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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
第六章:ヘッドコーチ追放計画

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【34】虎の穴からガラスの城へ~影の帝王の傷痕

34-1◆共犯者たちの冷徹な愛◆

だが、俺は澄玲の手を取ってから気づいた。

彼女のその完璧な脚本にある、たった一つの、しかし致命的な「欠陥」を指摘した。


俺は、最大のリスクを確認する必要があった。

「…待ってください。その脚本には最も重要な視点が、一つ欠けている」


澄玲は、楽しそうに目を細めた。

澄玲「ほう?何が?」


俺は、この壮大な脚本に関わる最も危険な名前を口にした。

「あなたの弟…天宮蓮司くんは、どこまで知っている?」

俺のその問いに、澄玲は心底、楽しそうにそしてどこか誇らしげに微笑んだ。


澄玲「あの子は、天才よ。…もちろん、ある程度は気づいているわ」

「このディベート大会のテーマが、ただのありふれた議題ではないこと。私が意図的にわが母校の生徒たちの魂を揺さぶるような『問い』を投げかけていること。

…そのくらいは、あの子もとっくに見抜いている」


澄玲は続ける。その声には弟への深い愛情が滲んでいた。

澄玲:「けれど、あの子が理解しているのはそこまでよ」

「あの子にとって、この大会はあくまで未来の人材を育てるための高尚な知的な遊戯。…

まさかその裏で私があなたのような、逸材と手を組んで『大槻』を追い出そうとしているなんて、夢にも思っていないわ。もちろん彼は7年前の三上卓哉くんの事件のことも知らない」

「なぜなら、あの子の世界には、そもそも私たちがこれからやろうとしているような、人間の汚さや醜い復讐という概念が存在しないのだから」


俺は、彼女に冷たい現実を突きつけた。

「その蓮司くんが、この計画を素直に受け入れるとは思えない。彼にとって大槻は、恩師であり父親のような存在のはずだ。彼の純粋な『正義』が、俺たちのこのやり方を許すとは思えない」


