【16】太陽の黒点と反転する世界
16-1◆太陽との対話、そして世界の広さ◆
俺は生まれて初めて、本物の「太陽」と向き合っていた。
そして、その太陽が今、俺に話しかけている。
【ERROR】
【SYSTEM OVERLOAD: 観測不能な対象です】
俺のスカウターは、意味不明な文字列を繰り返すだけ。
初めての事態に、俺の思考は、珍しくパニックに陥っていた。
奏:「…状況が読めない。スカウターはなぜ機能しないのか?なぜ天宮は俺を追いかけてきたのか?わからないことだらけだ」
ミラー:「落ち着け。脚本家だろ。相手のセリフを待て。まずは、そこからだ」
ミラーのその言葉で、俺はかろうじて、冷静さを取り戻す。
天宮蓮司は、太陽のような笑顔を俺に向けていた。
天宮「同じクラスなのに、ほとんど話したことなかったね」
奏「…ああ。そうだな」
俺は短く答えるのが精一杯だった。
天宮は続ける。
天宮「実は音無くんに、一刻も早く礼を言いたかったんだ」
奏「礼?」
天宮「まず隼人・律・莉奈の中間試験の成績。あれだけ素晴らしい成績を取れたのは君のおかげだと、律から聞いた。本当、嬉しかったよ。ありがとな」
俺は何も答えない。
天宮「あとあれだ。長峯と三好の揉め事を仲裁してくれたとか。これは隼人から聞いたんだけど、本当にありがとう。長峯は、俺がもっとも期待している後輩なんだ。」
奏「やめてくれよ 天宮くん 当然のことをしただけだ」
天宮「とにかく大きなケガもなくよかったよ。君のおかげだ」
(…礼、か。当然だ。クラスのその他大勢と同じ。この太陽もまた俺の脚本通りに完璧に踊ってくれたというわけだ)
俺の心に一瞬だけ、傲慢な満足感が浮かぶ。
だが、すぐに、それは別の感情に取って代わられた。
(…だが本当にそうか?)
俺は目の前の男の、そのあまりにも純粋な瞳を見つめる。
そこには、一点の曇りもない。ただの善意の塊。
(俺の全てを見透かした上で、あえてこの言葉を口にしているのではないのか?)
(俺という新しいプレイヤーを試すために?)
分からない。こいつだけは、本当に分からない。
スカウターが機能しない今、俺の目の前にいるのはただの「お人よし」なのか。
それとも俺の想像を遥かに超えた「怪物」なのか。
その判断が、全くつかなかった。
俺は、思考を切り替える。
観測者として、情報を引き出すことに集中する。
奏「それはそうと、天宮くんは今日は学校に来てなかったよな?」
天宮「ああ。今日はちょっと大事な用事があってね。夕方の部活から学校に来ているんだ」
奏「へえ、どんな用事?もしよかったら教えてくれるか?」
俺は単純に、王の高尚そうな用事に興味がわいた。下世話な好奇心だ。
俺のその不躾な質問に天宮は嫌な顔一つせず答えた。
天宮「天宮財団が主催する全国高校生英語ディベート選手権が、今年は京都で開かれるんだ。その準備会議だよ。
俺も特別顧問として参加している。高校生の立場から意見を出しているんだ」
奏「…高校生の英語ディベート?」
俺の知らない言葉。
俺の生きてきた世界とは、全く違う次元の言葉。
天宮「11月の下旬から開催予定なんだ。会場は、できたばかりの天宮記念ホール。
全国から優秀な高校生が集まる。亜里沙も出場するはずだから。君も興味があれば、見に来てくれよ」
天宮は、屈託なく笑った。
その笑顔の前に、俺はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
彼が見ている世界の広さを、今初めて思い知らされた。
16-2◆太陽の善意、そして悪魔の踏み絵◆
俺のスカウターが、機能不全に陥る中
天宮蓮司は、太陽のような笑顔を俺に向けていた。
俺は必死に、賞賛の言葉を口にする。
