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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
第七章:ウィンターカップ

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【40】ウィンターカップファイナル

40-1◆絶望の夜、そして軍師の神託◆

大会六日目。12月28日。

準決勝終了後の夕方。

洛北祥雲学園バスケ部の宿舎ホテル。

そのミーティング会場はまたしても重い沈黙に沈んでいた。


中河が呟いた。

「…明日。俺たち、本当にあんな奴らに勝てるのか…」

松川が頭を抱える。

「無理だろ。あんな怪物集団相手に…」

望月も、石櫃もただ俯いている。

昼間の勝利の歓喜は、完全に消え去っていた。


その絶望的な空気を切り裂くように、三上の声が響いた。

彼はホワイトボードの前に静かに立っていた。

「みんなビビってるな」

その声は穏やかだった。だが誰も何も言い返せない。


「正直に言う。今のまま戦えば、俺たちが勝てる確率は20%以下だ」

そのあまりにも無慈悲な数字。部員たちの顔がさらに暗くなる。


「だがな」

三上は続けた。

「おまえなら勝てる!自分を信じろ!とか、俺は楽観視したような言葉は言わない。希望的観測は無意味だからだ。それでは単に玉砕するだけだ」

「俺たちがやるべきことは一つ。この20%という確率を1%でも高めるための策を徹底的に考え、実行することだ。まず相手の強さを認めることから勝機は開ける」

「そして俺は俺なりに、ずっと準備していた。俺が指揮を執らせてもらった場合を想定してな。那代工業の分析は終わっている」


その言葉に長峯の瞳が輝く。

上夷も顔を上げた。

そして天宮蓮司が静かに言った。

「…聞かせてください。三上監督の、考えを」


三上は頷いた。

そして彼はホワイトボードに相手のスターティングファイブの名前を書き出していく。

「まずPG神谷遼。高校No.1司令塔だ。天宮。お前はパスで勝負するな。フィジカルで潰せ。奴はコンタクトプレーを嫌がる。神谷は“触られるまでの時間”で展望を作るタイプだ。触れられると判断が半拍遅れる」