俺の、その問いに澄玲は初めてどこか哀しげな笑みを浮かべた。

「…ええ。その通りよ。あの子は、全てを知れば、きっと誰よりも苦しむでしょうね」

「けれど心配はいらないわ。あの子が最後に、選ぶのは個人的な『情』ではない。彼が信じる絶対的な『正義』よ。そしてこれが彼をひとつ、成長させるきっかけにもなる」

「『正義』が、どちらにあるのかを、彼に教えるのが私たちの役目でしょう?そこは私に任せておきなさい」


34-2◆ゲームマスターの依頼、そして脚本家の新しい“仕事”◆

俺と天宮澄玲の間に、危うくも確かな“同盟”が結ばれた。

彼女は、満足げに微笑むと、ソファーに深く腰掛け直した。

そしてまるで、チェスの最初の一手を指すかのように静かに告げた。


彼女の瞳には、もはや迷いはない。

「では、最初の『改革』を始めましょうか。…音無くん、あなたに一つ相談があるの」

「腐敗の大元を断ち切るために大槻理人を、この学園から完全に追放するわ」


そのあまりにも揺るぎない宣言。

俺は、彼女の覚悟を正面から受け止めた。


俺は、その“正義の刃”が生む副作用を先に指摘した。

「…ですが、そのためには、大槻の決定的な『不祥事』が必要になる。…そうなれば必然的に蓮司くんのバスケ部に、マイナスの影響が出ます」

俺は、彼女の脚本のもうひとつの「穴」を指摘する。


彼女は静かに頷いた。その点こそ、この壮大な脚本の、最も譲れない制約条件であることを、彼女自身が誰よりも理解していたからだ。

「ええ。その通りよ。蓮司にはウィンターカップを、最高の形で戦い抜いてほしい。彼の栄光に傷をつけることだけは、絶対に避けなければならないわ」


俺は厳しい制約条件から、導き出される絶望的な結論を口にした。

「…つまり俺の父が関わってしまった、バスケ部の『三上卓哉暴行事件』は使えないということですね」


その俺の言葉に、澄玲は初めて、完璧な笑顔を僅かに曇らせた。

「ええ。あのカードはあまりにも重すぎる。…それにあなたのお父様を、これ以上巻き込むわけには、いかないわ」


ミラー:「…はっ。無茶を言う女だ。最強の武器を封じてどう戦うつもりだ」

奏:「…いや。こいつは俺を試しているんだ」


澄玲は、再びあの全てを見透かすような、瞳で俺を見た。

「だから、あなたにお願いがあるの。音無くん」

彼女の声は、依頼でありながら、どこか俺の能力を試すような響きがあった。

「バスケ部とは一切、無関係の大槻理人の『不祥事』それを探し出してほしいの」

彼女は俺の覚悟を、試すようにこのあまりにも困難な謎解きを俺に委ねたのだ。


俺は、彼女が俺に何を求めているのかを、瞬時に理解した。

「…なるほど。バスケ部という『聖域』を守りながら、その外側から敵の心臓だけを撃ち抜く、と。…面白い脚本になりそうだ」


ミラー:「…だが、そんなものが都合よく見つかるのか?」

奏:「あの大槻理人という男だ。叩けばいくらでも埃は出てくるだろう。俺のこの『眼』の前では、どんな人間の『闇』も隠し通すことはできない。それを暴き出すのが俺の“仕事”だ」


