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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
第五章:高校生英語ディベート選手権

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【27】玉座のひび割れる音、女王の絶望と覚悟

27-1◆女王の逆転、そして魂の問い◆

「――それでは最終ステートメントに移ります!」

司会者の非情な声が響き渡った。

壇上に立つ、久条の顔には色がない。

誰もが、彼女の敗北を予感していた。

久条がマイクの前に立ったその時だった。

彼女の視線が偶然、観客席に座る一人の少女と交わった。


鳳麗奈。白蓮会の一年生。末っ子である久条亜里沙にとっては、唯一、妹のような存在である。

(嘘でしょ…?あの感情のない機械みたいな男に、私のお姉ちゃんが負けるはずがない…。そんなの絶対に認めない。亜里沙ちゃん。顔を上げて。あなたは私たちの女王でしょ…!)

普段は強気な鳳麗奈が、泣きそうな顔で、ただ必死に手を合わせ、久条の勝利を祈っていた。


その無垢な鳳麗奈の眼差し。それを見た瞬間、久条の心に何かが灯る。

(…そうよ。私が守りたいのは“制度”じゃない。“大切な人達の未来”だ)


彼女は対戦相手である本田に語りかけるのをやめた。

そしてカメラの向こうにいる百人の審査員たちに直接語りかける。

▼最終ステートメント(久条※以下、すべて英語)

「制度は人を守るためにある。ならば人を壊す制度は制度として間違っているのでは?」

「ここからは、カメラの向こう、アメリカにいる高校生審査員の皆さんへ問います」

「あなたの大切な人を深く傷つけるような真実があったとき、それが正義の観点から、公表すべき真実であったとしても、あなたなら”世界に向けて“真実”を叫べますか?」

「自分が同じ立場に立ったと仮定して、投票してください」


会場がどよめく。前列から後方まで、ざわりと波が走った。

それまで本田の論理に鎖で縛られていた空気が、わずかにほぐれていく。

斎藤が呻く。

「…無茶苦茶だ。対戦相手ではなく、審査員の感情に直接、訴えかけた…!」

柴田が前のめりになり、息を詰める。

「…変わった。今、一瞬だけ空気が揺らいだぞ」

そして俺は確信した。

(女王はまだ、沈んでなどいなかった)


続く本田の最終ステートメントは完璧だった。

▼最終ステートメント(本田※以下、すべて英語)

「感情は美しい。けれどそれは人を平等にはしない。私は誰にとっても同じ答えを導く原理を選びます」

その言葉は冷徹で、そしてどこまでも正しかった。


奏:「勝者は?……わからないな。ギリギリで本田か?」

ミラー:「ああ。今のは論理として非の打ちどころがない。女王の反撃が遅すぎたかもな」


司会者が、静かに、しかし確実に会場を制する声で告げた。

「――それでは、最終ジャッジを発表します」


会場の視線が一斉にスクリーンへ注がれる。

空気が一瞬、凍りついたように静まる。

心臓の鼓動だけが耳に響く――そんな錯覚さえあった。

足音も、咳払いも、誰一人として立てない。


司会者が間を置き、数字がゆっくりとスクリーンに表示され始める。

41対41……前列で誰かが小さく息を呑む音がした。

45対45……緊張は臨界点を超え、全員の瞳が一点に吸い寄せられる。


そして――最終結果が表示された。

【53 対 47】

司会者が叫ぶ!

