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最底辺の俺が、観測スカウターを使ってエリート学園にはびこるスクールカーストの頂点を目指す  作者: 京太郎
第四章:演劇『現代版高校ハムレット』

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【19】太陽の城への招待状

19-1◆友と交わす最初の“真実”◆

屋上の重い鉄の扉を、俺は震える手で、ゆっくりと閉めた。

轟木剛造という、圧倒的な「暴力」と、坂元要介という、底知れない「知性」

影の帝王たちとの息詰まるような対峙。俺はからくも生き延びた。


教室に戻るとほとんどの生徒が帰宅した後の、がらんとした空間で、たった一人、山中駿平が俺を待っていた。

俺の姿を認めた瞬間、彼は椅子から転げ落ちそうな勢いで駆け寄ってくる。

「音無! 大丈夫か!? 生きてたのか! あいつら、お前に一体、何を…!」


俺は彼のその必死の形相を冷静にスキャンする。

いつものようにゴシップを求める情報屋の顔ではないことを確認するために。


【Target: 山中 駿平】

【感情分析:純粋な心配(85%) 野次馬的な好奇心(15%)】

【対あなたへの評価:75(友人)】


その瞳にはゴシップへの好奇心ではなく、純粋な友人への心配の色が浮かんでいた。


奏:「…こいつ、いいやつだな」

ミラー:「おまえにとって…ただの“情報源だったやつに、何か感情が芽生えたか?」

奏:「…うるさい。少し疲れているだけだ」


俺たちは、並んで夕暮れの帰り道を歩いていた。

山中の、心配そうな声だけが、やけに大きく聞こえる。


奏:「…山中は何も知らない。俺の特殊能力も、俺が書いた醜い脚本のことも」

ミラー:「でも奏という得体のしれない存在を「友人」として心配してくれている」


奏:「ここまでの事情を言える範囲でこいつにだけは伝えておくよ」

ミラー:「奏、お前も少し変わってきたな」


「…山中」

俺は、珍しく自分から口を開いた。

「少しだけ、話しておきたいことがある」


俺は全ては話さなかった。話せるはずもなかった。

三好が長峯に絡んだあの事件。その原因となった「メモ」を俺が書いたと、轟木たちが疑っていること。


そしてその疑いを晴らす、というわけではないが、

結果として轟木が憎んでいる大槻コーチへの「復讐」に、協力させられることになった、と。


山中は、絶句していた。

「…マジかよ…。お前、とんでもないことに巻き込まれてるじゃねえか…」


俺は、隣を歩く友人の顔を盗み見た。


奏:「…俺は悩みや秘密を、少しだけ誰かと共有できた」

ミラー:「…悪くない気分だろ?」


俺は、その問いには答えなかった。

ただ夕焼けがいつもより、少しだけ綺麗に見えた気がした。



19-2◆太陽の“招待状”◆

翌朝、教室の空気は奇妙な興奮とそして混乱に満ちていた。


俺が教室に入るとクラスメイトたちは、一瞬だけ俺を見てそしてすぐに視線を逸らす。

彼らの視線には、もはや純粋な畏怖ではない。


「轟木一派と対等に渡り合う謎の男。何かよくわからないが、とにかくすごい」。

その俺に対する評価が、昨日一日で完全に定着していた。


ミラー:「見ろよ奏。お前の“称号”はすっかり定着したらしいな」

奏:「ああ。だが気分は最悪だ…」

そう提案するしかなかった状況で生まれた轟木からの指令。


「バスケ部を弱体化させずに、大槻のみを社会的に抹殺する」

あまりにも重く、そして矛盾した課題だった。


そんな俺の元へ、意外な人物たちが、次々と声をかけてきた。

「おい、音無。大丈夫か? 轟木一派の連中は、マジでヤバいんだぞ」

最初に、心配を口にしたのは柴田だった。


「音無。轟木一派と手を組むのは、合理的じゃないかもな。いつでも相談に来いよ」

次に、そう忠告してきたのは斎藤。


「…音無くん。あなた、一体、何者なの? 轟木先輩たちと、ああいう形で話ができるなんて…ますますあなたのことに興味がわいてきたわ」

最後は結城莉奈。


三者三様の、しかし本心からの「心配と興味」

俺が懐柔した彼らが、しっかり俺を案じてくれている。ありがたいものだ。


そして昼休み。

その日、最大の“事件”が起きた。

教室の太陽、天宮蓮司が、自ら俺の席へと歩み寄ってきたのだ。


「音無くん、少しいいかな」

その一言で、教室中の全ての会話が止まる。


「…天宮くん。俺に何か?」

俺はポーカーフェイスを貼り付け、答える。


「ああ。ハムレットの脚本のことで、相談したいんだ。俺たち脚本・演出のコンビだろう?

