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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
第六章:ヘッドコーチ追放計画

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33/46

【33】本当の脚本家は、誰だ?

33-1◆玉座を捨てた女王、そして屋上での契約◆

全国大会優勝。そのあまりにも甘美な響き。

祇園の夜景を見下ろす、クラブ『Club Lotus』のVIPルームは、女王の凱旋を祝う、仲間たちの熱狂に包まれていた。


「亜里沙、マジで、おめでとう!」

「本当に、すごかったわ!最高の勝利よ!」

柴田と斎藤、結城が、興奮気味に、久条を称える。斎藤も静かに、しかし満足げに頷いている。

その輪の外側では、美尾敦子と福寿由紀乃も、シャンパングラスを片手に興奮した様子で語り合っていた。


そしてその部屋の一番隅のテーブル。

そこには、場違いな空気を醸し出す三人の男たちがいた。

三好央馬、富田茂輝、そして田原優作。

彼らもまた、文化祭での「功績」を認められ、この祝勝会への参加を特別に許されたのだ。


三好が、どこかぎこちない様子でグラスを掲げる。

「…まあ、なんだ。久条さんのあのディベートはマジでやばかったな。俺らとは住む世界が違うって感じだ」

その言葉に、富田と田原も無言で頷いていた。


その全ての熱狂の中心で、久条亜里沙の微笑みだけが、まるで精巧に作られたガラス細工のように温度を持たなかった。

やがて彼女は、その喧騒を静かな一言で遮った。

「…ごめんなさい。少し夜風に当たってくるわ。頭を冷やしたいの」


仲間たちが、何かを言う前に、彼女は一人、部屋を出ていった。

熱狂だけが、取り残されたVIPルーム。その重い扉が静かに閉まる。


その扉が、閉まったのを見計らったように、一人の男がおずおずと、俺の隣の席へとやってきた。

山中駿平だ。

「…おい、音無。なんか、久条さん、様子おかしくねえか?優勝したってのに、全然嬉しそうじゃなかったぞ」

「さあな。女王には、女王にしか見えない景色があるんだろ」

俺は適当にそう答えた。だが、俺の思考はすでに次の舞台へと向かっていた。


彼女が向かった先は、このビルの屋上だった。

祇園の光が、宝石のように、眼下に広がる。冷たい夜風が彼女の火照った頬を撫でた。

彼女は、その手すりにもたれかかるとスマホを取り出す。

そして、たった一人の男をこの孤独な玉座へと呼び出した。


俺が屋上に着くと、久条はただ静かにそこに立っていた。

その声は氷のように冷たかった。

「…おめでとう、脚本家さん。あなたの完璧な勝利よ」


ミラー:「…はっ。最高の皮肉だな」

奏:「ああ。こいつは、俺を称えにここへ呼んだわけじゃない。何が言いたいんだろう?」


俺は、ただ黙って彼女の次の言葉を待った。

「あの、最後の一手。天宮くんの存在を武器にする、あの悪魔のような脚本。…あなたは一体、なぜあんな発想になれるの?何を知っていたの?」


「俺はあんたを勝たせるための、最善手を与えた。ただそれだけだ」

俺は、冷徹に事実だけを告げる。

その俺の言葉が引き金になった。


彼女のその完璧な仮面が、初めて音を立ててひび割れた。

その瞳に浮かぶのは、怒りでも侮蔑でもない。

ただ、純粋なそして絶対的な「敗北」だった。


「…私は、生まれて初めて負けたわ。あなただけが知っている敗北よ」

その声は震えていた。

「あの神崎沙羅に、そして何よりあなたに」


彼女は、ゆっくりと、立ち上がった。

しかしその瞳に浮かぶのは、もはや俺への敵意や侮蔑ではない。

まるで未知のしかしあまりにも美しい兵器を、見つめるかのような、純粋な「畏怖」と「興味」だった。


「あなたのあの脚本。…完璧だったわ。相手の全てを読み切り、最も効果的な一手を、私以上に理解していた」


彼女はそこで一度、言葉を切った。

そしてまるで、歴史的な宣言をするかのように、静かにそして力強く言った。


「音無奏。あなたに私の『軍師』になってもらうわ。いえ同格として認めるわ」


それは、命令でも懇願でもない。

女王が、自らの最も信頼する戦略家を、ただ一人、指名する時の揺るぎない響きがあった。


「私と、共にこの学園の頂点に立ちましょう」