「勝者は……京都代表!久条亜里沙!」


その瞬間、会場が爆発した。

拍手、歓声、悲鳴――あらゆる音が渦を巻く。

柴田が椅子を蹴る勢いで立ち上がり、斎藤が珍しく拳を握って笑う。

結城の頬には涙が光っていた。

薄氷の上を渡るような、大逆転勝利だった。


試合が終わり、互いに一礼したあと。

舞台袖で、久条と本田がすれ違う。


久条は、勝利の余韻を隠すように、微笑みながら言った。

「……私ともあろうものが、初めて少しだけ苦戦したわ、でもあなたの論理は少し冷たすぎるわ」

本田は淡々と、しかしわずかに口角を上げて返す。

「しかし、あなたの物語は少し…“都合が良すぎる”」


二人はそれ以上、何も言わず、逆方向へと歩き出した。

その背中からは、まだ火花の残り香が漂っていた。


27-2◆二連覇達成、その先にあるもの◆

15分の休憩を挟み、決勝戦が始まった。

関西大会の代表枠はすでに決定している。

だがこの場の頂点を決める最後の戦いに、会場の熱は冷めていなかった。


大阪府代表、関西教育大学附属高等学校・野見山修二。

京都府代表、洛北祥雲学園・久条亜里沙。


奏:「いつもの女王に戻ったな」

ミラー:「全国大会出場が決まって、安心したんだろうな」


試合は一方的だった。久条が繰り出す言葉は、観客と審査員の心を同時に揺さぶり、野見山の情熱的な論理を飲み込んでいく。


結果は――【71対29】

圧勝。女王は、自信を取り戻したまま頂点に立った。

昨年に続き関西大会二連覇。

その栄光を称える表彰式が終わると、俺たちは会場のロビーで落ち合った。


「いやー女王様、マジでかっこよかった!」

柴田が興奮気味に言う。

「準決勝、こっちの寿命、縮まったけどね!」

結城が、冗談めかして胸を撫で下ろした。

久条は涼しい笑みを浮かべ肩をすくめる。

「何を大げさな。女王が負けるわけないでしょう?」

しかし斎藤がその言葉に鋭く切り込んだ。

「あの女王様が結構、焦ってたように見えたがな」

久条は長い髪を払って、涼しげに笑う。

「苦戦は演出よ。…ギリギリの方がスリルがあって楽しいでしょ」


奏:「…女王は、いつでも女王らしい」

ミラー:「ああ。決して弱みは見せない。それが彼女の矜持だ」


山中が純粋な笑顔で、久条に駆け寄る。

「とにかく全国大会出場、おめでとうございます!久条さん」

「そうそう、勝てればそれでいいよな!」

柴田も続く。

その仲間たちの言葉に、久条のその完璧な笑顔が一瞬だけ揺らいだ。

「ええ。確かに、何とか勝てたわ」

仲間たちが息を呑む。久条は続ける。

「でも全国には、本田以上の強敵がいると聞いているわ…私にも何か対策が必要ね…」

その言葉は仲間たちへの、そして俺への新しい脚本の始まりを告げる合図だった。


27-3◆東京の天才、そして女王の絶望◆

関西大会から、わずか一週間後。

祇園のクラブ『Club Lotus』のVIPルーム。

久条亜里沙は、巨大なスクリーンに映し出される一人の少女を食い入るように見つめていた。

東京代表、神崎沙羅。その東京予選の映像だ。


隣に立つ斎藤が、冷徹に分析結果を告げる。

「…データは出揃った。東京予選の四試合、全て95得点以上での圧勝。…弱点が見当たらない」

ソファに座る鳳麗奈も、また勝負師の目で呟いた。

「…迷いがないわね、神崎さんの瞳。自分の正しさを、強さを微塵も疑っていない」

久条は何も言わない。

ただ画面の中で、完璧な弁論を繰り広げる、その少女の姿に、純粋に感心していた。

論理を突きつけるのではない。相手の言葉を受け止め、反転させ、逆に意見を自らの陣営へ引き入れる――そんな戦い方だった。


画面の中で神崎沙羅が、対戦相手を完膚なきまでに打ち破る。

神崎沙羅が堂々と聴衆を見渡し、笑顔で締めくくった。

その笑みは、挑発でも傲慢でもない。純粋な自信の証だった。


久条が静かに映像を止めた。

「彼女について…報告を聞かせて」


斎藤がファイルをめくりながら、淡々と続ける。

「東京・開明学館高等部二年。昨年は海外留学で不参加。今年が初の全国出場だ。…家柄はごく普通。両親とも公務員。後ろ盾はゼロだな。俺らと全く違う環境で育ってきた」


鳳麗奈がその言葉を引き継ぐ。

「だからこそ、強いのよ。彼女、私たちのような『生まれながらに全てを持つ者』に対して、おそらく敵意を持っている。彼女の武器は、そのハングリー精神、そのものだわ」


論理で敵を測る斎藤と、感性で本質を嗅ぎ取る鳳。

その二人が、揃って最大級の賛辞と警戒を贈る少女――神崎沙羅。

久条は小さく息を吸い込み、視線だけで続きを促した。

「他には?」


鳳麗奈が、間髪入れずに言葉を足す。

「神崎さんは、本物の叩き上げよ。学内ではディベート部の部長で、生徒会副会長。そして校内では誰よりも人気があるらしいわ。後ろ盾のないことを除いては、いわば女性版の天宮様のような存在ね」