「へえ、さすが天宮くんだね。俺とはスケールが違うな」
すると天宮は、困ったように笑った。
「俺なんて、ただの親の七光りだよ。むしろ君からは、何か人とは違う凄みを感じるよ」
「俺なんて、超凡人だよ」
その鋭い指摘に、俺は内心で、激しく動揺していた。
「あ、もう練習に戻らないと。じゃあ、またな音無くん。話せてよかったよ」
天宮はそう言うと、体育館の方向へと踵を返す。
(…なんてさわやかで、いい奴なんだ。天宮の周りには、いつも人が集まるのがよくわかる)
奏「ああ、わざわざ追いかけてきてくれて、嬉しいよ また明日な」
天宮と別れて、俺は家路を急ごうとした。
そのときだった。
「あーそうそう、忘れてた」
天宮が振り返り、俺を呼び止めた。
その瞳には、一点の曇りもない。
純粋な善意だけがそこにある。
そして彼は、その日、最高のそして、最悪の爆弾を俺に投下した。
「…もしよかったらなんだが、俺の親友の三好のことも、助けてやってくれないか?」
「え???」唖然とする俺
天宮「三好は、本当はいい奴なんだ。あんなことするには何か理由があったはずだ」
その言葉が、俺の思考を完全に停止させる。
脳内のウィンドウが緊急警報のように開いた。
ミラー:「…何だそれ?。最悪のお願いだな」
奏:「こいつは何を言ってるんだ?あんな最低のクズ野郎に」
ミラー:「そうだよな。こいつ、本心なのか?」
奏:「どうする。どう答える。YESと言えば、俺が完成させた脚本が破綻する。
NOと言えば天宮の善意を無下にし、彼との関係が悪化するかもしれない」
ミラー:「逃げ場はない。お前は今、神に踏み絵を迫られている。どうする?音無奏」
俺は数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
その顔には最大限の「共感」の仮面を被って。
「…三好のこと心配なんだな。親友なんだろ。分かるよ。その気持ち」
声がわずかに震えていることに、自分でも気づいた。
喉が乾く。舌がうまく回らない。
「協力したいけど。俺には……彼を助けられるような器量はないよ」
言葉を吐き出すたび、胸がひくつくように痛んだ。
掌にじわりと汗がにじむ。
ポケットの中で、握りしめた拳が冷たく湿っている。
しかし、天宮はそれを見透かすように微笑んだ。
まるですべてを見ていたかのように。
「そうかな。君ならそれくらいできそうだけど」
その瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。
額から流れる汗が一筋、顎を伝って落ちる。
呼吸が浅くなるのを、必死に隠す。
(…こいつ!)
俺は、その鋭すぎる観察眼に戦慄する。
俺は最後に、曖昧な言葉で、その場を凌ぐしかなかった。
「…俺に何ができるか?わからないけど、俺なりにやってみるよ」
「うん。頼んだよ」
天宮は満足そうに頷くと、今度こそ、本当に体育館へと走り去っていった。
後に残された俺の心臓は、破裂しそうなほど脈打っていた。
16-3◆姉の観察眼、そして太陽の黒点とは?◆
自宅の玄関のドアを開けた時、俺の足は鉛のように重かった。
天宮蓮司との邂逅。
その衝撃は俺が思っていたよりも深く、俺の思考回路を蝕んでいた。
リビングのソファに、倒れ込むように座る。
「おかえり。あんた、いよいよ本格的に幽霊になったんじゃないの?顔色最悪よ」
スマホから、顔を上げた姉の彩葉が呆れたように言う。
俺は答えない。
答える気力もなかった。
その俺のただならぬ様子に、彩葉は何かを察したらしい。
彼女はスマホを置くと、俺の向かいに座り込んだ。
「…で?何があったのよ。最近調子がよさそうだったあんたが、そこまで魂の抜けた顔するなんて」