女王は自らの敗北を認め、そして俺を、対等な「仲間」として認めた。

俺たちの、共闘が今この屋上で、本当の意味で始まったのだ。


33-2◆女王の演説、そして脚本家の戴冠◆

12月15日、月曜日。

全国高校生ディベート選手権の、熱狂が冷めやらぬ教室。

放課後のホームルームが始まる寸前。

その喧騒を、女王のたった一つの動きが、完全に支配した。

担任の烏丸を押しのけて、久条亜里沙が、静かに教壇の前に立ったのだ。


クラス中の視線が、彼女に集まる。

彼女は一度、深く息を吸い込むと、完璧な、しかし、どこか、これまでとは違う柔らかな笑みで語り始めた。


「皆さん。私からご報告があります。週末の全国高校生英語ディベート選手権。皆様の応援のおかげで、優勝することができました」


その言葉に、教室が万雷の拍手に包まれる。

柴田が雄叫びを上げた。「よっしゃあ!」と。


久条は、その拍手を、静かに手で制した。

「正直に言えば、とても、苦しい戦いでした。二年四組の名誉のため、そして、久条家の名を背負う者として、絶対に負けられないという重圧。何度も心が折れそうになりました。でも先日、この場所で優勝宣言をしてしまった私としては、絶対に負けられない戦いでした」

「けれど、そんな時、私を支えてくれたのは、皆さんの応援と、そしてここにいる一人のクラスメイトの献身的なサポートでした」


彼女の視線が、教室のある一点を射抜く。

俺の席だ。


「恥ずかしながら、二学期の最初までは、その存在すら、私は認識していなかった。けれど彼は誰よりも、このクラスのことを考え、そして私の見えないところで、勝利への道を切り開いてくれた」

「音無奏くん。…立ってくれるかしら」


全ての視線が、俺に突き刺さる。

俺は、静かに立ち上がった。


「今回の優勝は、彼の、その悪魔的なまでの、分析力がなければ決してありえませんでした」

そして彼女はこの日、最大の「爆弾」を投下した。

「だから私は決めました。音無奏くんを、私と同格のElysion最高幹部として迎え入れます」


ミラー:「…はっ。面白い。女王様、お前を、自分の王国に取り込むつもりだ」

奏:「ああ。だが残念ながら、俺は誰かの国の騎士になるつもりはない」


俺は、静かに一歩、前へ出た。

そして久条に、そしてクラス全員に聞こえるように言った。


「久条さん。そのお気持ちだけで十分です。俺はElysionには入りません」

教室がどよめく。俺は続ける。


「なぜなら俺はもうElysionも観客席も、この教室には必要ないと思っているから」

「これからはクラス全員が、分け隔てなく、語り合い、そして笑い合える。そんな残りの高校生活を、みんなで作りませんか。それこそが俺たちの最高の思い出になるはずです」


俺のその言葉。

それがこの教室の、古い「空気」を完全に破壊した。

一瞬の静寂の後。

教室は、これまでで一番、温かい万雷の拍手に包まれた。


その拍手の中、俺の視界の隅で、スカウターが大きな変動を表示していた。


【CLASS RANKING - TOP TIER】

1 天宮 蓮司 [INFLUENCE: --- (測定不能)]

2 音無 奏 [INFLUENCE: 100]

2 久条 亜里沙 [INFLUENCE: 100]


ミラー:「はっ。見てみろよ、奏。ついに女王の玉座と同じ景色まで登り詰めたな」

奏:「ああ。俺が書いた『脚本』とこの『眼』の力。…ただそれだけだ」

ミラー:「だが、見上げてみろよ。お前のその頭上には―まだ―」

奏:「分かっている。まだ太陽が輝いているな」


33-3◆脚本家の違和感、そして太陽の城への招待状◆

翌朝、教室の空気は、完全に変わった。

俺が、教室に入るとクラスメイトたちが自然に挨拶をしてくる。

その視線にもはや侮蔑も恐怖もない。

ただ格上と認めた人間への純粋な好奇心と、そして、どこか掴みどころのない存在への敬意のようなものが、混じっていた。


ミラー:「…どうだ?奏。女王と同格になった、気分は」

奏:「別に。何も変わらない。…それよりミラー。おかしいと思わないか?」

ミラー:「何がだ?お前は、この教室リーグの頂点に立った。完璧な勝利だろ」

奏:「…そうじゃない。あのディベート大会のテーマだ。あまりにも、俺たちの学園が抱える問題に、寄り添いすぎていた。まるで誰かが俺たちに問題を考えさせるために、あえて用意したかのように」