澄玲はつづけた

「条件は2つ。バスケ部に波及させない。違法手段は使わない」


ミラー:「縛りが多いほど、燃えるな、奏」

奏:「脚本にルールがあるほど、演技は際立つ」


俺は澄玲へと、向き直った。

「分かりました。その仕事、引き受けましょう」


「頼んだわ。何か見つかったら、すぐに連絡して」

彼女はそう言うと満足げに頷いた。


これで、この日の密談は終わった。

俺は、再び、あの潜水艦のようなマイバッハに乗せられ、自宅まで送ってもらった。

車の窓から流れていく、京都の夜景を、眺めながら俺はただ静かに思考を巡らせていた。


ミラー:「で、そんな都合のいい“不祥事”が本当にあるのか?」

奏:「あるかどうかは関係ない。見つける。なければ作る――それが“仕事”だろ」


34-3◆影の帝王の記憶、そして脚本家の閃き◆

翌日の昼休み。

俺は山中と二人。中庭のベンチで弁当を広げていた。

文化祭もディベート大会も終わった。

嵐が過ぎ去ったかのような穏やかな時間。


そんなつかの間の休息、それは突如、壊された。

中庭の向こうから轟木一派が歩いてくる。

圧のある足音が芝を踏み砕く。俺は無意識に身を低くした。

ミラー:「賢明な判断だ。見つかったら“波風”が立つだけだ」

奏:「ああ、ここはやり過ごすのが得策だ」


山中が目だけで、彼らを追いながら、思い出したように言う。

「そういや、音無。例の轟木先輩との件、どうなったんだ?」

「…いや。まだ何も進行していない」

俺は適当にそう答えた。実際にそうだった。


その轟木の熊のような後ろ姿。それが引き金になった。

俺の脳裏で、忘れかけていた記憶の扉が音を立てて開いた。


屋上での、あの轟木一派からの長峯についての尋問。

あの時、俺は轟木剛造を〈観識〉でスキャンした。

彼の経歴と、その魂の最も深い傷を。


ミラー:「…何か思い出さないか?奏。奴のプロフィールだ」

奏:「部活動:元柔道部(一年時廃部)…」

ミラー:「『廃部』の原因。お前は轟木の記憶の残響も読み取っていたはずだ。奴のその憎悪の矛先が、誰に向いていたのかを」


俺の脳内で全てのピースが繋がった。

あの時、俺が読み取った轟木の魂の絶叫。その怒りの向かう先。


奏:「…大槻理人だ」

その名前を呟いた瞬間。俺の脳裏の中で、2つの課題が完全につながった。


奏:「そうだ…これだ!これしかない!これはあくまで体育の授業中の事件だ。バスケ部とは全く関係ない」

俺は思わず、立ち上がっていた。山中が驚いて、俺を見ている。

意味が分からないという顔の山中に、軽く手を上げ、俺はベンチを離れる。

「お、おい音無?急にどうしたんだよ…」

俺はポケットのスマホを取り出す。連絡先〈天宮澄玲〉で親指を止め、メッセージを短く打ち込む。

〈昨日の宿題、解決策があるかもしれません。今日、お会いできますか?〉


ミラー:「もしかしたら“聖域”の外側から、心臓を撃てるかもな」

奏:「脚本は整った。あとは証拠を並べ、役者を立たせるだけだ」


俺は中庭を横切る、轟木の背を、真正面から見据えた。

――新しい仕事の突破口は、もう開いた。


34-4◆虎の穴、そして影の帝王への謁見◆

五時間目の授業中。

俺の思考は、もはや授業にはなかった。


ミラー:「どうする?奏。早速、動くのか」

奏:「ああ。放課後、轟木さんのあの屋上へ行く」

ミラー:「…いや待てよ。今は12月の中旬だ。京都の底冷えする、この季節に屋上にいるはずがない」

奏:「…そうだったな」

ミラー:「ならどうする」

奏:「決まっている。虎の穴に直接乗り込むだけだ」

ミラー:「おまえ、本当に成長したな」

奏:「ここで退けばすべてが水泡に帰す。ここで一手、進めなければ道は開けない」


ホームルームの終わりのチャイムが鳴る。

俺はすぐに席を立った。向かう先は三年の教室棟。

二年生の廊下とは、空気が違う。

誰もが俺を値踏みするような視線で見る。

未知の領域。敵地だ。

心臓が肋骨を内側から叩く。掌に冷たい汗が滲む。


三年七組。そのプレートを見上げる。

ドアの隙間から漏れるのは、俺たちの教室とは、異質な猛獣のような笑い声。

俺は一度だけ、息を吸い込み、そして、吐いた。

そして、教室の中にいた三年生に声をかけた。

「失礼します。轟木先輩はいますか?」


俺のその声に反応し、振り返ったのは、教室の視線そのものだった。

そしてその視線の壁が、モーゼの海のように割れる。

その奥から現れたのは、氷の瞳の男。坂元要介だ。

坂元の声は低く、言葉よりも威圧感が先に肌を刺した。

「ああ?誰かと思えば、音無じゃねえか。何の用だ。ここは二年の来る場所じゃねえぞ」

ミラー:「…おい奏。こいつ、なぜかキレ気味だぞ」

奏:「分かっている。当然だ。放置しているのは事実だ」


俺はその威圧を無視して、告げた。

「例の件。解決策があるかもしれません」

「今夜、時間をください。会わせたい人がいます」


坂元が鼻で笑おうとした、その時だった。

教室の奥から、重く低い声が響いた。

「まあ、待てよ!要介」

轟木剛造が立ち上がる。椅子が小さく悲鳴を上げた。周囲の三年が自然と道を開ける。

彼は俺を頭からつま先まで一度で測り、口の端だけで笑う。


「面白い。お前、二年の教室から、三年校舎まで一人で来たのか」

「…度胸あるな」

そして彼は静かに、しかし力強く言った。

「いいだろう。行ってやる」

「…それで?いつ、どこへ行けばいいんだ」


俺は、事前に天宮澄玲から、伝えられていた、その場所と時間を告げた。

「夜六時。四条烏丸の京都四条ゼロゲートビルです」

「わかった…期待してるぜ!音無!」

その瞬間、3年7組の空気がわずかに揺れた。

まるで、影の帝王が俺に“観客席”ではなく“舞台”への切符を与えたかのようだった。


34-5◆三人の王、そして最初の軍議◆