俺は、しばらく逡巡した。
この姉に教室リーグの話をしても、理解されるはずがない。
だが俺は、誰かに話さずにはいられなかった。
この俺の理解を超えた存在のことを。
「…姉さん」
俺は、ぽつりと呟く。
「もし、この世に完璧な人間がいたらどう思う?」
彩葉「そんな奴、いるわけないじゃない」
「それがうちの学校にはいるんだ。俺にも信じられないんだ」
俺は今日の出来事を説明した。
俺のクラスにいる天宮蓮司という男のこと。
家柄も資産もルックスも人格も人望も学力も運動神経も。
その全てが高スペックで、非の打ちどころのない人間であること。
そして話したこともなかった男が今日、わざわざ俺を追いかけてきて、礼を言ったこと。
俺は、復讐や策略などではなく、ただただ純粋な疑問として彼女にぶつけた。
「…こんなやつに、何か欠点とか人間味ってあるのかな」
俺のその問いに、彩葉は一瞬だけ、遠い目をした。
そして、まるで世界の真理でも語るかのように、静かにこう言ったのだ。
「彼はいつでも誰からも、大切にされていそうね…だからこそ、あるんじゃない?たった一つだけ」
「一度も転んだことがない人間は、本当の痛みを知らない」
「そして人の痛みや、弱い部分・人間の汚い本質を本当の意味で理解することもできない」
「なぜなら、多分、彼は周囲に持ち上げられるだけの人生だったから。」
「そういうことじゃないの」
その言葉。それは俺のスカウターが、決して導き出すことのできない答えだった。
俺の凝り固まった思考を破壊する天啓。
(…人の痛みを理解できない?人間の汚さも知らない)
その言葉が、俺の思考の中に新しい光を灯した。
天宮蓮司という太陽。
その輝きの中心にあるかもしれないたった一つの「黒点」。
俺は初めて、その存在の輪郭を捉えた気がした。
16-4◆世界の反転、そして新しい舞台◆
翌朝、俺が教室のドアを開けた瞬間
世界が反転したことを知った。
夏休み明けの9月上旬頃とは、全ての景色が変わっていた。
「音無、おはよ」
「おはよう、音無くん」
俺が自分の席へと向かう、その短い距離。
その間に、俺は数人のクラスメイトから挨拶をされた。
俺はその顔も名前もうろ覚えだ。
だが、彼らは俺を知っている。
俺は、もはや「その他大勢」ではない。
俺は「音無奏」という名の一個の存在として、この教室に認識されていた。
そして極め付けは、彼だった。
天宮蓮司。
彼は教室に入ってくると、俺の席の前で足を止め
そして、あの太陽のような笑顔で言った。
「音無くん、おはよう。昨日は悪かったな、引き止めちまって」
その瞬間、俺の視界の端で、半透明のウィンドウが、警告音と共に強制的に展開された。
**〈観識スカウター〉**が、教室内の、急激なパワーバランスの変動を感知したのだ。
ピリリ、と鳴り響く電子音。
目の前に、クラス全員の顔写真アイコンと、それに紐付けられた数値が、滝のように流れ落ちていく。
『教室リーグ』ランキング。リアルタイムでの、順位更新。
俺のアイコンが、リストの最下層――「観客席」という圏外から、凄まじい勢いで、駆け上がっていく。
38位、25位、15位、そして――。
最終的な順位が、冷たいゴシック体で、確定表示された。
【CLASS RANKING - TOP TIER】
1. 天宮 蓮司 [INFLUENCE: --- (測定不能)]
2. 久条 亜里沙 [INFLUENCE: 97]
3. 結城 莉奈 [INFLUENCE: 88]
3. 斎藤 律 [INFLUENCE: 88]
3. 柴田 隼人 [INFLUENCE: 88]
6. 音無 奏 [INFLUENCE: 82]
…6位? 俺が? 圏外にいたはずの俺が???
