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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
第七章:ウィンターカップ

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41/46

【41】勝率20%以下!魂を削り合う40分間

41-1◆軍師の脚本、そして神の未来予測◆

俺は観客席で息を呑んでいた。


ミラー:「奏、見ろよ。三上新監督、顔つきがもう戦闘モードだ」

奏:「……三上監督は、一手も外さないつもりだ」


tip-offを制したのは洛北祥雲の上夷壮一郎だった。

天宮がトップでボールを持つ。その視線はゴールを射抜くようにまっすぐだ。


俺たちの後ろの席で仁田先輩が低く呻いた。

「…すげえな。…あいつ、完全に“鳥の目”になってやがる。空からコート全部が見えてるんだ」


天宮の意識はコート全体を支配している。

長峯が右サイドを駆け上がり、望月が左コーナーへ開く。

その一瞬、辻村の視線が望月に釣られた。

コンマ一秒の隙。

稲妻のようなバウンドパスが長峯の手元に吸い込まれた。

その瞬間、長峯の身体が宙を裂く。

「ッしゃああああ!」

右腕一本、ワンハンドダンク。

バックボードが震え、体育館全体の空気が爆ぜた。

観客席からは悲鳴にも似た歓声。

まるで戦場に一発の砲弾が落ちたかのようだった。


開始わずか十秒。三上が描いた最初の脚本が完璧に決まった。

続く攻撃でも長峯が切り込み、望月が決める。

開始5分、スコアは【洛北18 - 12那代】。

俺たちの王国が絶対王者を圧倒していた。

観客席は熱狂に揺れる。


奏:「三上のデータ戦術が完璧にハマってるな」

ミラー:「ああ…でも妙だ。あのPG、神谷遼が不気味なくらい静かだ」


そのスコアボードを、山中が信じられないという顔で見上げていた。

山中は俺の肩をバンバンと叩き、子供のように叫んだ。

「すげえ!絶対王者にリードしてるぜ、音無!」

仁田先輩が低く呟く。

「いや、那代はまだ“何もしてない”んだよ」


仁田先輩が腕を組んだまま、低い声で呟いた。

「神谷遼のすごさはな……“見えてしまっている”んだ」

俺は思わず振り返った。

仁田先輩は神谷のわずかな視線の揺れを凝視している。

「普通の司令塔は、目の前のマッチアップと味方の位置を同時に見て、最適解を探す。だが神谷は違う。アイツの頭の中では――」

仁田先輩は右手で、空中に未来の座標を描くような仕草をした。

「たとえばな…俺たちが“見ている”のは現在のコートだ。

でも神谷の頭の中には、**もう一枚の“仮想コート”**が重なってるんだよ。

プレーヤー10人の動きを先読みして、0.1秒ごとに全員の未来位置をシミュレーションしてやがる。

ディフェンスがどこで遅れるか、誰がどこで空くか、その“答え”はもう計算済みだ。

だから神谷のパスは“今”じゃなく、“次の瞬間に空くはずの場所”へ飛んでくるんだ」


仁田先輩のその、あまりにも絶望的な解説。

それを聞いた斎藤の顔から、いつもの冷静さが消えていた。

「…つまり、こっちは必死に現在の戦況でチェスをしてるつもりでも…神谷だけ、三手先を、指している、ということか」

仁田先輩は頷いた。

「その通りだ。だから怖いんだよ。あの眼は“未来を確定させる眼”だ」


その時だった。神谷が動いた。

ゆっくりとドリブルをつきながら、彼はコート全体を見渡している。

だが、その目は“今”を見ていなかった。


山中「…おい音無。なんだあいつ、動きが読まれてる?」

奏:「天宮が1秒先を描くなら、神谷は3秒後の未来を描いてる…!」


仁田先輩:「いや、違う。天宮は“瞬間瞬間の最適解”を選んでるだけだ。神谷はその“最適解すら利用する”んだ。相手が動くことすら、あいつのシナリオに組み込まれてる。だから怖ぇんだよ」


上夷が榊原を止めるために半歩前へ出る。

その未来を予測した神谷のパスは、上夷が今いる位置ではなく 「0.5秒後、上夷が空けるであろうスペース」 へ放たれた。

榊原がピタリと走り込み、ノーマークで豪快なアリウープダンク!


