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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
第四章:演劇『現代版高校ハムレット』

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23/46

【23】微笑む女王と沈黙する脚本家

23-1◆女王の贈り物、そして脚本家の崩壊◆

10月28日。

洛北祥雲学園の文化祭は華々しくその幕を開けた。

普段は静寂に包まれているこのエリート校が年に一度だけその熱を解放する日。

校舎は生徒たちの手による色とりどりの装飾で彩られ、

中庭には模擬店の美味しそうな匂いが立ち込める。

俺は、その喧騒をどこか遠い世界の出来事のように眺めていた。


10月29日。

俺たち二年四組の演劇『ハムレット』の本番は二日目。

つまり今日だ。

本番当日の朝。演劇会場である講堂。

そこは最後の準備に追われる生徒たちの熱気で満ちていた。

俺は舞台技術の責任者として、舞台袖で最終チェックを行っていた。

全てが完璧だった。最高の舞台になる。その確信があった。


その時だった。

久条亜里沙が静かに、俺の元へとやってきた。

その顔には、完璧な女神の笑みが浮かんでいる。


「音無くん。本番前に少しだけ、確認したいことがあるの。外の空気を吸わない?」

その有無を言わせぬ口調。

俺は無言で彼女の後に続いた。


俺たちが向かったのは講堂の裏口だった。

薄暗く埃っぽい空間。

舞台の喧騒が、嘘のように静まり返っている。

久条は俺に一つのファイルを差し出した。

「あなたへの贈り物よ。誇りの裏側を見せてあげるわ。受け取って」


俺はそのファイルを開いた。

そこに記されていたのは白蓮会による調査報告書。

俺の奨学金入学に関する真実。

俺の父の名前。「音無 智明」

学園との間で交わされた「特別待遇」と「守秘義務契約」の文字。

俺が全く知らなかった事実。


奏:「…なんだこれは。ミラー、分析しろ」

ミラー:「…読んだままだ。お前の奨学金は純粋な能力評価ではなかったということだ。お前の父親と学園との間に、何らかの裏取引があったことを示唆している」


俺の思考は、完全に停止した。

久条はそんな俺の姿を満足げに眺めながら言った。

その声は蜂蜜のように甘く、それでいて毒のように冷たい。

「あなたのお父様、素晴らしい方なのね。あなたのために学園に大きな『貢献』をされたとか」

「あなたの名門洛北祥雲学園の生徒という今の立場、全てはこの『密約』のおかげというわけね」


俺は、何も言い返せなかった。

俺が、これまで信じてきたもの。

俺が、唯一、誇りに思っていたもの。

その全てが、今この瞬間に偽物になった。

久条は立ち上がる。

「さあそろそろ、本番の時間よ。最高の舞台にしましょうね。…演出家さん」

彼女はそう言うと、俺を一人残し舞台袖へと戻っていった。

俺は、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。

もうすぐショーが始まるというのに。

俺の頭の中は、完全に真っ白だった。


23-2◆脚本家の不在、そして役者たちの覚醒◆

俺は、講堂の裏口で立ち尽くしていた。

久条が突きつけてきた残酷な真実。

俺の存在そのものが偽物だったという事実。

頭の中が真っ白で何も考えられない。


ミラー:「おい奏。しっかりしろ。もうすぐ幕が上がるぞ」

奏:「……どうでもいい。俺の存在も、この舞台も、全部」

ミラー:「弱音を吐くな。お前が書いた脚本だろ。最後まで見届けろ」


ミラーの声が遠くに聞こえる。

やがて開演を告げるブザーが鳴り響いた。


二年四組の演劇『現代版高校ハムレット』。

その幕は上がった。


俺が舞台袖に戻った時劇はすでに始まっていた。


柴田隼人ハムレットが舞台の中央で叫んでいる。

その演技はもはやただのお調子者ではなかった。

父を失い復讐に燃える王子の苦悩そのものだった。


斎藤律ホレイショーがその親友を冷静に諭す。

彼の知性が役に深みを与えている。


そして結城莉奈オフィーリア

彼女の舞うような美しい動きと悲痛な表情。

観客は彼女の悲劇に息を呑んでいた。


山中(ハムレットの父の部下)もまた物語の重要な歯車として完璧に機能している。


そして白瀬ことり(侍女)。

彼女はただヒロインの隣に静かに佇んでいるだけ。

彼女には色がない。

彼女には感情がない。

彼女はまるで美しい絵画の背景のようにそこにいる。

だからこそヒロインの悲劇がより一層際立つのだ。

彼女のその圧倒的なまでの「無」の存在感。

それこそが久条が求めた完璧な舞台装置だった。


ミラー:「…見ろよ奏。お前の役者たちは完璧だ」

奏:「ああ。俺がいなくても。あいつらは輝いている」


俺はその光景をただ呆然と眺めていた。

自分が作り上げたはずの物語が

今俺の手を離れ役者たちの魂を得て

俺の知らない場所へと向かっていく。

その輝きが眩しすぎて俺は目を逸らした。


23-3◆女王の機転、そして脚本家の失墜◆

物語は順調に進みついに因縁の亡霊の登場シーンがやってきた。

舞台の照明が落ち観客は息を呑む。

俺は舞台袖でその瞬間を待っていた。

だが俺の頭の中はまだ今朝の久条の言葉で飽和していた。

(俺の存在は偽物だった…?)