「SG辻村海翔。高精度のシューターだ。望月。お前は一秒たりとも奴から離れるな。お前の仕事は点を取ることじゃない。奴に点を取らせないことだ」

「SF花巻耀平。『北の王』。長峯。お前は奴と1on1をするな。チームで守る。奴をお前たち五人の網にかけるんだ」

「PF篠田慎吾。泥臭い仕事人だ。石櫃。お前はフィジカルモンスターだ。力でねじ伏せろ。それだけでいい」

「そしてキャプテンC榊原迅。日本ユース代表。上夷。高さでは勝てない。だから走らせろ。お前の運動量で奴をコートの外に引きずり出すんだ」


そのあまりにも、的確な分析と指示。

絶望に支配されていた部員たちの瞳に、再び闘志の炎が宿っていく。


最後に三上は王を見た。

「そして天宮。お前がこのチームの王だ。だが明日だけはお前の好きにはさせない。俺の脚本通りに動いてもらう。…いいな?」


天宮は静かに、そして力強く頷いた。

「はい。全てお任せします。三上監督」

その一言が、新しい王国の序列を完全に決定づけた。


40-2◆観客席から愛を込めて◆

その日の夜。

俺は天宮に、LINEで短いメッセージを送った。

『決戦前夜にすまない。少しだけ時間をくれないか?19時半ごろ、鳩森八幡神社で待つ』

数秒後。

『分かった。行くよ』

とだけ返信があった。


俺は一人、鳩森八幡神社の境内で、その時を待っていた。

都会の喧騒が嘘のような静寂。

冷たい夜気が肌を刺す。

灯籠の淡い光が、俺の影を長く伸ばしていた。


夜七時半。約束の時間通りに、彼は現れた。

天宮蓮司。

その顔に、いつもの太陽のような輝きはない。

ただ静かな覚悟だけが宿っていた。

石畳に冬の冷えが這い上がる。手水舎の水がかすかに金気を含んだ匂いを運び、吐く息だけが白く立つ。


「…どうしたんだ?音無くん。改まって」

天宮が、静かに切り出した。

「悪いな。大事な試合前の夜に・・・特に何かあるってわけじゃないんだけど」

俺は一度、天宮から視線を外した。

そして自らのこの4カ月間を、振り返るように静かに語り始めた。


「ああ。天宮君と少し話したかっただけだ。」

「これまで、俺は俺なりに、色々と首を突っ込んできた。…お節介だったかもしれない」


俺の脳裏にこれまでの全てが蘇る。

学園祭の会議。

長峯と三好のもめごと。

中間試験で柴田、斎藤、結城を助けたこと。

演劇準備での三好の復帰。

ディベート大会での久条への助言。

そして轟木先輩の過去からの脱却。

天宮の姉をサポートして、大槻の不祥事をリークしたこと

「気づけば、ずっと首を突っ込んでいた」


「でもバスケ部に関しては、全然違ったんだ」

俺は天宮の瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。

「そこには俺なんかが、介入できる余地なんてなかった。そしてきっとみんなもそれを求めていない」

「天宮くんが引っ張るバスケ部は、今までも、今日も、自らの力だけでキラキラに輝いていた」


天宮は静かに首を横に振った。その瞳には感謝とそして全てを理解しているという深い光が宿っていた。

「…そんなことはないよ、音無くん。君がいなければ、俺たちは今ここにいない」

「君が、亜里沙を助け、轟木先輩の心を救い、そして三上監督を呼び戻してくれた。…結果として決勝まで来ている。これでよかったのかもしれないと、少し思えるようになってきたよ」


友からの信頼と理解。その温かい光が、俺の心の氷を静かに溶かしていく。

「俺は明日も変わらず、ひたすら応援するだけだ。…観客席からな」


天宮は心の底から笑った。それは王としての笑みではない。ただの高校生の照れくさそうな、そしてどこまでも温かい笑みだった。

「…そっか。分かったよ、音無くん。…君は俺たちの最高の応援団でいてくれるんだな」


俺は静かに頷いた。そうだ。俺の脚本家としての役割はもう終わったのだ。

いや、天宮には、初めから必要なかったんだ。

「明日の決勝、那代工業高校戦でも、きっと今まで以上にバスケ部は輝けると確信している」


その俺の言葉に、天宮はただ静かに頷いた。

そしてこの夜の、神社で俺が、一番聞きたかった言葉をくれた。

それは王の言葉ではない。

ただの親友の言葉だった。

「…ありがとう、音無くん」

「俺は、君がいてくれて、本当に良かった。必ず勝つよ」

「最高の応援、頼んだぞ」


「任せろ。——勝ってこい」

神社の鈴は鳴らさない。鳴るのは胸の鼓動だけだ。

決戦の音を、今夜だけは二人で聴いた。

拳が触れ合い、乾いた音が夜気に小さく跳ねた。


俺たちは、ただ静かに同じ夜空を見上げていた。

明日、始まる最後の戦いの、その向こう側を夢見るように。


40-3◆決勝直前、それぞれの誓い◆

東京体育館は、昨日の準決勝よりさらに熱い熱気に包まれていた。

観客席から立ち上るざわめき、

汗とスポーツドリンクが混じった匂い、

応援団の太鼓が鳴らす重低音。

まるで体育館そのものが、巨大な心臓のように脈打っている。

決勝戦。そのたった三文字が体育館の空気を震わせる。

洛北祥雲学園(京都代表) vs 那代工業高校(秋田代表)