仁田先輩が唸る。

「……やべえ。あいつ、“プレー”じゃなく“未来”を見てやがる」


さらに神谷は次の攻撃で、花巻への合わせを狙っていた。

辻村を囮にしたピックから、まるでワンテンポ早送りされた映像のように花巻が抜け出す。

ミドルから放たれたジャンプショット――決まる。

完全に神谷の手のひらの上で踊らされていた。


たった3ポゼッション。

まるでコートの重力が反転したかのように、試合の空気が一気に那代の色に染まっていく。

観客席のざわめきが消え、かわりに息を呑む音ばかりが響いた。

わずか2分で【洛北18 - 17那代】

たった一瞬で一点差まで詰め寄られる。


ベンチの三上は険しい顔でコートを見つめていた。

(…まずい。データじゃない。神谷遼は“プレー”じゃなく“未来”を見てる…)


三上は即座にタイムアウトを取る。

選手たちが戻ると、動揺と混乱の色が浮かんでいた。

だが三上は静かに、力強く言った。


「下を向くな。敵は強い。それだけだ」

「天宮。神谷はお前の動きの“意図”を読んでる。だからお前はもう何も考えるな」

天宮は驚いた顔で顔を上げる。

「…どういう意味ですか?」


三上は口元に不敵な笑みを浮かべた。

「お前はただ、走れ。考えるな。お前の“本能”で動け」

「神谷の3秒先なんざ無視しろ。お前は、誰も読めない未来を作り出せ」

「他の四人は天宮の動きに全神経を集中しろ。…いいな!」


タイムアウト明け。第一Q残り1分。

コートに戻った天宮は、別人だった。

彼は司令塔をやめた。ただの “才能の塊” に変貌していた。


神谷が天宮の動きを読もうとする。

だが、そこに意図はない。

ただ本能だけがある。

神谷の未来予測が、初めてコンマ一秒狂った。


天宮はその一瞬を逃さない。

スティール成功。独走レイアップ。ブザーが鳴る。


【洛北20 - 19那代】

第一クォーター終了。

たった一点のリード。

だが、これは血を吐くような戦いの末、もぎ取ったあまりにも重い一点だった。


観客席の熱狂は消え、静寂がアリーナを支配する。

ここから始まる“本当の死闘”を、誰もが予感していた。


41-2◆絶対王者の牙、そして、決められた未来◆

第二クォーター開始のブザー。

その音はまるでゴングだった。

絶対王者が牙を剥くためのゴングだ。


最初のボールは長峯に渡った。

彼は迷わず仕掛けた。

ドリブルでわずかに右へフェイク、次の瞬間には左へ抜けるはずだった。

だが――抜けられない。

「……ッ!?」

花巻耀平の動きは、人間の反応速度じゃなかった。

身体ごとぶつかるでも、力で押し返すでもない。

長峯が動く前に、すでにそこへいる。


長峯の視界に残像が走った。

花巻はわずかな重心移動を読み切り、完全にルートを塞いでいる。

その跳躍力とアジリティ、まるで重力の影響を受けていないような軽さ。

「悪いな、スーパールーキー」

花巻は、ほんの僅か、唇を吊り上げた。

「ここは通さねぇ」


次の瞬間、花巻が逆に仕掛けた。

長峯が一歩反応した瞬間、すでに花巻の身体は抜け出している。

俊敏性、爆発力、空間把握、すべてが上位互換。

その動きは、まるで一歩先の未来からプレーしているかのようだった。


そこから北の王の独壇場だった。

ドライブからのダブルクラッチ。

長峯のシュートを叩き落とすブロックショット。

そして榊原への寸分の狂いもないアシストパス。

那代工業が逆転し点差を広げていく。


そしてその怪物の後ろには常に神がいた。

神谷の未来予測はさらに深度を増し、3秒後のプレーを制御する。

PG神谷遼。

彼は未来予測を全開にした。

天宮の動きを1秒先ではない。

3秒先まで見抜いている。

仁田先輩が息を呑むのが分かった。

「…まずい。神谷のギアが上がった。あいつはもう天宮の動きすら、三秒先まで読んでいる」


天宮がパスを出そうとする。

だがその先にはすでに那代の選手が回り込んでいた。


前半終了のブザーが鳴る。

スコアは32対40。8点差。

だがその数字以上に俺たちの王国は完全に支配されていた。


ミラー:「…奏やべえぞ…完全に支配されてる」

