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8.リアルイベント

 11月中旬。華世は部屋でジタバタ、ドタバタしながら準備をしていた。


「えーどうしよ!!」


 鏡の前でうろうろ。


「え? 格好これでいいよね? もっと若作りする? 一緒にいたら保護者だと思われる? さすがにそれはないか……」


 パンを口に突っ込みながら、カーテンを開け、窓の外を覗く。

 そこには、すでに霧島の姿があった。


「いや、早すぎでしょ! 家の前って、待った? 今来たとこ! も成立しないじゃない! はぁああ、焦る!」


 華世は一度玄関まで行ったあと、バタバタしながら再び部屋に戻り、イヤリングをつけた。


「いってきまーす」


 見守っている魔物のぬいぐるみに声をかけ、部屋をあとにした。




 そして、華世と霧島は、『魔物狩人の結び』コラボ遊園地へとやって来た。


 華世は、周囲の手を繋ぐカップルの様子が気になった。


 そういえば、わたしデートとかしたことなかった……。

 ってか別に、これデートじゃないんだから!

 何わたしこんなに焦ってるのよ!

 別にあんな攻めたことする必要なんて……。


「攻めていきますか!」


「ええぇ!」


 霧島の声に、思わず華世の動揺が漏れた。。


 霧島の手には、魔物スタンプラリーの用紙が握られていた。


「せっかくなんで、全部回りましょう! クエスト制覇、スタンプ制覇でグッズもゲット! 隠れ魔物もいるみたいなんで、全て探しましょう!」


「は、はい……」


 すると突然、霧島は華世の手を引き、走り出した。


「え!? ちょ、だからなんで走るのよぉ! そんな急がなくても!」


「魔物が逃げちゃいます!」


「いや、逃げないでしょぉお!」



 園内には、様々なところに魔物が潜んでいる。

 華世と霧島は、ひたすら魔物の探索をした。


 魔物の看板やシールを発見し、はしゃぎ……

 魔物スタンプを見つけ、騒ぎ……

 メリーゴーランドに乗り、揺られながら必死に隠れ魔物にカメラを向け……

 コーヒーカップで回りながらでも魔物を探し……

 ジェットコースターで絶叫した。



「カンパーイ!」


 華世と霧島は、園内のベンチで変わった色味の魔物ジュースを手に、乾杯した。


「それ、どんな味?」


「なんか、飲んだことない味がします」


「魔物の成分の味?」


「そうですね」


 二人は笑った。


「さっきのジェットコースター、魔物見れました?」


「ごめん、終始なんにも見れなかった……」


「あれは、なかなか過酷なクエストでしたね」


 霧島は笑った。


 サンライズミストさんって、こんな感じで、楽しそうに笑うこともあるんだ。

 来てよかったかも。


 霧島は、魔物スタンプラリーを広げた。


「ラストは観覧車です! 一周して降りたところに最後のスタンプがあるみたいですよ!」


「よし、じゃあ行きますか!」



 観覧車に二人がやって来ると、ゴンドラの手前では、記念撮影のサービスが行われていた。


「お二人も、お写真いかがですか?」


 スタッフの女性に声をかけられる。


「是非!」


「え!」


 霧島のまさかの返答に、二人は写真を撮ることになった。


「それでは撮りまーす! 彼女さん、もっと彼氏さんに近付いてー」


「!」


「ハイ、ポーズ!」


 その場に、シャッター音が響いた。



 二人はゴンドラに乗り込むと、華世と霧島は、向かい合わせに座った。

 観覧車が動き出し、無言の時間が流れる。

 観覧車が頂上へ向かうにつれ、二人を西日が照らす。


 これって、今日一日、リアルでもサンライズミストさんと魔物を倒してたってことだよね?

 なんだか、そう考えると感慨深いな……。


 ん!? え、待って!?

 この閉鎖された空間に、男女で二人きりとか、気まず過ぎるんですけどぉーー!


 現実に引き戻され、華世は急にゾッとした。


 霧島がきょろきょろしている。


 え? なになに!?

 どうした、落ち着きないぞ! サンライズミストさん!!


「観覧車に隠れる魔物って……どこですかね?」


 あ、そっち!?

 観覧車の中の魔物って……。

 本来、男でしょ! いや知らんけども!


「あっ!」


「えっ!」


 霧島がゴンドラの天井を指差している。

 そこには、魔物のシールが貼られていた。


「いました!」


「ホントだ!」


 霧島は嬉しそうな様子だ。


「ねえ、同世代の女の子とじゃなくてよかったの?」


「えっ?」


「遊園地来るの」


「逆に、僕が同世代の女の子と楽しめると思います?」


 華世は、霧島の言葉に思わず笑ってしまった。


「わたしじゃなきゃ務まらないか」


 二人は顔を見合わせ笑った。


「ホントはね。今日、朝からだいぶテンパってた」


「え?」


「久々にこういうところ来たし、霧島君と二人だったから」


「え、嫌でしたか?」


「いや、そうじゃなくて……。こういう場所って、ほら、カップルが行くところで、わたしなんかが行く場所じゃないって思ってたから……」


「……」


 頂上に到着し、華世は、夕日に照らされた外の街並みを眺めた。


「別に記念日なんていらない。髪切ったの気付かなかったとか、どうでもいい。ただ、ひたすら好きでいてほしい……」


「サブクエストの方が、なんだか難しそうですね」


「ホント、そうね……」



 観覧車は一周し、二人は最後のスタンプを見つけた。


「あった! これでコンプリートですよ!」


「クエスト制覇だね!」


 二人はスタンプを押した。


「あ、わたし、あの記念写真受け取って来るよ」


「ありがとうございます!」


 その時、駆け出した華世の片耳から、するりとイヤリングが落ち、地面に取り残された。



 華世は、スタッフから記念写真を受け取る。

 それは、華世と霧島のツーショット。


「彼女さん……か」


 写真を見つめ、華世はぼそっと、そう口にした。




 華世と霧島は、触れそうで触れない距離のまま、家の前まで戻って来た。

 辺りは、すっかり暗くなっていた。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ、誘って頂いてありがとうございました」


「僕、少しは姫野さんのフレンドになれましたか?」


「そう……だね」


「なら、アカウント教えてくれますか?」


「それは……。わたしがもう少しうまくなったらで……」


「そうですか。分かりました。僕待ちますんで!」


 霧島は残念そうに口をとがらせる。華世は苦笑した。


「では、おやすみなさい」


「おやすみ」


 二人は、手を振り別れると、それぞれの部屋へと戻った。



 華世は部屋に戻ると、そのままベッドに倒れ込んだ。


「何もないってある意味凄い。相手はハタチの男だってのに。ねえ、わたしは魅力がないの?」


 華世は、魔物のぬいぐるみに話しかけた。

 魔物は、何も答えない。


「ああもう! わたしも何考えてんのよ!」


 華世はイヤリングを外そうとし、片方ないことに気付いた。


「あれ、落とした!? ジェットコースターかな……」


 華世は、顔を歪めた。

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― 新着の感想 ―
リアルイベントもめっちゃ楽しんでるし、傍から見れば、お似合いのカップルなんですけど、やっぱり華世は引いちゃいますか。 そして、まだ正体を明かさないんですね。
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