ミラー:「…いよいよだな、奏。お前の脚本の本当の最終回だ」

奏:「いや。違う。これは俺の脚本じゃない。あいつら自身の物語だ」


試合前の洛北祥雲学園ロッカールーム。

静寂。しかし、その奥に燃えるような闘志が渦を巻いていた。

円陣の中心に立つのは、新しい王国の軍師、三上卓哉。


彼は全員の目を、一人一人、丁寧に見ていく。

そして静かに、しかし魂を震わせる声で言った。

「いいか。難しいことは考えるな。戦術も分析も、この試合の責任も―そんなものは全て俺が背負う!」

三上の声が低く重く響き渡る。


「俺はこの七年間、勝つこと、見返すこと、そればかり考えて生きてきた。

でもお前たちが教えてくれたんだ。バスケはもっと自由で楽しいもんだってな。最高の仲間と最高の舞台で最高の相手とバスケができる!おまえら、幸せ過ぎるじゃないか!」


一拍置き、三上は笑った。

「だから命令だ。この40分間だけは、恐怖も結果も全部、忘れろ。

笑って、走って、ぶつかって、倒れてこい!勝つのは“楽しんだ方”だ!」


その言葉に、全員の胸が一気に熱くなる。

天宮がゆっくり立ち上がり、声を張り上げた。

「行くぞ!!」

「おうっっっ!!!」

雷鳴のような声が、ロッカールームを震わせた。


久条が静かにコートを見下ろす。

「…勝つも負けるも、紙一重。本当の頂上決戦ね」

結城が祈るように手を組む。

「大丈夫。天宮くんなら…!」


俺たちの後ろの席。

轟木が腕を組んで呟いた。

「…見届けようぜ、要介。あいつらの最高の試合を」

坂元が頷く。

「ああ。バスケ部は俺たちの誇りだ」


隣では柴田が叫んでいた。

「うおおお!始まる!始まるぞ!」

斎藤が、静かに、言った。

「…ああ。俺たちの王の最大の戦いがな」


山中が俺の肩を掴む。

「頼む…!勝ってくれ…!」

「天宮くんならやってくれるさ!」


その俺たちの後ろに、いつの間にか仁田先輩が立っていた。

「…どっちが勝っても、おかしくない。だが一つだけ言えることがある」

「今日の試合は伝説になる。俺たちはその証人だ」


その言葉と同時に会場の照明が落ちる。

「両校、スターティングファイブを発表します!!!」

地鳴りのような歓声。

最後の戦いの幕が今、上がろうとしていた。


40-4◆最後の戦場、そして十人の王たち◆

俺は観客席でただ息を呑んだ。


アリーナDJの絶叫が響き渡る。

「さあ、お待たせいたしました!ウィンターカップファイナル!最後の舞台に残った両チームの入場です!」

スモークとレーザー光線が入り乱れる、コートにまず、姿を現したのは俺たちの王国だった。


「まずは京都府代表!洛北祥雲学園高等部!」

一人ずつスポットライトを浴びて、選手がコートへと駆け出してくる。


「センター!チームの魂!泥臭き副主将!上夷――壮一郎!」

「パワーフォワード!ゴール下の番人!フィジカルモンスター!石櫃――智哉!」

「スモールフォワード!コートを切り裂く若き獅子!長峯――昌吉!」

「シューティングガード!その手から放たれる光は勝利への道標!クラッチシューター!望月――和成!」

「そして、ポイントガード!この傷だらけの王国を導く絶対的、太陽王!キャプテン!天宮――蓮司!」

「ヘッドコーチ!七年ぶりに、この王国へと帰還したアメリカ帰りの救世主!三上――卓哉!」


割れんばかりの拍手。

そして次に会場の空気が変わった。

高校バスケ界の絶対王者がその姿を現す。


「対するは、秋田県代表!那代工業高校!」


「センター!日本ユース代表!頂点に最も近い男!キャプテン!榊原――迅!」

「パワーフォワード!絶対王者を支える沈黙の、職人!篠田――慎吾!」

「スモールフォワード!1on1最強!北の絶対王者!花巻――耀平!」

「シューティングガード!その、シュートはもはや、祈りではない。ただの事実だ!辻村――海翔!」

「そして、ポイントガード!高校バスケ界の神に選ばれし、男!神谷――遼!」

(…この男だ)

