【24】一つの戦争の終わり、次なる戦争の始まり★
24-1◆父の沈黙、そして誇りの行方◆
その日の夜。文化祭の熱狂が嘘のような静寂が、俺の家を包んでいた。
俺は自室で、久条から渡された、あのファイルをただじっと見つめていた。
ミラー:「…本当にやるのか?この扉を開けたら、もう後戻りはできないぞ」
奏:「ああ。知る必要がある。俺が何者なのかを」
俺は階下へと降りた。
風呂上がりの父、音無智明がリビングで新聞を読んでいる。
俺は黙って、その前に座った。
父が訝しげな顔で、俺を見る。
少しの沈黙の後、俺が口を開いた。
奏:「父さん。少し聞きたいことがある」
智明:「なんだ?」
奏:「俺がこの学校に奨学金で入れたのって…本当に俺の力だけだったのか?」
父の手元の新聞が、僅かに震えた。
智明:「どうした?急に」
奏:「答えてくれ。学園と“何らかの裏取引があったんじゃないのか」
智明:「…何の話をしている」
奏:「平凡な俺が、なぜ洛北祥雲学園に入学できたのか?気になるんだ」
智明は無言のまま、立ち上がりキッチンの水を飲む。
背を向けたまま静かに言う。
智明:「お前はあの学校にふさわしい人間だ。俺はそう信じてる」
奏:「“ふさわしい”かどうか?を決めるのは…俺や父さんじゃないだろ」
父は一度だけ息を吐き、振り返る。
智明:「お前には、知らなくていいこともある」
奏:「このままじゃ、俺はこれから先も、誇りを持てるかどうか…だから知りたいんだ」
智明:「奏…。お前を傷つけるくらいなら、俺はお前に一生恨まれてもいい。…この話は終わりだ」
奏:「俺はすでに知ってしまった。父さんから聞いておきたいんだ。」
智明:「だから、知らなくていいんだ」
奏:「単刀直入に聞くよ……俺が洛北祥雲に入れたのは、父さんのコネだったのか?」
智明(ため息):「コネじゃない。……ただ少しだけ、“便宜”があっただけだ」
奏:「俺の価値を、父さんの実績で買ってもらったってことか」
智明:「違う。俺は“扉を開いた”だけだ」
奏:「どういうことだ???」
智明:「昔、学園とある“取り引き”があった。向こうが頼みごとをしてきて、俺がそれに応えたんだ。
その“見返り”として、お前の入学が決まった。それだけだ」
奏:「何の頼みだよ。何をしたんだ?父さん」
智明:「……もう終わったことだ。過去のことをほじくり返しても、誰も得しない」
奏:「学園からの頼み事って何だよ。お願いだ。言ってくれ」
智明:「……これ以上は、言えないんだ」
俺は、静かにスカウターの照準を、父親にあわせた。
だがすぐに下ろす。
(観識で真実を知ることはできる…でもやめよう。俺は直接、聞きたいんだ。父さんの口から)
奏:「…父さん。俺はもう子供じゃない。真実を教えてくれ」
それでも父は唇を噛み締めたまま、何も言わなかった。
その沈黙が答えだった。数分間の沈黙が流れる。
結局、父との沈黙に耐えきれず
俺は、諦めてついにスカウターを起動する。
目の前の父親に、その非情な照準を合わせる。
思考残響観測!!!メモリーリーディング発動!