そのたった一言。
王からのその一言が、俺の序列をさらに決定的にした。
クラス中の視線が、俺に突き刺さる。そこには、もう侮蔑の色はない。
ただ畏怖とそして、強い好奇心だけあった。
その日の全ての授業。
俺は、その奇妙な視線に晒され続けた。
そして放課後を告げるチャイムが鳴る。
今日のホームルームでは、重要なことを話し合う予定だ。
担任の烏丸がいつものように教壇に立った。
彼のその顔には、いつもの諦めきった表情が浮かんでいる。
「さて諸君。中間試験も、無事に終了したことだし」
「いよいよ本格的に学園祭について、話し合おうと思う」
烏丸は教室を見渡す。
「ご存知の通り、我がクラスの出し物は演劇で決定済みだ」
「今日は、その演劇の具体的な演目や役割について、決めたいと思う。何か意見のある者はいるか?」
その言葉を、合図に教室が再び、ざわつき始める。
(…演劇)
俺が望んだ舞台。
だがその舞台に俺自身が、引きずり出されるとはな。
俺は静かに、その新しい戦場の始まりを観測していた。
第十六話をお読みいただきありがとうございます。
作者の京太郎です。
今回は奏が初めて「倒すべき敵」ではない「あまりにも善良な壁」と対峙する話でした。
悪意よりも、厄介な純粋な善意。
そして異能の力よりも、強い姉の何気ない一言。
皆様は、彼のこの新しい苦悩をどう感じたでしょうか。
太陽王から「親友を救え」という、あまりにも残酷な勅命を受けてしまった主人公。
彼はこの矛盾したミッションを、どう遂行するのか。
そして動き出す文化祭の準備。
次なる舞台は「演劇」。
果たしてそこで彼はどんな脚本を描くのか。
面白いと思っていただけましたら
下にある【★★★★★】での評価
そして【ブックマーク】での応援
よろしくお願いします。
皆様の声が何よりの力になります。
それではまた次の話でお会いしましょう。
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山中 駿平
所属:洛北祥雲学園高等部・2年4組
キャッチコピー:
《凡人の“眼”/物語の観測者》
■ ビジュアル
平均的な身長と体格
黒髪の短髪、どこにでもいそうな普通の男子生徒
派手さはないが、表情が豊かで、親しみやすい雰囲気
■ パーソナリティ
山中駿平は、クラスで一番「普通」な男子。
特別な才能やカリスマ性はないが、誰とでも分け隔てなく話せる柔らかい性格と、程よいコミュ力を持つ。
アニメ・ゲーム・SNSに詳しく、クラスのゴシップや流行にも強い。
冗談を言って場を和ませたり、誰かが孤立していれば自然に声をかける。
しかし、強いリーダーシップはなく、あくまで“調整役”に回るタイプ。
■ 奏との関係
奏にとって、山中は数少ない「気兼ねなく話せる相手」。
クラスの派閥争いに関わらない中立的な立場で、自然体で接してくれるため、奏は安心して会話できる。
当初、奏は山中を「情報源」として無意識に利用しているが、物語が進むにつれて、その関係は親友へと変わっていく。山中もまた、ミステリアスな奏に惹かれ、「放っておけない」という感情を抱き始める。
■ 物語における役割
① “ツッコミ役”兼“読者の視点”
奏が突拍子もない行動を取ったとき、真っ先に「おい、音無、何やってんだよ!?」と反応する
彼の存在が、読者にとって物語を客観視するための視点になる
② 情報屋ポジション
クラス内の噂や、上位カーストグループの動き、先生たちの裏事情など、軽いゴシップを自然にキャッチしてくる
奏は山中から得た“表の情報”と、自分の観察結果を組み合わせて戦略を立てる
③ 奏の「人間性」を映す鏡
物語序盤では、奏にとって山中は“利用する相手”に過ぎなかった
しかし、様々な出来事を経て、奏が「本物の友情」を知るきっかけとなる
山中への態度の変化は、奏の心の成長を測るバロメーター
■ プロフィール総評
山中駿平は、特別な能力を持たない“凡人”でありながら、
奏の物語を最も近くで見守り、支えるもう一人の語り部。
クラスのムードメーカーであり調整役
奏にとって最初の「安全地帯」
序盤では“観測者”だが、終盤では“親友”になる
彼は華やかな存在ではないが、**奏の物語における欠かせない“心の支柱”**となる。