奏:「違う…。これは支配じゃない。“未来を決められてる”んだ」


選手たちが、重い足取りで、ロッカールームへと引き上げていく。

その絶望的な空気の中、三上だけが、まだ戦う目をしていた。

彼はホワイトボードの前に立つと、静かにそして力強く言った。

「さあ、お前ら――反撃の準備を始めるぞ」

軍師の本当の戦いは、この地獄のハーフタイムから始まるのだ。


41-3◆ハーフタイム:軍師の脚本◆

ハーフタイム。

洛北祥雲のロッカールームは墓場だった。

誰もが俯き自分の汗が床に落ちる音だけを聞いていた。

前半戦で、完全に心を折られていた。


その沈黙を破ったのは三上だった。

彼の声は、静かだった。

だが、その静けさは嵐の前のそれだった。


「まず認めろ。お前らがマッチアップする相手、全員がお前らの“上位互換”だ」

そのあまりにも残酷な、一言に選手たちが顔を上げる。

その瞳には怒りと屈辱の色が浮かんでいた。


三上は一拍置き、選手たちを見回した。

「さらに那代工業は組織力も悪くない。個の勝負では、少し劣る。組織力では対等だ。

だが――俺たちはそのどちらでも勝負しない」

そして低く、鋭く言い放った。

「俺たちは“個を活かすための組織”だ」

その言葉が胸を撃ち抜くように選手たちの心臓を震わせた。


彼はホワイトボードに、素早く円を描いた。

「神谷は天才だ。個人の未来を描く天才。だが奴が見えているのは、常に自分より前方だけだ」

「だから俺たちは、奴の後ろを突く。できるだけ奴の後ろに位置どれ。奴の意識の外側から心臓を撃ち抜くんだ」


彼のその言葉は、もはやただの精神論ではない。

明確な勝利への道筋だった。

彼は天宮を見た。


「天宮。お前は囮だ。神谷を自分に引きつけろ。奴の視線をコートの半分に固定させろ」

そして長峯を見た。

「長峯。花巻に正面勝負は無謀だ。動かしてズラして崩せ」


天宮は囮

神谷を引きつけ、逆サイドで数的優位を作る

望月を解放し、スリーで刺す


そのあまりにも的確な分析。

そして明確な勝利への脚本。

死んでいたはずの選手たちの瞳に再び火が灯る。


後半開始を告げるブザーが鳴り響いた。

ロッカールームから飛び出していく選手たちの背中。

それは、もはや敗残兵のそれではない。

逆襲を誓う最強の戦士たちの背中だった。


41-4◆第三クォーター:軍師 vs 神◆

後半開始を告げるブザーが鳴り響いた。

コートに戻ってきた洛北祥雲の選手たちの眼は前半とはまるで違っていた。

絶望の色はもうない。

そこにあるのは軍師の脚本を完璧に演じきるという役者の覚悟だけだった。


奏:「…始まるな。軍師の逆襲が」

ミラー:「ああ。だが神は、この脚本を、どう読んでくるか」


ボールは天宮に渡った。

彼は神谷と対峙する。だが仕掛けない。

ただゆっくりとドリブルをつきながら、神谷の意識を自分だけに集中させる。

その瞬間だった。

逆サイドで石櫃がスクリーンをかける。

その壁を使い望月が走り込む。

完璧なバックドアカット。

天宮の手からボールが消えた。

コートを半周するような寸分の狂いもないパスが、望月の手元に収まる。

ノーマークでのスリーポイント。

ネットが美しく揺れた。


次の攻撃も同じだった。

天宮が神谷を引きつけ神谷の後方で、数的有利を作る。

パスを受けた望月が再びスリーを沈める。

観客席が揺れる。


俺たちの後ろの席で、仁田先輩が熱く解説していた。

「…見ろ。これが三上先輩の恐ろしさだ。神谷の3秒後を“さらに1秒遅らせる”戦術だ…!」

「神谷は自分より前方の未来しか見ていない…!」

仁田先輩が震える声で続ける。

「だから三上先輩は、神谷の“未来予測の死角”を撃ってるんだ!」

コートの逆サイド。

望月がスクリーンをすり抜け、完全にノーマーク。

ボールが空気を切り裂き、望月の手元で静かに止まった。

次の瞬間、閃光のようなスリーポイント。

ネットが爆ぜた。

観客席のボルテージが一気に振り切れる。

そして、ついに若き獅子が牙を剥いた。

長峯が花巻と対峙する。

一度だけフェイクを入れた。