視界が真っ赤なノイズで、埋め尽くされた。
それは、父の記憶などという生易しいものではない。
俺が決して、知るべきではなかったこの世界の罪そのもの。
痛みと後悔。隠蔽された闇。
全ての情報が、俺の脳髄を焼き切るほどの、熱量で流れ込んでくる。
そして――俺は全てを理解してしまった。
俺の奨学金入学の裏に隠された真実を。
(父さん。あんたの後悔は、俺が全て精算してやる)
そして俺の瞳から一切の感情が消えた。
(…あいつだけは、許さない)
(俺がこの手で、必ず社会的に抹殺する)
その誓いはもはやゲームではない。俺の魂、そのものの叫びだった。
俺は、静かに立ち上がった。
「わかった。もういいよ」
その声は自分でも驚くほど、冷たく響いた。
「…言ってほしかった。どんな理由でも父さんには、隠してほしくなかった」
智明:「俺はただお前を最高の環境で育てたかった…俺の判断が間違っていたのなら謝る」
父のその苦しげな言葉。
だがその言葉はもはや、俺の心には届かなかった。俺はただ静かにその場を後にした。
翌朝、俺は静かに制服の襟を整えた。
鏡に映る自分の顔は、どこか他人のように見えた。
父の沈黙、その奥にあった学園の闇。
知ってしまった重みは、胸の奥に鉛のように沈んでいる。
だが、それでも歩き続けるしかない。
誇りとは、与えられるものではなく、つかみ取るもの。
階段を下りると、父はもう出勤していた。
空の食卓を見つめ、俺は小さくつぶやく。
「俺は俺のやり方で、生きてみせるよ」
24-2◆王の伝説そして脚本家の仮説◆
その日の学校。
華やかな文化祭が終わり、俺の日常に再び影が差した。
轟木剛造との危険な契約。
「バスケ部を弱体化させずに大槻だけを追い出す」
そのあまりにも困難なミッションが、俺の思考を支配していた。
週が明け11月4日の月曜日。
教室は一つの話題で、持ちきりだった。
日曜日に行われたウィンターカップ京都大会の準々決勝。
そこで洛北祥雲学園高等部バスケ部が準決勝に進んだという知らせだ。
そして11月9日土曜日。
俺は柴田と山中に誘われ、島津アリーナに来ていた。
準決勝の観戦。目的は、轟木剛造からのミッション解決のため、バスケ部の戦力分析だ。
コートの中では、天宮が王として君臨している。
俺たちの隣に座っていた若い男が柴田に声をかけた。
「よう柴田。久しぶり。お前も応援か」
柴田が驚いて振り返る。
「仁田先輩じゃないすか!大学でもエースだって聞きましたよ!」
今年、卒業したばかりのバスケ部の前キャプテン仁田博幸さんだった。
現在は大学バスケの名門、東海大学で一年生ながらエースとして活躍している。
俺は彼に尋ねる。
「先輩、天宮くんは一年生の頃からあんなにすごかったんですか?」
「ああ。あいつは別格だ」
仁田さんは懐かしむように語り始めた。
「俺からキャプテンの座を譲った男だからな。俺たちが三年になったばかりの頃、あいつは入学して、いきなり一年でキャプテンになった。普通なら反発が起きるだろ?でも誰も文句を言わなかった。俺たちですらあいつに従うのが当然だと思ったんだ」
自然に人がついてくるリーダーシップ。
学園祭での、彼のあの見事なマネジメント能力が蘇る。
ミラー:「…聞いたか?奏。文化祭の時だけじゃなかった。あの男は一年の時からバスケ部でも王だったんだ」
奏:「ああ。もしかして…大槻がいなくても、天宮がコーチを兼任すれば、このチームは弱体化しないのでは…?」
俺の脳内に一つの仮説が閃いた。
ミラー:「なるほど可能性はあるな。しかしそれはただの推測に過ぎない。確証が必要だろ」
俺はコートの中の太陽を見つめながら、新しい仮説の証明方法を模索し始めていた。
24-3◆王の証明、そして女王の戯言◆
試合は進みコートの上では、天宮と長峯の二人が完全に空気を支配していた。
天宮がディフェンスを引きつけ、ノールックでパスを出す。
