7.フレンド申請致します!
その日、華世は久々に『魔物狩人の結び』にログインしてみた。
すでに、サンライズミストはプレイ中だった。
「ホント、いつでもやってるな」
華世がソロでプレイしていると、やがてサンライズミストから誘いが来た。
華世は、ヘッドセットをし、手が止まった。
「待って、これ、声でバレる……? まさか、ね? さすがにわたしとは思わないよね?」
華世は、声の調子を整え、ボイスチャットを繋いだ。
サンライズミストのアバターが姫華の前に現れた。
「お久しぶりです!」
「どうも……」
「全然ログインしてないから、心配してました」
「ごめんなさい。えっとー、ちょっと体調崩したり、仕事が忙しかったりで……」
「そうだったんですか。それは大変でしたね。お疲れ様です。じゃ、行きますか!」
「はい」
サンライズミストに変わった様子はなく、華世は疑われてないと思い、ホッとするのだった。
姫華とサンライズミストは、いつものように探索に繰り出す。
「僕、最近、近所に同士がいることを知ったんですよ」
「へ、へぇー」
突然の自分の話題に、動揺する。
「その方、このゲームしてて、コラボカフェ行くほど激アツなんですよ」
「そ、そうなんですね……」
「でも、何故か僕とはフレンドになってくれないんですよね」
だってもう、フレンドなんだもん!
それ、わたしなんだもん!!
「どうしたらいいと思います?」
「えっ、えーっと、それは……」
「すみません。変なこと聞いて」
「あ、いや……。ご近所だからじゃないでしょうか?」
「え?」
「普段会うからこそ、気まずいといいますか……」
「そうなんですか!? そういうものなんですか? 経験でもあるんですか?」
「いや、あくまでも、予想ですよ? たとえばですよ?」
「なるほど……。僕は近所でもゲームでも会えるなんて、二倍嬉しいと思うんですけどね」
華世のゲームする手が止まる。
「え……。サンライズミストさんは、その人のこと……どう思ってるんですか?」
「面白い方だなって思ってますよ」
「面白い……?」
「あ! 魔物、いましたよ! 姫華さん、攻撃!」
「は、はい!」
姫華は魔物に矢を放った。魔物は話す隙も与えない。
面白い??
華世には、その疑問だけが残った。
翌朝、オフィスでは、華世が大きなため息をついていた。
「分からない……。分からないわ……」
デスクに顔を伏せる。
華世の様子に驚き、澪が話しかけてきた。
「どうしたんですか、華世さん? 珍しく悩みでも?」
「珍しくって……」
「だって悩みとかなさそうじゃないですか?」
「わたしそんな風に見えてるんだ……」
「はい」
「澪ちゃん、最近の若者が言う面白いってどういう意味?」
「え?」
「ハタチのボーイに面白い人って思われてんだよね」
「それって、恋ですか!?」
澪は目を輝かせた。
「なんでそうなるのよ。この話のどこに恋の要素があるわけ?」
「んー。まぁ、面白いってことは少なくとも嫌われてはないですよね?」
「フレンドになりたいんだってさ。あ、ゲームのね?」
「え! なら好意はあるんじゃないですか! お友達からお願いしますってことですよね? 待って、めっちゃその子、華世さんのこと好きじゃん! きゃー!」
「ダメだ、全然こっちの話聞いてないし。聞く相手間違えた」
華世は、澪の様子に呆れた。
その日の夜、華世が帰宅すると、アパートの前には霧島の姿があった。
「げっ、待ち伏せ!?」
「あ、おかえりなさい!」
「た、ただいま……じゃなくて! え、なんで!?」
「僕とフレンドになりませんか?」
「え、その話まだ続いてんの!?」
「今度、一緒に遊園地行きません?」
「はっ!?」
「フレンドになってもらえないので、まずは姫野さんとフレンドになろうかと!」
「どゆこと?」
「『魔物狩人の結び』コラボ遊園地です!」
「え!」
「先程公式から発表があったので、姫野さん絶対行くと思って、誘いに来ました!」
「ちょ、え、遊園地!?」
華世は慌ててスマートフォンで情報を確認する。
「あの遊園地、リアルイベントになったの!?」
「はい! ゲームの世界が現実に! ってことみたいです。もちろん行きますよね?」
「それは……」
「ここでしかゲットできないアイテムもあるようですよ」
「うん……。そうなると行くかもだけど……」
「姫野さんフレンドクエスト、楽しみましょう!」
「フレンドクエストって……」
「じゃ、よろしくお願いします!」
相変わらずの図々しさを発揮するピチピチの大学生は、容赦なかった。
狙った魔物は逃さないサンライズミストである。
いや、わたしは魔物かい!