ミラー:「確かに、大会の時から感じていた違和感だったな」

奏:「絶対にそこには、何か裏があるはずだと俺は思う」


俺のその違和感。

その答を持っている人間は、この学園に一人しかいない。

俺は、放課後、部活へと向かう、天宮蓮司を呼び止めた。

彼は、今週末から始まるウィンターカップの全国大会を控え、その練習に集中しなければならない時期だった。


「天宮くん。少しだけ、いいか」

「音無くん?どうしたんだい、そんなに真剣な顔をして」

「ディベート大会のテーマだ。あれは一体、誰が決めていた?」


俺のそのあまりにも直接的な問い。

それに天宮は、驚くこともなく、ただ楽しそうに笑った。

「…なるほど。君はそこに気づいたんだね」

そして彼は、俺に予測不能な提案をしてきた。


「その回答を持っている人物、僕より適任の人間がいる。…今夜、うちに来ないかい?その本当の『仕掛け人』に、会わせてあげるよ」


俺は天宮のその言葉に従い、バスケ部の練習が終わるのを、体育館の観客席で待っていた。

コートの中では、天宮が王として君臨している。

その一点の曇りもない輝き。


ミラー:「…脚本家が、王の帰りを待つか。滑稽な光景だな」

奏:「…ああ。だが、見ておいて損はない。あれがこの学園の本当の『光』だ」


やがて練習が終わり、俺と天宮は校門へと向かう。

そこには一台の、黒塗りのマイバッハが静かに停まっていた。


再び乗り込む潜水艦のような静寂。

車は、京都の街を滑るように走り、そしてあの異次元の大豪邸へとたどり着いた。

応接室に通された俺は、一人でその時を待つ。


やがて重厚な扉が、静かに開いた。

そこに立っていたのは、天宮蓮司ではなかった。

黒いパンツスーツを、完璧に着こなしたあの圧倒的なカリスマ。

天宮澄玲。その人だった。


33-4◆ゲームマスターの告白、そして本当の脚本家◆

天宮澄玲は俺の前に静かに腰を下ろすと、まるで全てを見透かすかのように微笑んだ。


「音無奏くん。日曜日に会ったわね」

その声は、鈴が鳴るように美しく、そしてどこまでも魅力的だった。

「――弟の蓮司が、最近、楽しそうにあなたの話をするわ」


ミラー:「…はっ。面白い。王様は、お前のことを、姉に全て報告していたらしいな」

奏:「俺はずっと、この女の掌の上だったというわけか」


「実は・・・私のほうから音無くんを誘うつもりだった。あなたから来てくれるなんて嬉しいわ」


俺は外面の仮面を、かなぐり捨てた。もはや無意味だ。

俺は、単刀直入に切り出した。

「ディベート大会のテーマ。…あれは、あなたが?仕組んでいた?」

俺は、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。

「あまりにも、俺たちの学園が抱える『病巣』を、的確に抉り出すようなテーマばかりだった。偶然とは思えなくて」


俺の、その問いに彼女は驚かなかった。

むしろ、その問いを待っていたかのように、静かにそして楽しそうに微笑んだ。


「ええ。そうよ」

彼女はあっさりと認めた。


「なぜ、あのようなテーマを選んだのですか?『勝利至上主義』『特権階級』『真実の隠蔽』…。まるで、この学園のそしてバスケ部の『闇』を、暗示するかのような。…あなたの意図は何ですか?」


「まず、あなたは七年前の三上卓哉くんの事件、おそらく把握しているわよね」

「はい。知っています」


「…七年前。私は、この洛北祥雲学園高等部の三年生だった。そして白蓮会の第18代会長だった」

その言葉に俺の思考が一瞬、停止する。

奏:「…待ってください。白蓮会って何ですか?」

澄玲は、楽しそうに、目を細めた。

「秘密のサロンよ。この学園の各学年から選ばれた女子生徒2名、本物の『逸材』だけが集う場所。選ばれた彼女たちは、いずれ政界・財界・法曹・学術・芸術のあらゆる分野に進み、国家の中枢を担う。洛北祥雲は単なる進学校ではなく、未来を形づくる“人材供給装置”なのよ。だからこそ、その内部が腐敗すれば、この国全体が蝕まれることになる。そして白蓮会には諜報機関としての機能もある」


「だから私は知っていたわ。三上卓哉くんの事件、その醜い真実の全てを」


彼女の瞳に、初めて静かな、しかし燃えるような「怒り」の色が、宿った。

「私の愛する母校が、内側から腐っていく。そのどうしようもない現実。けれど同時に、私はこの学園を誇りに思っていた。ここで過ごした青春の日々は、確かに私を形づくった。だからこそ――愛しているがゆえに、その腐敗をどうしても許せなかった。でも卒業生の私が、直接手を出せば、それはただの醜聞になるだけ。…だから、私は待っていた」