そして稲妻のようなドライブで、その鋼鉄の壁を抜き去った。

渾身のレイアップ。

そのボールがリングに吸い込まれた瞬間。

観客席後方から轟木と坂元の咆哮が聞こえた。

「行けえええ!長峯えええ!」


第三クォーター終了のブザーが鳴る。

スコアは58対58。

俺たちは地獄の淵から、這い上がってきた。

だが俺のスカウターは、冷静に未来を予測していた。


ミラー:「…追いついたな脚本家。面白い采配だった」

奏:「ああ。軍師が神の死角を突いた。だが第四クォーター。神は必ず修正してくる。…本当の地獄はここからだ」


俺は静かに最終クォーターの始まりを待っていた。

本当の死闘は、まだ始まったばかりだった。


41-5◆第四クォーター:王と神の最終盤◆

最終、第四クォーター。

残り、十分。

スコアは、58対58。

ここからは、もはや戦術ではない。

魂と魂の削り合いだ。


天宮が神谷を抜く。

神谷が天宮から奪う。

長峯が花巻に挑む。

花巻が長峯を抑える。

一進一退。

体育館の空気が張り詰めて、ちぎれそうだった。


残り二分。

望月のスリーポイントがリングを揺らす。

80対79。

俺たちの王国が逆転した。

だが絶対王者は沈まない。

即座に神谷が、榊原とのアリウープを決める。

そして花巻が、鬼神の如きスピンムーブからのバンクショット。

82対83。

再び那代工業がリードを奪った。


観客席の轟木が叫ぶ。

「負けるな!長峯ええ!」

坂元も声を張り上げた。

「天宮!お前が王だろうが!」


残り三十秒。

洛北祥雲、最後のタイムアウト。

ベンチで三上が静かにそして力強く言った。

「最後は天宮じゃない。上夷で勝つ!」


そのあまりにも意外な指示。

だが王は静かに頷いた。

コートに戻る五人。

その瞳にはもはや迷いはない。


残り三十秒。

天宮が神谷を、引きつけドライブを仕掛ける。

そしてゴール下の上夷へと針の穴を通すようなパス。

上夷が、叫びながら飛んだ。

その泥臭いレイアップが、リングに吸い込まれた。

86対85。

俺たちの王国が土壇場で再逆転した。


だがまだ終わらない。

残り14秒。

那代工業最後の攻撃。

ボールは神谷から花巻へ。北の王が、全てを懸けて飛んだ。

そのシュートは――

リングに弾かれた!


リバウンドを長峯が掴む!

勝利だ!誰もがそう思った。その瞬間だった。


しかし――

長峯のつかんだボールに那代工業、PF篠田慎吾の指先が触れた。

勝利を掴みかけた長峯の手から、ボールがこぼれ落ちる。

そしてそのボールは無情にも、ゴール下にいた那代工業キャプテン、榊原迅の手の中へと吸い込まれた。


日本の頂点に立つセンター。

彼がその好機を逃すはずがない。

榊原が跳んだ瞬間、時間が止まったかのようだった。

205cmの巨体が宙を切り裂き、リングに向かって落下する。

その両手が鉄のフレームを掴み、

「ドォン!!!」

体育館の床が、震えるほどの衝撃音。

ネットが切り裂かれたように揺れ、観客の悲鳴が炸裂した。

絶望のスコアが、電光掲示板を赤く染めた。

洛北祥雲学園 86対87 那代工業高校。


那代工業高校が逆転。残り7秒

第四十一話をお読みいただきありがとうございます。

作者の京太郎です。


軍師の脚本。神の未来予測。

そして王たちの魂の応酬。

俺たちの王国は、あと一歩の、ところまで絶対王者を追い詰めました。


しかし勝利の女神はあまりにも残酷です。

残り七秒。

一点差のビハインド。

絶望的な状況。


果たして、このあまりにも短い時間で俺たちの王国は最後の奇跡を起こせるのか。

全てを託された、王・天宮蓮司は、最後に何を見せてくれるのか。


物語はいよいよ本当の最後の瞬間へと向かいます。


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よろしくお願いします。

皆様の声が何よりの力になります。


それではまた次の話でお会いしましょう。

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