その思考が俺の集中力を奪う。


ミラー:「おい奏。集中しろ。もうすぐお前の出番だぞ。スモークのスイッチを押すだけだ。簡単な仕事だろ」

奏:「…分かっている」


舞台の上で役者のセリフが聞こえる。

今だ。

俺は震える指でスモークマシンのスイッチを押した。

…しかし何も起きない。

もう一度押す。

ダメだ。

舞台はただ薄暗いだけ。スモークは出ない。

役者たちが動揺し舞台の上には気まずい沈黙だけが流れる。

俺の担当箇所での明らかな「ミス」。

劇が止まる。

最悪の致命的な事故だ。


奏:「…なぜだ?動け!なぜ動かない!」

ミラー:「…奏。これは罠では???」

久条からの通達により、ショックで、そのときの俺の思考は完全に停止していた


その時だった。

舞台袖にいる久条が静かに場内アナウンス用のマイクを取る。

そして彼女のその美しく落ち着いた声が、劇場に響き渡ったのだ。


「…亡霊。それは霧の中に現れるのではない」

「時にそれはあまりにも、鮮明に我々の目の前に姿を現す。まるで生きている人間と同じように。…それこそが最も恐ろしい真実」


久条の天才的なアドリブ、美しいナレーションによって「事故」は「最高の演出」へと昇華された。

観客はそれを芸術的な演出だと勘違いし惜しみない拍手を送る。

演劇は歴史的な大成功を収めた。


終演後の熱気に包まれた舞台裏。

俺は「偶然」抜けていたスモークマシンのコンセントを発見した。

それを見ていた久条は静かにスモークマシンに目をやった。

「……ええ、運命なんてこんなものでしょう」


そして彼女は落ち込む俺の肩を叩き、慈悲深い声でこう言うのだ。

「音無くん、疲れていたものね。でも大丈夫。私がフォローしておいたから。結果的に素晴らしいシーンになったわ」

周囲のクラスメイトたちが、彼女に賞賛の言葉を送り、そして俺に同情の視線を向ける。

俺は何も言い返せなかった。

俺は「重要な場面でミスをしたが久条に助けられた未熟な演出家」という烙印を押されたのだ。


23-4◆偽りの大団円、そして女王の微笑み◆

演劇が終わった後、俺たちのクラスは興奮の坩堝と化していた。

教室に戻ると、そこは祝勝会のような騒がしさだった。


「柴田くんのハムレット、マジで最高だった!」

「莉奈ちゃんのオフィーリアには、マジで泣かされたよな」

「斎藤くんのホレイショーも渋かったぜ!」

「久条さんのアドリブには驚いたわ!」

結城、斎藤、柴田、久条

女王と三人の主役たちは、クラスメイトたちに囲まれ、健闘を称えられていた。


その輪の少し外側で、三好たちもまた達成感に満ちた顔で、笑い合っている。

俺はそっと三好に近づいた。

「三好。大道具の仕事、ご苦労だった。お前がいなければ、この劇は完成しなかった。ありがとう」

俺のその言葉に三好は顔を赤らめ、そっぽを向いた。

「…うるせえ。天宮くんに頼まれたから、やっただけだ」

俺は彼をスキャンする。

【思考:“音無に誘ってもらえてよかった。最高の達成感だ”】

奏(こいつ…素直じゃないやつだ。喜んでくれているならそれでいいが・・・)


ミラー:「おい奏。ランキングを見ろ。お前の株が少し下がったぞ」

俺はスカウターの画面に目を落とす。


【CLASS RANKING - TOP TIER】

1. 天宮 蓮司 [INFLUENCE: --- (測定不能)]

2. 久条 亜里沙 [INFLUENCE: 97⇒99]

3. 結城 莉奈 [INFLUENCE: 88]

3. 斎藤 律 [INFLUENCE: 88]

3. 柴田 隼人 [INFLUENCE: 88]

.

.