いくつかアイデアが浮かんでね。今日は大槻コーチにも言って、バスケ部の練習も休むことにした。もし迷惑でなければ、放課後、俺の家に来てくれないか?」


ミラー:「面白い展開になってきたな。太陽の“巣”に直接、乗り込むか」

奏:「…家に招待? こいつが、この俺を?」


あまりにも予測不可能な、王からの「招待状」。

断る理由も権利も俺にはなかった。


「…分かった。ありがとう。行くよ」

俺がそう答えると、天宮は嬉しそうに笑った。


その一点の曇りもない笑顔。

それがこれから始まる、新しいゲームのあまりにも不吉な開始の合図のように、俺には見えた。



19-3◆太陽の城、そして観測者の眩暈◆


その日の放課後、俺は天宮と共に教室を出た。

校門を出るとそこに一台の黒塗りの車が停まっていた。


メルセデス・マイバッハ Sクラス。

白い手袋をした運転手が俺たちのために後部座席のドアを開ける。


俺は生まれて初めてそんな高級車に乗った。

分厚いドアが閉まると外の喧騒が嘘のように消える。


本革のシートの匂い。

潜水艦のような静寂。


「普段はバスか自転車通学なんだけどね。今日は君を招待するから迎えに来てもらったんだ」

天宮が屈託なく笑う。


ミラー:「…おい奏。これが王族の乗り物か」

奏:「…静かすぎる。現実感がまるでない」


車は京都の街を滑るように走り、やがて左京区南禅寺界隈の静かな住宅街へと入った。

車はまるで、寺院のような巨大な門の前で止まる。


門が静かに開き俺たちを中へと誘った。

どこまでも続くかのような庭園を抜け俺たちはガラス張りのモダンな邸宅の玄関に到着した。


執事らしき老人が俺たちを丁重に迎える。

大理石の床。美術館のような高い天井。


俺はまるで異世界に迷い込んだかのような眩暈を覚えていた。

俺たちは長い廊下を抜け一つの部屋へと案内される。


応接室。

その大きな窓の外には完璧に手入れされた日本庭園が広がっていた。


ミラー:「…おい。ここが本当に個人の家か?帝国ホテルの間違いじゃないのか?」

俺はそのミラーの問いに、答えることすらできなかった。



19-4◆太陽の人心掌握術◆


応接室のローテーブルの上にはハムレットの脚本の草案が広げられていた。


俺と天宮はその脚本について語り合う。

いや語り合っているというのは正確ではない。

そのほとんどの時間は天宮が語り、俺がただ相槌を打つだけだった。


彼の考えている内容は素晴らしかった。

現代版ハムレットとしての斬新な解釈。


そして高校生にも伝わるような巧みなセリフ回し。

俺が意見を挟む余地はどこにもなかった。


ミラー:「…どうした奏。お前の出番がないぞ。脚本家先生」

奏:「…隙がない。こいつの構成力、台詞のセンス。全てが完璧すぎる」

ミラー:「お前が手伝う必要もないと?」

奏:「ああ。これなら成功は間違いない」


完璧な人間が完璧な脚本を書く。

俺はただそれを眺めているだけだった。


やがてメイドが飲み物と見たこともないような高級な菓子を運んでくる。

その時だった。

来客を告げるインターホンが鳴った。


現れたのは柴田隼人だった。

彼はまるで、自分の家のように慣れた様子で応接室に入ってくると


俺の隣のソファにどかりと腰を下ろした。

「天宮!悪い!遅れた!いやー今日の漫才の練習も最悪でよ。俺のボケにあいつのツッコミが全然追いついてこねえんだよ!」


「よう隼人。待ってたぜ。学園祭の隼人の漫才、楽しみにしてるぜ」

天宮が俺に説明する。


「学校版ハムレットを提案したのは隼人だからね。彼にも参加してもらったんだ」

天宮は柴田に「何かアイデアはあるか?」と優しく尋ねる。


すると柴田は待ってましたとばかりに熱弁を始めた。

彼が考える学校版ハムレットの構想。

その中にはコメディシーンや、現代の流行を取り入れたアイデアが満載だった。

俺なら一蹴するような、くだらないアイデアも中にはある。


だが天宮は一つ一つに真剣に耳を傾け、そして言った。

「面白いなそれ。そのユーモアが逆に彼の悲劇性を際立たせるかもしれない。全部取り入れよう」

その言葉に、柴田のモチベーションは最高潮に達した。


俺はその光景を、ただ観測していた。


奏:「…見たか?ミラー。あれが太陽の人心掌握術だ」

ミラー:「ああ。だが本人にその自覚はないんだろうな。あれが奴の自然体だ」

奏:「…恐ろしい男だ」

俺は改めて、天宮蓮司という人間の底知れない器の大きさに戦慄していた。



19-5◆王の器、そして2つの宿題◆

「全部取り入れよう」

天宮はそう言うとノートパソコンを開いた。


彼のその指が驚異的な速度でキーボードの上を舞い始める。

柴田のその突拍子もないアイデアを

彼が元々考えていたであろうハムレットのプロットの中へと


驚くべき速度で再構築していく。

その光景を俺と柴田はただ呆然と眺めていた。


奏:「…ミラー。信じられるか。あいつは今柴田のあのくだらないアイデアをシェイクスピアの悲劇にリアルタイムで融合させている」

