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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
4節 求めた強さ

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72.努力の結果

それから数日が経過した。

まだ王都(サイシア)は賑やかで、まだまだ人がごった返している。

昇格試験が終わって解散とはならず、ほとんどの人が残り結果発表を待っている。その間、受験者たちは当然ギルドで依頼を受ける。当然流入冒険者扱いなので、依頼制限はある。

それでもここは王都(サイシア)、依頼料が高い依頼は多い。依頼者からは優秀な人手が増えたくらいにしか思われておらず、依頼も増えていた。

そのためギルド仕事が多くなり、ラナラスだけでなくリリアにアスティア、ハジメまで臨時で引っ張りだされて大忙し。冒険者業務は一休み、ギルド職員として仕事を行っていた。

アマラはアマラで親方から信頼され、強制連行(指名依頼)を受けている。

そのためエリスはどうしても1人になってしまい、最近は家の片付けや細々とした依頼を受けるにとどまり、少し不完全燃焼気味になっている。

家に帰ると寂しそうにリリアに張り付く光景が最近の風物詩だった。


「待たせたな」

そんな日々の中、リリア、アスティア、サカムの3人がギルドマスターの部屋に呼び出された。

何故呼び出されたのかはすぐに分かり、3人が緊張の面持ちで待っていると、サシウス(ギルドマスター)が普段と変わらない様子で入ってきた。3人の緊張に気付くと、毎年見る恒例の様子に小さく笑う。

「緊張するな。諦めろ、もう結果は変わらねぇ」

「結果が変わらないにしても、緊張するなは無理です」

サシウスが軽く言うが、サカムが辛そうに返す。この1ヶ月の答えが出るのだ、普段通りでこの場に居れる訳が無い。

「それもそうか。アスティアとリリアは大丈夫か」

「流石に辛い」

「私も」

リリアが珍しく緊張した様子で返すと、アスティアもそれ以上に緊張して返す。

それぞれの緊張の酷さにサシウスは苦笑いをしながら、結果報告書と手紙を2通取り出した。

「さて、これ以上待たせても辛いな。さっさと今回の昇格試験の結果を発表する」

サシウスの言葉に3人の背筋が伸びるが、その姿を確認もせず言葉を続ける。

「今回の昇格試験の合格者は全体で3人」

サシウスはそう言うと、持って来た手紙を渡した。



そんな緊張の裏側で、リリア達以上に緊張している2人がギルドの1室で待っていた。

他の部屋でも同じような緊張の中で待っているはずだ。どういう結果でも、この先のパーティ運用や動きに多大な影響が出る。そのためこういう場をギルドは準備している。

リリアがギルドマスターの部屋に行ってからまだ20分も経っていない。

それでもハジメとエリスの緊張は凄く、何とか時間を潰す様に武器防具の手入れをしたり、資料室から借りてきた本を読んだりしている。

けれど集中は持たず、ちらちらと時計を見てしまう。

きっと今、他の部屋でも似たような空気が広がっているだろう。

――コンコン

「空いてるよ」

そんな重苦しい空気の中、扉を叩く音が響いた。音だけでは誰か分からないはずなのだが、先に聞こえた足音や気配から既に誰だか分かっている。

ハジメが声をかけるとすぐに扉が開いた。

「ただいま。結果聞いて来たよ」

リリアは声を聞くとすぐに扉を開ける。いつもと変わらない、けれどまだ少し緊張しているのは当然か。

リリアの後ろの通路からも同じように扉を叩く音が聞こえる。他の部屋でもアスティアとサカムが試験結果の報告に行ってるのだろう。

「どうだった?」

エリスが不安そうに聞く。ハジメは何も言えず静かに返事を待つ。

きっと今、他の部屋でも同じような質問がされているだろう。もう答えは変わらない。サシウスから結果を聞く時以上に緊張しているかもしれない。

「これ」

リリアはそう言うと、2通の手紙を見せる。

――クロッサ・ベータ・ルベル

――グレン・フィアレス

それぞれに名前が書かれた、リリア宛の勧誘だった。

「Bランク、なれたよ」

リリアが嬉しそうに呟くと、首元を軽く触っていつも付けている冒険者タグが無い事を教えた。更新にギルドに預けたのだ。

「リリア!」

次の瞬間、エリスが満面の笑みで飛びつく。リリアは何とか受け止めるが勢いは強く、勢いに乗って後ろに下がるとトンと扉が背中に当たった。

「リリア!」

ハジメも嬉しそうに立ち上がると、2人を包み込むように抱きしめた。リリアは一瞬驚くも、すぐ嬉しそうに2人の背中に手を伸ばす。

「2人ともありがとう」

言葉を探したがそれ以上の言葉は作れず、リリアは2人の温かさと安心に包まれて喜びをかみしめた。


「それで、これからどうなるの?」

少し落ち着いてきて、自分が何をしてるのか気づいたハジメが恥ずかしさを誤魔化す様に離れる。エリスはまだ抱きついたままだがリリアが宥めると、ソファに移動した。

「ほとんど変わらないと思うよ」

リリアが座ると、エリスは嬉しそうにリリアの隣にピッタリ張り付く。ハジメは机を挟んだ反対側に座り、リリアの言葉を真剣に聞く。

「もし勧誘を受けるなら冒険者を引退って話になるけど、私()の目標は違うからね」

リリアは真剣な表情で言うと机に紹介状を置く。

――私達の目標

リリアはA-(マイナス)ランク、ハジメはAランクにまで上げて世界を自由に旅する。このBランクは目標ではなく通過点だ。

サシウス(ギルマス)からはもっと勧誘が届くって言ってるけど、全部断る予定。本当だったら騒がしくなるはずなのにって笑ってたけど、私の目標は知ってるから大丈夫だと思う」