四条烏丸。オフィスビルが立ち並ぶ一角。

ガラスと鋼鉄の未来的なタワー。

その前で、俺は一人で待っていた。

京都四条ゼロゲートビル。天宮財閥が未来の価値を生み出すための事業開発拠点だ。


奏:「…ガラスと鋼鉄の城。斎藤もここへ通っている」

ミラー:「ああ。そして、これからお前は、ここの城主と影の帝王とテーブルを囲む。面白い脚本じゃないか」


夜6時5分前。未来的な空間。

そこにあまりにも不釣り合いな二つの影が現れた。

暴力と野性の匂い。轟木剛造と坂元要介だった。

坂元は、俺の顔を見るなり、吐き捨てるように言った。

坂元:「…で?話ってのは何だ?音無。俺たちは暇じゃねえんだ」

轟木は何も言わない。ただその鋭い瞳で、俺を値踏みするように見ている。


やがて、エントランスの自動ドアが静かに開いた。

現れたのは、若い女性秘書。完璧な微笑み。

隙のない立ち居、振る舞い。俺たちとは、違う世界の住人だ。

「皆様、お待ちしておりました。澄玲様が最上階でお待ちです」


俺たちは、エレベーターに乗り込む。

エレベーターが上昇するたび、鼓動が一段ずつ高まる。

轟木も坂元も一言も喋らない。

密閉された空間に、わずかな金属音だけが響く。


案内されたのは、株式会社APEX GLOBALのオフィスだった。

白と黒。そしてガラスだけ。近代的な内装。

そして一番奥の社長室。そこに天宮澄玲はいた。

彼女は巨大な窓を背にしていた。

まるで、この街の全てを支配する女王のように、静かに座っていた。

天宮澄玲がこちらを見た瞬間、部屋の温度が変わった気がした。


「いらっしゃい。轟木くん、坂元くん。そして――音無くん」

彼女は、まず轟木と坂元に優雅に一礼した。

そして俺の瞳を、真っ直ぐに見つめる。


「さすがね、音無くん。昨日、あなたに出した宿題。もうその答えを持ってきたというわけ?」

その声には、俺の能力への絶対的な信頼が宿っていた。

「やはり私の目に狂いはなかったわ」


澄玲は轟木と坂元へと向き直る。

「まずお二人にも、話しておきます。バスケ部の大槻コーチを、この学園から追放するために、私と音無くんは手を組みました。」

そのあまりにも揺るぎない宣言。坂元の眉がピクリと動いた。


俺は、ゲームマスターの言葉を引き継ぐ。そして影の帝王へ、その脚本の最初の役を渡した。

「はい。そしてそのために必要なピース。バスケ部の被害を最小限にする、バスケ部活動外の大槻による不祥事。その『真実』をここにいる轟木先輩たちが、握っていると思われます」


ここからは、俺が用意した舞台。

一手でもミスれば、舞台装置は崩れ落ちる。

俺は、静かに轟木へと視線を送った。

全ての役者は揃った。俺の視線を、轟木は真っ直ぐに受け止めた。

そして、彼は初めて、重い口を開いた。

その声は静かだったが、この部屋の空気を支配するには十分すぎた。


「…音無。理屈はどうでもいい。単刀直入に聞く。…お前は大槻を潰せるのか?」

「…はい。轟木先輩のご協力次第で」


轟木は一度だけ、静かに目を閉じた。

「いいだろう…二年前の、あの夏の日のことを、全て話してやる」

その言葉で、澄玲のまなざしがわずかに揺れた。

第三十四話をお読みいただきありがとうございます。

作者の京太郎です。


ゲームマスターと脚本家。そして影の帝王。

ついに三人の王が最後の戦いのために一つのテーブルにつきました。


物語の全ての謎を解く鍵。

それは忘れられたはずの過去の記憶の中にありました。

利害だけで結ばれたこの危険な同盟。

皆様の目には彼らが果たして正義の味方に見えましたでしょうか。


次回ついに轟木剛造の口から

二年前の『柔道部廃部事件』の全ての真相が語られます。

それは大槻理人という絶対悪を断罪するための最後の証言。

物語は最終章のクライマックスへとさらに加速していきます。


面白いと思っていただけましたら

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よろしくお願いします。

皆様の声が何よりの力になります。


それではまた次の話でお会いしましょう。

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京都四条ゼロゲートビル

(Kyoto Shijo ZERO-GATE)

■ 概要

京都市中心部・四条烏丸エリアにそびえ立つ、天宮財団が所有する最先端オフィスビル。

全面ガラス張りの外壁と鋼鉄フレームが織りなす、流線型の近未来的デザインが特徴で、

古都・京都の伝統的な街並みの中で、異質なまでに際立つ存在感を放っている。

■ コンセプト

「未来の価値を、ゼロから創る」

天宮財団が巨額の資金を投じて開発した、

新規事業・先端テクノロジー・スタートアップのための拠点。

若き才能と資本が交わる「イノベーション・ハブ」

伝統都市・京都における、未来産業創出の象徴

天宮家の「次世代事業開発」戦略の中核

■ 入居テナント(一部)

株式会社 APEX GLOBAL

 天宮澄玲(天宮蓮司の姉)が率いる、国際展開型の投資・開発企業。

 AI、次世代エネルギー、バイオテックなど、世界規模で未来を見据えた事業を推進している。

新進気鋭のITベンチャー企業群

 国内外から注目を集めるスタートアップが複数入居。

 斎藤律がインターンとして働く企業も、このビルの上層階に拠点を構える。

■ 物語における役割

天宮財団の影響力と、学園外での絶対的な支配力を象徴するランドマーク。

斎藤律や天宮澄玲を介した「学園外ネットワーク」の舞台。

天宮家が単なる学園の頂点にとどまらず、日本経済の中枢をも動かす存在であることを示す重要な装置。

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