ミラー:「…超天才だな。もはや人間業じゃない」


数十分後。天宮はピタリと指を止めた。


「…できたよ。プロットの最新版だ」

彼が俺たちに見せたそのプロットは完璧だった。


柴田のユーモアが悲劇のスパイスとして、見事に機能している。


そして天宮はそのデータをUSBメモリに移すと俺に差し出した。

「あとは音無くんがこれを脚本に落とし込んでくれ。頼んだよ」


それは王からの「宿題」だった。

俺はそのUSBを受け取りながら全てを理解した。


(…そうか。こいつ…)

奏:「…分かったぞミラー。こいつはわざと俺や柴田に役割を与えている。自分一人で全てできるくせに」

ミラー:「…それが王の器というやつか。仲間に手柄を立てさせることで忠誠心を引き出す。恐ろしい男だ」


俺は、彼のその底知れない器の大きさに感服した。

会議は終わり、気づけばもう夜の十時を過ぎていた。

天宮は執事らしき老人を呼びつける。


「じい。彼らを自宅まで送ってやってくれ」

「はい。ぼっちゃま」


俺とテンションが最高潮の柴田は、再びあのマイバッハに乗れることになった。

天宮は俺たちを玄関まで見送ってくれた。

そして門の前で別れる、その最後の瞬間。

天宮は思い出したように、俺にだけ聞こえる声で言った。


その瞳にはあの時と同じ、一点の曇りもない善意を宿して。


「…ああそうだ、音無くん」

「三好のこと。本当に頼んだよ。何とかしてやって」


その一言。

それは俺の心臓に突き刺さる氷の刃だった。

俺はただ曖昧に頷くことしかできない。

静かな車内で俺はただ一人天宮蓮司という男への

畏怖と、そして彼から与えられたこの「2つの宿題」に打ちひしがれていた。

第十九話お読みいただきありがとうございます。

作者の京太郎です。


今回は観客席にいたはずの主人公が初めて太陽の城へと足を踏み入れるお話でした。

彼がそこで見たのはただの金持ちの日常ではありません。

自分とは全く違う世界のルールとそこに生きる王の圧倒的なまでの「格」の違いです。

この絶望的なまでの差を前に主人公は何を思うのか。


王から二つの「宿題」を与えられた主人公。

一つは最高の演劇の脚本を書くこと。

そしてもう一つは自らが破滅させた男を救うという矛盾したミッション。

彼はこの二つの難題をどうクリアするのか。

そしてその裏で静かに彼を監視する女王の影。

次回波乱の演劇準備編が始まります。


面白いと思っていただけましたら

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そして【ブックマーク】での応援

よろしくお願いします。

皆様の声が何よりの力になります。


それではまた次の話でお会いしましょう。

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一色いっしき しおり

キャッチコピー:

《静寂の“司書”/物語の案内人》

■ 基本情報

洛北祥雲学園高等部 3年

図書委員長

学園内でも有名な読書家で、常に穏やかな笑みを浮かべている

■ パーソナリティ

穏やかで聡明、そしてどこか近寄りがたい雰囲気を纏った少女。

誰に対しても丁寧で礼儀正しいが、決して馴れ合うことはない。

噂やカーストには一切興味を示さず、彼女の世界は「本」と「人」のみで構成されている。

一色栞は、奏の〈観識〉スキルとは別の意味で、鋭い**「観察眼」**を持つ。

その人がどんな本を選び、どんな表情でページをめくるかで、

心の奥にあるものを静かに見抜く“読心”に近い直感を備えている。

■ 物語における役割

① 白瀬ことりにとっての「聖域」

ことりが心を閉ざし、居場所を失ったとき、

唯一、安心して呼吸できる場所――それが、一色栞が管理する図書室。

栞は何も問わない。

ただ、ことりのために窓際の静かな席を確保し、

彼女が好みそうな本をさりげなく机の端に置いておく。

この言葉のいらない優しさが、ことりの心を支えている。

図書室での二人の時間は、沈黙の中で深くつながり、

ことりが「創造主」ではなく、ただの“少女”でいられる唯一の瞬間を与えている。

② 奏にとっての「鍵守ゲートキーパー

物語が進むにつれ、奏はことりの本当の心を知りたいと願うようになる。

しかし、ことりは彼を拒み続ける。

そんな中、彼女が唯一、心を開いている存在――それが、一色栞だと気づく。

■ プロフィールまとめ

一色栞は、物語の中心に立つキャラクターではない。

しかし、彼女の存在は、物語に**「救い」と「知性」と「奥行き」**を与える。

彼女は読者にとっての北極星ノース・スターであり、

登場人物たちにとっての静かな道標。

そして、奏が「力」だけではなく「心」で成長するために、

どうしても欠かせない、最後の試練となる。

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