9.姫華の正体!?
街中は、クリスマス仕様に色付き始めていた。
もうそんな季節だ。道行く男女が浮き足立っているように見えてくる。
華世は歩いていると、ふと、道路を挟んだ反対側に霧島の姿を見つけた。
声をかけようとすると、目の前を車が遮る。
車が過ぎ去ると、そこには、澪と落ち合っている霧島の姿があった。
「えっ……!? 澪……ちゃん?」
気になりすぎた華世は、二人の後を尾行した。
「どういうこと……」
二人はオシャレなカフェへと入って行った。
「霧島君、こんなところにも入るんだ……。わたしとは行かないくせに……」
華世は動揺していた。
× × ×
店内では、霧島と華世が話をしている。
「もう12月になるのに? あんた彼女もいないのぉ? いい加減作りなよー。イケメンなんだから彼女くらい簡単にできるでしょ」
「別にいらないし……」
「えー、ならクリスマスはどうするの?」
「どうもしない」
「またゲーム? 現実見なって。わたしは、今会社の先輩狙ってるのよー。クリスマスまで時間ないし?」
「へぇー」
相変わらず、霧島は興味のなさそうなリアクションだった。
「ゲーム、そんな楽しい? 引きこもって、どっか遊びに行ったりもしないでしょ?」
「うーん。でも、この前、遊園地には行った」
「えっ!? 遊園地? 誰と? まさか、女子?」
「女子? あーまぁ……」
「マジで!? ちょっともう、ちゃんとデートしてんじゃん!」
「デート?」
「なになに? 誘われたの? それでまんざらでもなくて? みたいな?」
きょとんとした様子で、霧島は淡々と答える。
「誘った……けど?」
「はっ? あんたが? ちょ、それ、あんたその人のこと好きじゃん!」
「はぁぁ!?」
霧島は驚き、目を見開いた。
「だって、遊園地誘うって、そういうことでしょ?」
「えっ!?」
「えっ!?」
二人は、困惑したまま顔を見合わせた。
× × ×
華世は、カフェをあとにし、歩き出した。
キラキラした街並みが眩しく感じられる。
なんで彼女がいながら、わたしと遊園地なんか……。
だから何もなかったのか。人畜無害ってこと?
わたしは女とも思われてない?
なんでゲームもしない、澪ちゃんなのよ?
華世は、ふと足を止めた。
「え……。わたし、今、嫉妬してる?」
× × ×
カフェでは、澪が発狂していた。
「えー!? 男女がゴンドラの中で二人っきりで、何もないとか、そんなことある?」
「……」
「あんたは草食系なのか! もうこっちが草生えるわ!」
「いや、僕、ベジタリアンじゃないし、別に肉も食べるけど……」
「そういうことじゃない!」
華世は、帰宅すると、霧島がくれた魔物のぬいぐるみに話しかける。
「ホントに好きな人にモテなきゃ、何の意味もないって……そういうこと?」
ぬいぐるみは、何も答えてくれなかった。
「もう! 何がわたしとフレンドになりたいよ! ……そっか、だからフレンドなのか……」
わたしは所詮フレンドなんだ。それ以上でも、それ以下でもない。
サンライズミストさんとも、わたしはずっと、ただのフレンドだもの。
何考えてんだろ、わたし……。
華世は、『魔物狩人の結び』にログインする。
すでにサンライズミストはプレイ中だった。
「……」
華世が始めると、すぐにサンライズミストからの誘いが来た。
「! 彼女とやればいいのに……」
華世は、モヤモヤする気持ちを飲み込み、ボイスチャットを繋いだ。
サンライズミストのアバターが、姫華の前に現れる。
「姫華さん、こんばんは」
「こんばんは……」
「姫華さん、男女でどこかに出かけたら、それってデートになるんでしょうか?」
ええっ!? いきなりそのホットな話題!?
「えっとぉ……それは、その人との関係性にもよるんじゃないでしょうか……?」
「やっぱり、そうですよね!」
「お、お友達なら、全然? デートじゃないですし……」
声から、サンライズミストさんの動揺と安堵がうかがえる。
彼女に浮気を疑われたとか? そりゃそうよね?
澪ちゃんなら……。いや、わたしだって、そんなの怒ると思う。
「今日、このクエストやりません? 結構難しいらしいですけど」
「は、はい!」
サンライズミストさんは、すぐにいつもの様子に戻っていた。
なによ……。
姫華とサンライズミストは、いつものようにフレンドとして、現れた魔物と戦った。
姫華が弓を使い、矢を放つ。
サンライズミストがすかさず、剣を振りかざす。
姫華は、魔物から反撃を受けながら、更に矢を放つ。
息もぴったりだ。
「今だ! いけぇ、霧島君!」
「へっ……?」
ヘッドセットをしたまま、霧島の手は止まった。
画面のサンライズミストは停止している。
サンライズミストのアバターは、そのまま魔物にやられ、倒れた。
ゲームオーバー。
「あーー! やられたぁ!」
姫華の声が耳元で聞こえる。
霧島は、呆然としていた。
霧島君……??
次回、最終話!