その先には、すでに長峯が走り込んでいる。
まるで未来が見えているかのような完璧な連携。
一年生とは思えない長峯の活躍に会場がどよめく。
(…仮説を確証に変える時だ)
俺はスカウターに新しい分析項目を追加した。
「監督適性」「戦術眼」
そしてまずサイドラインで指示を出す大槻をスキャンする。
【Target: 大槻 理人】
【バスケ部監督適性:A+ (92)】
【バスケ戦術眼:A+ (91)】
次にコートの中の天宮を。
【Target: 天宮 蓮司】
【バスケ部監督適性:A (89)】
【バスケ戦術眼:A (86)】
そして最後に俺は比較対象として、隣に座る仁田さんをスキャンした。
【Target: 仁田 博幸】
【バスケ部監督適性:B (65)】
【バスケ戦術眼:B+(62)】
奏:「…見たか?ミラー。この数値を」
ミラー:「ああ。大学のエースで前キャプテンですらB。しかし高校2年の天宮はA。元プロの大槻はA+…異常な数値だ。元プロと高校生の差が2項目合計で、わずか8ポイント」
奏:「…これで俺の仮説は、ほぼ確証に変わった。大槻を追い出しても、バスケ部は大きく弱体化しないだろうな」
ミラー:「さらに今年は長峯という大物ルーキーも加わっている。ひょっとしたら大槻抜きでも去年の成績を上回れるのでは?」
奏:「ああ。その通りだ。…あとは奴を追い出す“脚本”を書くだけだな」
試合終了のブザーが鳴る。
洛北祥雲学園の勝利だ。
俺は席を立ちながら呟いた。
「明日は決勝。ハンナリーズアリーナか…あいつらプロの舞台に立つんだな」
その時だった。
俺のすぐ後ろの席にいた久条が静かに立ち上がり、俺の言葉に被せるように言った。
「当然ですわ。私の王が立つに、ふさわしい舞台ですもの」
彼女は、俺に一瞥もくれず会場を後にした。
明日はウィンターカップ京都府予選の決勝戦。
そして俺の戦いもまた新しい局面を迎えようとしていた。
24-4◆勝利の、祝祭、そして、それぞれの、顔◆
翌日11月10日の日曜日。
決戦の舞台はプロも使うハンナリーズアリーナ。
試合終了のブザーが鳴り響く。
洛北祥雲学園の優勝が決まった瞬間だった。
会場は割れんばかりの歓声に包まれる。
洛北祥雲学園高等部バスケットボール部
これで10年連続のウィンターカップ出場が決定した。
大槻ヘッドコーチの評価はさらに上がるだろう
俺はその熱狂をスタンド席から冷静に観測していた。
柴田と山中は立ち上がり、雄叫びを上げている。
斎藤は静かに拍手を送りながら、満足げに微笑む。
三好たちも、その輪に加わり、喜びを分かち合っていた。
そして少し離れた席では、久条と結城たちがただ優雅に微笑んでいる。
女王とその侍女たち。
その姿は一枚の絵のようだった。
ミラー:「…圧巻だったな。天宮と長峯。あの二人は本物だ」
奏:「ああ。見事な勝利だ。単純に嬉しいよ」
コートの中央で天宮と長峯は、チームメイトたちと静かに抱き合っていた。
その顔に驕りはない。
ただ仲間との勝利を噛み締める、高校生らしい穏やかな笑みがあるだけだった。
俺はその光景を、ただじっと見つめていた。
24-5◆新しい戦争、そして女王の宣言◆
翌日の月曜日。
教室はまだバスケ部の全国大会出場の歓喜に包まれていた。
柴田と斎藤、山中が興奮気味に語り合う。
柴田「やっぱ天宮と長峯は別格だな!」
山中「ああ。それに大槻ヘッドコーチの采配も完璧だった」
斎藤「あの三人がいれば京都府予選なんて、勝って当然だろ。問題は全国でどこまでいけるかだよな!」
その日の昼休み。
校内放送が全ての生徒の耳を奪った。
「みなさまお知らせです――天宮財団主催、全国高校生英語ディベート選手権。今年の全国大会はここ京都の天宮記念ホールにて開催されます――関西地区予選は11月22日(土)から、これも天宮記念ホールで行われます。ぜひご来場ください」