「この学園を、内側から、変えることができる、新しい『火種』が現れるのを」


奏:「…分からないな。あなたがそれほどの力と正義感を持っていたのなら、なぜ現役の時に行動しなかった?三年生で、生徒会長、そしてその白蓮会の会長だった、あなたなら大槻を、追い出すことも可能だったはずだ」

澄玲は、その問いに静かに首を振った。

「ええ。そう思うでしょうね。…でもそれは子供の正義よ。当時の私は、その『腐ったシステム』の、頂点に立つ、女王そのものだった。私の権力はあくまで大人に頼った学園のルールの上でしか、機能しない。もし私が当時、大槻を告発していたら、その声は『若気の至り』として、大人たちに握り潰されていた。そして私自身も臆病だった。私は、何も変えられずに、ただ、無力な正義のヒロインを演じるだけだった」


「だから、私は機会を狙っていたの。自らが学園のルールに縛られない、卒業生という『外部』の存在になり、そして天宮財団の中で登り詰めた。学園すらも無視できない『本当の権力』を手に入れる、その時まで」


彼女は窓の外の、広大な庭園に視線を移す。

「学園の腐敗を正す。その装置として、今年のディベート大会を利用させてもらったわ。そしてテーマは全て私が仕掛けた、メタファーよ」

「現役の生徒たちに、自らの頭で考えさせて、そして声を上げさせるためのね」


ミラー:「…おい、奏。聞こえるか?この女…」

奏:「ああ。聞こえている。…本当の『脚本家』の声が」


「私が権力を持っても、あくまで行動するのは現役の在校生であるべき。私はそのサポート役にしか過ぎない。私はその立場を逸脱するべきではない」


澄玲は、再び俺へと向き直った。

その瞳には、もはやただの興味ではない。共犯者を見つけたかのような、鋭い光が、宿っていた。


「蓮司から、あなたの話を聞いた時、直感したわ。あなたこそが私がずっと待っていた『火種』であり、学園を変えられる存在なのだと」

「腐った世界を憎む、音無くんの瞳。そしてそれを破壊できるだけの悪魔の知性と行動力。…素晴らしいわ」


彼女は静かに立ち上がった。

そして俺の前に手を差し出す。

それはあまりにも美しく、そして危険な誘いだった。


ミラー:「……どうする、奏? この手を取れば、もう後戻りはできないぞ」

奏:「後戻りなんて、最初から選択肢にない」

ミラー:「ほう?」

奏:「俺には迷う余地なんてなかった。轟木との約束がある。大槻を、必ずこの学園から叩き出す――それが俺の、唯一無二の使命だ」

ミラー:「なるほどな。つまり、お前にとってこの女の手は――」

奏:「ああ。ただの“扉”だ。俺を戦いへ導く扉に過ぎない」


「さあ、音無くん。私と一緒にこの腐りきった世界を改革しましょう」

「標的は、もちろん学園の栄光の象徴であり、同時に腐敗の象徴でもある大槻理人よ」


俺は差し伸べられたその手を、静かに、しかし力強く握り返した。

「……わかりました。だけど勘違いしないでください。俺が進むのは、俺自身の正義のためです。大槻を必ず、この学園から叩き出す。その一点だけは、誰の脚本にも左右されません」


「もちろん、それで構わないわ」

澄玲は満足げに微笑んだ。その瞬間、俺と彼女の間に危うくも確かな“同盟”が結ばれた。

第三十三話をお読みいただきありがとうございます。

作者の京太郎です。


一つの戦いが終わり、そして本当の戦いが始まりました。

主人公が必死に書き換えてきたはずの「脚本」。

しかしその全てがさらに、巨大な別の脚本家――天宮澄玲の掌の上であったという真実。


自分自身ですら、大きな物語の「駒」であったと知った主人公。

皆様の目には、彼のその絶望と、そして新たな覚悟がどう映りましたでしょうか。


女王を従え、そしてゲームマスターと手を組んだ脚本家。

彼が最後に、挑むのはこの学園の、最も深い場所に根を張る「絶対悪」大槻理人です。


轟木との契約、父との因縁、そして天宮蓮司の本当の「正義」。

全ての物語が、一つの終着点へと収束していきます。

いよいよ、最終章、開幕です。


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よろしくお願いします。

皆様の声が、何よりの力になります。


それでは、また次の話でお会いしましょう。

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