久条の声がわずかに低くなる。

「弱点は?」

一瞬の沈黙。

その後、斎藤が端的に告げた。

「……現状、ない」


スクリーンの中で神崎沙羅の完璧な笑顔が凍りつくように静止している。

久条はその笑顔を見つめながら初めて自分以外の「異質な女王」の存在を明確に意識した。

だが彼女の心にあったのは恐怖ではない。

心の奥底から湧き上がる歓喜だった。

(退屈な戦いは終わった)

(ようやく私の魂を燃やすに足る相手が現れた)


27-4◆女王の最後の切り札◆

神崎沙羅の映像を前にした『Club Lotus』のVIPルームは、重い沈黙に支配されていた。


しばらくすると斎藤律が静かに、立ち上がった。

「悪いが、俺はそろそろ失礼する。東京の商社とのオンライン会議があるんでね」

彼は久条を励ますように、軽く肩を叩く。

「まあ俺らも、できることは何でもサポートするからよ」

斎藤はそう言うと、部屋を出ていった。


残されたのは、久条と鳳麗奈。

麗奈は静かにスマホを取り出すと、ある人物に電話をかけた。

「もしもし瑠璃さん?…ええ。亜里沙様がお待ちです」

電話を切ると、彼女は久条に向き直る。

「亜里沙ちゃん。今から音無奏の件で大事な報告があるわ。瑠璃さんに説明してもらうから、少し待っててね」


しばらくすると一条院瑠璃が、VIPルームに姿を現した。

その手には一通の厳重に封をされた封筒。

「亜里沙様。お待たせいたしました。…例の件の最終報告です」

久条は静かに頷く。


瑠璃は語り始めた。

音無奏の奨学金。その裏にあった学園と彼の父親との密約。

そして、その密約には何らかの「事件」があったはず。

そのあまりにも醜く、そして隠蔽された真実の全てを。


久条はただ黙って、その報告を聞いていた。

その完璧な笑顔は崩れない。

だがその瞳の奥で、何かが静かに壊れていくのを、鳳麗奈だけは感じ取っていた。

なぜ学園は音無智明に、便宜を図る必要があったのか???


全ての報告が終わった時、久条は、ただ一言だけ呟いた。

「…そう。それが彼の裏側なのね」

その声は、氷のように冷たかった。


27-5◆前夜の邂逅、2人の才媛◆

全国大会、前日の12月12日金曜日。

決戦の舞台となる天宮記念ホール。

久条は最終確認のため、その場所を訪れていた。

がらんとした客席。

静まり返った、灯の消えたステージ。

その神聖なまでの空気の中で、彼女は一人で精神を集中させていた。


その時だった。

舞台の反対側の袖に立つ、一人の少女に気づいた。

神崎沙羅だった。

彼女もまた、この戦場の下見に来ていたのだ。

二人の視線が初めて、交差する。


先に口を開いたのは、神崎沙羅だった。

彼女は太陽のような笑顔で、久条へと歩み寄る。

「あなたが洛北祥雲の久条亜里沙さん?噂はかねがね。お会いできて光栄です」

その言葉に久条は、女王の笑みを返す。

「ええ。あなたが東京の神崎さんね。わざわざ京都までご苦労様」

「素晴らしいホールですね。さすが天宮財団。…明日、この舞台であなたと戦えるのが楽しみです」

二人の間に静かな火花が散る。

言葉は丁寧。

しかし、その奥にあるのは、互いのプライドを懸けた戦士の覚悟。


久条は感じとる。

この女を倒してこそ、自分は本当の女王になれるのだと。

二人は静かに、一礼すると、それぞれの出口へと向かった。

明日から始まる2日間の決戦での再会を誓いながら。

第二十七話をお読みいただきありがとうございます。

作者の京太郎です。


今回はほとんどの物語を「女王」久条亜里沙の視点から描いてみました。

絶対的な強者の「驕り」生まれて初めての「絶望」そして全てを捨ててでも勝利を掴もうとする「覚悟」。

彼女はもはやただの敵役ヒールではない。

この物語のもう一人の主人公です。

皆様の目には彼女の生き様はどう映りましたでしょうか。


絶望の淵に立たされた女王。

そして彼女が手に入れたあまりにも汚れた「最後の切り札」。


そんな彼女の前には、神崎沙羅という巨大な壁が立ちはだかります。

勝利のために彼女が選ぶ最後の一手とは?

敵と敵が手を組む。

次回から始まる全国大会編。

最高の物語を約束します。


面白いと思っていただけましたら

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よろしくお願いします。

皆様の声が、何よりの力になります。


それでは、また次の話でお会いしましょう。

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