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5.アイテムは転がるりんご

 華世と霧島は、バスに乗り込んだ。

 自宅前まで同じルートだ。華世は空いてる座席の窓側に座る。すると、霧島が、そのまま隣に乗り込んできた。


 え!? 隣座るの!?

 他の席も空いてるのに?

 いや、でも、この状況で離れて座る方が逆に不自然か……。

 それにしても、ち、近い……。


 バスに揺られ、沈黙が流れる。

 華世は、隣にいるのがサンライズミストであることを意識しないようにしなければと思うのだった。目のやり場に困り、華世は曇った窓ガラスに目をやる。


「あ!」


 窓ガラスには、矢が刺さったハートに剣が描き加えられた落書きが浮き上がっていた。

 霧島が、突然身を乗り出し、窓を指さす。


「これ、僕が描いたんです!」


「えぇっ!?」


「正確に言えば、この剣を描いたのが僕です!」


 テンションが上がり、嬉しそうな霧島の様子に、華世は動揺した。


「誰がこのハート描いたんでしょうね?」


 華世はドキッとした。


「さっ、さぁ……? 誰だろうねぇ……」


「僕、弓使いに憧れるんです! カッコ良くないですか?」


「弓……? ……カッコ良い!?」


 サンライズミストさん、そんなこと思ってたの!?


「僕がよくやってるゲーム、弓がうまい方がいて、いつも凄いなって思ってるんです」


「へっ……へぇー。でも、剣を使いこなすのも素敵だと思うけどな……」


「そうですか? この魔物も、弓と剣の攻撃で、一発ですよ!」


 霧島はハートを指差した。


「魔物……」


 ハートって魔物だったのか……。

 やっぱりこの人、サンライズミストさんなんだ……。




 華世は部屋に戻ると、そのままベッドに倒れ込んだ。


「はぁあ、疲れた……」


 疲れが一気に押し寄せた。

 転がったまま、華世はゲーミングセットを見つめる。


「つんだ……。もうこんなのログインできないよぉ!」


 華世は、ひとりベッドでジタバタした。




 華世が、『魔物狩人の結び』にログインできなくなって数日が過ぎた。

 スーパーで買い物をしていると、華世のもとに一通のメールが届いた。

 それは、『魔物狩人の結び』コラボカフェ当選のお知らせだった。


「よっしゃー!」


 華世はその場でガッツポーズを決める。

 周りから白い目で見られていることに気付き、我に返り焦るのだった。


 買い物を終え、外に出ると雨が降っていた。


「うそぉ、傘持ってないよー」


 華世は雨の中に飛び出すと、小走りで家路を急いだ。


「わっ!」


 帰り道、途中にある階段で足を滑らせると、華世は足首をひねり転倒した。

 その衝撃で、買ったりんごが袋から飛び出し、階段を転がった。

 転がるりんごを通りかかった、傘を差した誰かが拾った。


「いててて……」


 誰かが、スッと華世を傘の中に入れた。

 華世が顔を上げると、目の前には霧島がいた。


「!」


 霧島は相変わらず、ポーカーフェイスだった。


「大丈夫ですか……?」


「き、君……!」


「どうも、霧島です」


「なんで!」


「なんでって……。りんご転がってきたんで」


「あっ……。ま、まさか、こんなところでまた会うとはねぇ……」


「まぁ、近所なんで」


「そ、そうよね? あ、わたしは大丈夫だから。いたたたた……」


 華世は立ち上がろうとして、バランスを崩した。


「大丈夫じゃないと思いますけど」


「これ、くじいたかな」


「送っていきますよ」


「え? いや、いいって!」


「だって、足そんなだし、傘もないんですよね? 荷物もあって、無理じゃないですか?」


「……」


 何も言えない正論ばかりである。


 で、その結果がこれ……!?

 何故こうなった! 何してんのわたし! 道行く皆さん、誰もわたしを見ないでください!


 華世は霧島におんぶされていた。


 恥ずかしすぎて、こんなの目もあけられない!!


「姫野さん……」


「は、はい!」


「部屋まで行ってもいいですか?」


「えぇ!? いいわけ……なんで!」


「なんでって、姫野さんの部屋二階ですよね? 大家さんの上の部屋って……」


「ああ……」


 華世は、霧島を部屋にあげることになった。

 そして、霧島に怪我の手当てまでしてもらう始末である。


「ご、ごめんねー。たまたま会っただけでここまでやってもらっちゃって……」


「いえ、別に。できましたよ」


「ありがとう」


 霧島は、ふと、部屋にむき出しで置かれているゲーミングセットを見つける。


「げっ!」


 華世は霧島の視線に気付き、全てを悟った。


「姫野さん、ゲームするんですか?」


「た、たまにねー。友達から借りただけだから! そんなには……全然? あれ置きっぱなしになってるだけで」


「そうですか」


 さすがに無理あるかぁ……。

 ん? ちょっと残念そうにしてる?


「あ! よかったらりんご食べてく? 転がっちゃったから打撲してると思うけど」


 華世は、話題を変えようとりんごの話を持ち出し、慌てて立ち上がろうとした。


「いてててて……」


「さっき転んだ人が何やってるんですか。安静にしててください。僕がやりますよ。キッチン借りていいですか?」


「え? あ、うん……」


 ちゃんとしてるなぁ。これがサンライズミストさんなのかぁ……。



 やがて、華世の目の前に、りんごうさぎが登場した。


「わ、かわいい! 君、器用だね。わたしなんてセンスないし不器用だからなぁ」


「そうなんですか? 食べられれば同じだと思います」


 霧島は冷静で、相変わらずポーカーフェイスなまま、りんごをむしゃむしゃ食べていた。


「やれる人がやればいいんですよ。あ、さっきコートのボタン取れかけてたんで、ついでに付け直しときましたよ」


「は? え!? ついで!?」


「ぶらぶらしてるの気になっちゃうんで」


「……!」


 霧島はりんごを食べ続けた。


 え、今の大学生って、こんな感じなの!?

 図々しいのか、親切なのか……。


 華世は、いつかの報酬のアイテムボックスに入っていたりんごを思い出した。

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― 新着の感想 ―
1話でボタンをつけていた華世が、今度はつけてもらう側に。 ボタン付けに、りんごうさぎ、傷の手当…なんてできる男なんだ!サンライズミストさんは。
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