、なかなか、多忙でね」

「欠席だらけで、みんなに迷惑をかけたくないんだ。ずうずうしいお願いで本当に申し訳ない」


天宮:「俺は光になれるかわからないが、音無くんが支えてくれるか?」

奏:「ああ…影は、光がある限り、決して輝けないけどな」

天宮:「それでも、君がいてくれるなら、俺は消えない」


俺は静かに立ち上がり、彼に背を向け、その太陽の城を後にする。

玄関の扉を開けると、薄い夕陽が靴先を斜めに照らした。


俺たちには確かな友情があった。しかし俺たちは、決して互いを理解しあえない。

光と影。性善説と性悪説。

その永遠に交わることのない二人。


世界には、天宮蓮司のような光が必要だ。

そしてその光が正しく世界を照らすために、その光の届かない場所で、誰かが手を汚さなければならないのなら。―その役目は、俺が引き受けよう。


ミラー:「…本当に、いいのか?お前は、永遠に影のままだぞ」

奏:「ああ。いいんだ。初めからそうだったじゃないか」

俺は、初めて自分の「役割」を誇らしく思った。

太陽はあまりにも眩しすぎた。


そして俺はまだ、あの日のことりの涙に触れられていない。

――その影の奥で、もう一つの“答え”を探さなければならない。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

作者の京太郎です。


太陽と影。光と闇。

天宮蓮司と音無奏。

この決して交わることのなかったはずの二人が、初めてその魂の形を認め合った今回のエピソードでした。

楽しんでいただけましたでしょうか。


奏が自らの「悪意」を告白し、

天宮が、その「悪意」すらも「善意」として受け入れてしまう。

そのあまりにも美しく、そしてどこまでも、悲しい「断絶」こそがこの物語の一つの核となります。


さて。光と影は、固く手を結びました。

しかし、その先にはまだ我らが主人公が、本当に向き合わなければならない、たった一つの「謎」が残されています。


「白瀬ことり」

彼女は、いったい何者なのか?

そして奏はその力の真実を知った時、一体どんな「答え」を出すのか。


物語はいよいよ本当の最終章へ。

次なる舞台は、「終業式」

全ての始まりの場所で全ての決着がつきます。


もしこの二人の王の奇妙な“契約”に、少しでも心を動かされたなら。

どうか、ページ下の**【☆☆☆☆☆】**での評価や、ブックマークでその気持ちを教えてください。

それが彼らの最後の物語を書き上げるための最高の力になります。


それではまた次回の更新でお会いしましょう。

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