俺は観客席から神谷遼を見た。

何もしていないのに、会場を支配している。

登場しただけで、コートの空気が変わる。

「司令塔」というより「支配者」

昨日の試合で初めて見た神谷遼

天宮と同じポジションなのに、まるで別の生き物のように見えた。


「最後にヘッドコーチ!この常勝軍団を作り上げた名将!美濃部――清隆!」


身長、雰囲気、眼光──高校生とは思えない。

まるで「プロの戦士たち」がそこに立っているようだった。

結城が息を呑む。

「…なんでだろう。あの人たち、笑ってるのに…怖い」

久条が頷いた。

「余裕よ。王者の風格って、こういうこと」


ミラー:「…役者は、揃ったな」

奏:「ああ。後はただ結末を待つだけだ」


コートの中央で十人の王たちが静かに睨み合っていた。

そのあまりにも濃密な闘気が、アリーナ全体を支配していた。


スターティングファイブの紹介が終わり会場の照明が戻る。

だが、熱狂は、戻らない。

アリーナは水を打ったように静まり返っていた。

数千人の観客が、固唾を飲んで、これから始まる伝説を見つめている。


選手たちがコートに散っていく。

ポジションに、つくその僅かな時間。

二つの場所で、静かな会話が交わされた。


スモールフォワード。

北の王、花巻耀平が、その視線の先にいる、一年生、長峯昌吉に静かに告げた。

「…お前が大物ルーキーか。面白い眼をしているな」

長峯は怯まない。

北の王の視線を真っ直ぐに見つめ返す。

「…あなたを超えるために、ここまで来ました」

花巻は初めて、その口元に獰猛な笑みを浮かべた。

「面白い。…かかってこい!若獅子」


そしてセンターサークル。

二人の天才司令塔が向かい合う。

天宮蓮司と神谷遼。


神谷が静かに口を開いた。

「…やっと、会えたな。天宮蓮司」

天宮は穏やかに頷く。

「ああ。最高の舞台で初めて、俺はあなたに会えた」

神谷は続ける。

「お前のチームは傷だらけだ。…だがお前らが、過去最強のライバルだと一瞬でわかった」

天宮はただ静かに微笑んだ。

「さすが、よくわかっているな」


アリーナの音が消えた。

歓声も、DJの声も、何もかも遠ざかる。

天宮は呼吸を整え、指先の汗をユニフォームで拭った。

一方で神谷は微動だにしない。

まるでこの試合の結末をもう知っているかのように。


レフェリーが、ボールを高く掲げる。

その笛の音が静寂を切り裂いた。

試合が始まった。

俺たちの、最後の戦争が今始まったのだ。

第四十話をお読みいただきありがとうございます。

作者の京太郎です。


夜の神社で交わされた脚本家と太陽王の静かなる約束。

全ての役者がそれぞれの覚悟を胸に、最後の舞台へと上がりました。


決勝戦、直前。

ロッカールームでの新しいボスと王国の最後の誓い。


最強の挑戦者、洛北祥雲。

絶対王者、那代工業。

十人の王たちがコートの上で睨み合う。

その息も詰まるような緊張感が、皆様にも伝わりましたでしょうか。


いよいよ、次回、物語は最後の試合へと突入します。

4か月間にわたる、俺たちの教室リーグ。

その全ての答えが、この四十数分間の、死闘の中にあります。


果たして、傷だらけの王国は奇跡を起こせるのか。

そして、その結末をただ見届けることしかできない脚本家は何を思うのか。

物語の、本当の、最終回。

ぜひ、その眼で確かめてください。


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よろしくお願いします。

皆様の声が何よりの力になります。


それではまた次の話でお会いしましょう

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