そのアナウンスが終わると、同時に各教室にポスターが貼り出された。
担任が教室の壁に一枚のポスターを貼り出す。
黒を基調としたそのデザインは高校の文化祭のそれとは明らかに一線を画していた。
金の箔押しで刻まれた「天宮財団」の文字。
そして鋭い明朝体で書かれた「全国高校生英語ディベート選手権」のタイトル。
それはもはやただのポスターではない。
選ばれし者だけが参加を許される知性の戦場への「召集令状」そのものだった。
教室中の視線がただ一人に向けられる。
英語ディベート部の部長でもある、久条亜里沙だ。
隣の結城が興奮して言う。
「亜里沙!全国大会初の京都開催!モチベあがるね」
「ええ。天宮記念ホール。女王である私が立つにふさわしい舞台。絶対に負けるわけにはいかないわ」
久条は自信に満ちた笑みを浮かべていた。
そしてその日の放課後のホームルーム。
担任の連絡事項が終わった、その一瞬の静寂を切り裂くように――
久条亜里沙は静かに席を立った。
彼女は壇上に歩み出るでもなく、その場に立ったまま、
右手をゆっくりと掲げる。
そして、人差し指を、天へと真っすぐに突き上げた。
その仕草だけで、教室全体の空気が張り詰める。
まるで「選ばれし者」が勝利を告げるように。
久条はそのまま、清冽な声で宣言した。
「皆さん。私は今年の全国英語ディベート選手権で、必ず優勝することをここに宣言します。
この二年四組の名を、全国に刻むために。」
その言葉に、最初の一拍だけ静寂が流れた。
そして次の瞬間、嵐のような拍手と歓声が教室を揺らした。
美尾が叫ぶ「かっこよすぎでしょ!久条さん!」
福寿がうっとり呟く「これでこそ、うちらのクイーン…」
ミラー:「…始まったな。新しい戦争が」
奏:「ああ。今度の舞台は英語ディベート選手権。そして主役は久条亜里沙だ」
ミラー:「で?お前の役はなんだ?観客か?」
俺はその問いに答えずただ静かに笑みを浮かべた。
(さあな。面白い脚本が書けそうだ)
第二十四話お読みいただきありがとうございます。
作者の京太郎です。
今回は主人公が自らの出自に隠された重い真実と向き合う話でした。
父が息子のために背負った罪。
その罪を知った時彼の戦う理由は個人的な復讐からもっと大きくそして切ないものへと変わります。
全ての真実を知り覚悟を決めた主人公。
しかし彼の前には新しい戦争が待ち受けています。
知性の女王久条亜里沙とのディベート対決。
いやあるいはそれは「対決」ではないのかもしれません。
次回女王が脚本家に突きつけるあまりにも奇妙な「取引」とは。
面白いと思っていただけましたら
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皆様の声が何よりの力になります。
それではまた次の話でお会いしましょう。
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☆★高校生英語ディベート選手権★☆
天宮蓮司の祖父が設立した文化支援基金により20年前に誕生
各地区予選は、厳しい審査により、選ばれた16名の高校生が出場する。
目的は世界で活躍する日本人を育成・輩出すること
【大会概要】
◆関西大会◆会場:天宮記念ホール
大阪代表4名、兵庫代表3名、京都代表3名、奈良代表2名、和歌山代表2名、滋賀代表2名
16名で勝ち抜きトーナメント
11月22日(土)関西大会1回戦/16名⇒8名(全8試合)
11月23日(日)関西大会2回戦~決勝まで(全7試合)
◆全国大会◆会場:天宮記念ホール
北海道1、東北1、東京2、関東2、北陸1、中部2、関西2、中国1、九州2、四国1、沖縄1
16名で勝ち抜きトーナメント
12月13日(土)全国大会1回戦/16名⇒8名(全8試合)
12月14日(日)全国大会2回戦~決勝まで(全7試合)
⇒優勝者は世界大会へ招待