9. 音無 奏 [INFLUENCE: 82⇒74]


奏:「…そうみたいだな。まあ仕方ない。今回は俺の負けだ」


その時だった。

天宮と久条が教室の前に立つ。

天宮がクラス全員に語りかける。

「みんな、お疲れ様!最高の思い出ができたな!」


そして久条が続けた。

「皆さんの頑張りに心から、敬意を表しますわ」


二人の王からのその言葉に、クラスは万雷の拍手に包まれた。

俺はその光景を、静かに観測していた。


23-5◆騎士たちの凱旋、そして祭りの終わり◆

翌日文化祭最終日。

その日の主役は、間違いなく二年四組の役者たちだった。

まず講堂のステージに立ったのは柴田隼人。

学園漫才コンテスト決勝。

相方の2年1組、野口裕司との掛け合いは完璧だった。

柴田のそのハイテンションなボケを、野口が静かで的確なツッコミで斬り捨てる。

その緩急自在のコンビネーションは、会場を爆笑の渦に巻き込んだ。

彼らは圧倒的な評価で、優勝を勝ち取った。


そして次にステージに立ったのは結城莉奈。

学園ダンスコンテスト決勝。

彼女は一人ではない。

取り巻きの美尾敦子と福寿由紀乃をバックダンサーとして従えている。

女王と二人の侍女。

その完璧なフォーメーションで、繰り広げられる彼女のダンスはもはやただの高校生のそれではない。

観る者、全ての魂を揺さぶった。

彼女もまた当然のように優勝した。


俺はその光景を客席の隅から、観測していた。


ミラー:「見ろよ奏。お前が作った役者たちがそれぞれの舞台で王になったな」

奏:「俺は何もしていない。ただ彼らの才能を縛っていたくだらない鎖を一つ、外してやっただけだ」

ミラー:「その鎖をつけたのが女王様なら、外したのがお前か。面白いゲームだ」


やがて、全てのイベントが終わり、閉会式が始まる。

三日間に渡った俺たちのクラスの祝祭。

そしてその裏で、繰り広げられた静かなる戦争。

その全てが表面的には、大成功で幕を閉じた。

俺は鳴り止まぬ拍手の中で静かに、次の脚本のことを考えていた。

女王との本当の戦争は、まだ始まったばかりなのだから。

第二十三話そして第三部を最後まで、お読みいただきありがとうございます。

作者の京太郎です。


今回は主人公が初めて味わう完璧なまでの「敗北」の物語でした。

彼の脚本は女王のそれを超えることができなかった。

しかし彼が蒔いた種は確かに芽吹き新しい花を咲かせました。

この敗北が彼をどう変えるのか。

ここから始まる第四部で描いていきたいと思います。


文化祭は終わった。

しかし水面下では女王の秘密結社「白蓮会」が静かに彼の過去を探り続けている。

そして次なる舞台「英語ディベート大会」が彼らを待つ。

敗北を知った脚本家は果たして立ち上がることができるのか。

そして女王は彼に何を求めるのか。

物語は最終章へと向かいます。


面白いと思っていただけましたら

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よろしくお願いします。

皆様の声が何よりの力になります。


それではまた次の話でお会いしましょう

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音無おとなし 智明ともあき

キャッチコピー:

《静かな診断士/家族を守る“現実主義者”》

■ 基本情報

年齢:47歳

職業:整形外科医(個人医院開業)

奏と彩葉の父

元・大学病院スポーツ整形外科部門の部長

現在は京都市内で個人医院を経営しており、地域の患者から信頼も厚い

■ パーソナリティ

理知的で落ち着いた人物

家族への愛情は深いが、それを言葉で表すのは苦手

感情的になることは滅多になく、常に冷静沈着

ただし、医師としての責任感とプライドは人一倍強い

智明は、表面的には「穏やかで温和な父親」でしかない。

だが、家族を守るためなら“現実的な選択”を優先する傾向がある。

■ 奏との関係性

奏に対しては基本的に放任主義

「自分の道は自分で選べ」という考え方を持ち、進路にも過干渉しない

ただし、奏が病気や怪我で困ったときは、誰よりも冷静に最善策を出す頼れる父

医学的知識だけでなく、人生経験を通した「現実的な視点」での助言を与えることがある

■ 彩葉との関係性

姉である彩葉とはよく会話する

彩葉は父親の価値観をある程度理解しており、奏と父の間をときどき“通訳”する役割を担う

彩葉と智明は似た者同士で、合理的でドライな面が多い

■ 学園との関わり

智明は洛北祥雲学園と過去に医療面で関わりがあった。

元スポーツ整形医として、バスケ部の選手の診察や治療を担当した経験を持つ。

これにより学園関係者とのコネクションがあり、

表向きには「優秀なスポーツドクター」として信頼されている。

■ 物語における役割

「過去の鍵」を握る人物

智明は、かつて学園バスケ部の選手を診た経験がある。

この過去は長く伏せられるが、物語が進むにつれ、

彼の存在が 「ある事件」 の真相へと繋がっていることが示唆される。

■ プロフィールまとめ

音無智明は「優秀な整形外科医」であり、「穏やかな父親」である。

しかし、過去に学園と深く関わった経験を持ち、

その存在は物語の背景に静かに影を落としている。

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