「いっぱい届くの?」

ハジメが驚くとリリアが嬉しそうに微笑みを浮かべる。

「届くらしいよ。クロッサが昇格した時も推薦者の全員からと近い街のギルドから。後はスノーライト以外の大商店とかからも色々来てたらしいから」

「……凄いんだね」

「実力と知識がある証明だから、Bランクが欲しい所は多いの」

「じゃあリリアにも?」

「うん。昇格したのが広まれば届くと思う」

リリアが少し困ったように返す。当然だが勧誘が来ても受けるつもりはない。なのにたくさん来る事に少し罪悪感があるのかもしれない。

「勝手に送ってくるんだし、気にする必要ないよ」

「そう、だね」

ハジメが慰めるとリリアも納得する。

そこで少し間が空いたので、ハジメが気になった様子で届いている2通の勧誘に目を向けた。

「もう届いている勧誘は推薦した人?」

「そうだよ。でも結果は届いていないはずなんだよね」

「つまり、合格するって思って結果も聞かずに送ってきたの?」

「そうだと思う。落ちてたらどうするつもりだったんだろう。しかもグレンさんは私の目標知ってるはずなのに送ってきたし」

リリアが呆れたように呟く。期待(信頼)の表れなのだが、リリアとしては困ってしまう。

「そういえば、推薦者って誰?」

「えっと。グレンさんとクロッサは届いてて。ライファとヒカリさんとデンドン、マリー(おばあちゃん)も届いてた」

「え?」

合計6人、多すぎる人数にハジメが困惑するとリリアは嬉しそうにする。

「これでも控えてくれたんだよ。リズウェルさんもサシウス(ギルマス)も遠慮してくれたし、キョウヤさんはヒカリさんに負けて出せなかったらしいし」

「何やってるんだか」

「ね」

リリアの言葉は呆れてるのだがとても嬉しそうなのでハジメも嬉しくなる。エリスもリリアに体を預けながら一緒に嬉しそうにする。

――コンコン

そんなのんびりした空気を落ち着けるように扉が叩かれる。リリアが「どうぞ」と声をかけるとすぐに扉が開いた。

「こっちは報告終わった?」

そこにはアスティア達が居て、のんびりとした様子で入ってきた。

「終わった。今後の事とか相談していたところ」

「そうなんだ」

アスティアはそのままリリアの隣に座る。危険な気配を感じたのか、エリスがちょっと距離を取った。

アマラとラナラスも部屋に入ってくるので、ハジメが端によると空いた場所に座る。

「アスティアはどうだったの?」

ハジメが聞くと、アスティアが普段通りの様子で答えを返す。

「落ちてた。また来年頑張るよ」

アスティアの言葉は普段通り明るかったが、部屋の空気が凍った。



不思議な空気のまま、アスティアが昇格祝いをしようと全員を連れて歩き出す。

途中、暗い雰囲気のサカム達が居たので、そう言う事なのだろう。

そのまま近くの、リリア達も常連となっている食事処へと向かう。

飲むには早い時間だが今日はお互い依頼を受ける事も無い。今回は人が多いの個室ではないが、それでも楽しそうに嬉しそうに注文を終えるとアスティアが音頭を取る。

「それじゃあリリアの昇格を祝って、乾杯!」

そう叫ぶと持っていたお酒を半分ぐらい一気に飲み、取り分けていたサラダを食べている。アマラもラナラスも一緒に食べるが、その空気にリリア達が追いつけていない。

「どうしたのリリア。食べようよ」

アスティアがいつも通り笑うが、リリアはどうしていいか分からない。友人に何と言って良いのか分からず、助けを求める様にハジメに目線を向ける。

「アスティア、無理しないで良いからな」

「何が?」

ハジメの本気の心配をアスティアは意味が分からないと言う風に首を傾げる。

その反応は想定外だったため、今度はハジメが助けを求める様にリリアを見てしまった。

「だって昇格試験に、その。アスティアは落ちて、私だけ受かって。辛いのは分かるから、空元気にならないで良いんだからね」

自分が言って良いのか。リリアが悩みながらも慰めるように言う。

当然ともいえる心配だがアスティアは目をパチパチとさせて困惑すると、理由が分かったのか笑い始めた。その姿に今度はこちらが目をパチパチとさせてしまう。

「そっか、それもそうだよね。大丈夫、本当言うと私、全然気にしてないの」

アスティアは本当に気にしてない様子で残っていたお酒を飲み干すと、店員に次を頼む。その様子にリリアもハジメも、エリスでさえ不思議そうな顔をする。

その様子にアスティアはボンヤリと笑い、空のコップを眺める。

「ねぇリリア。私って強いのかな」

「え?」

アスティアの不思議な疑問。その言葉にリリアは困惑しか返せない。ハジメも一緒に困惑する。その姿をアスティアは気にせず、言葉を探して微笑む。

「違うね。強くなったとは思う。でもそれって、全部リリアのおかげなんだよね」

叫ぶわけでもない、怒鳴るわけでもない、ただの呟き。なのにとても強くアスティアの後悔を感じる。

「ハジメもリリアに鍛えられたけど、その強さや能力はしっかり自分で作った物だよね。アマラもそう、リリアとハジメのおかげできっかけは貰ったけど、その先は自分で鍛えた」

アスティアがリリアを見つめる。リリアは困惑と不安をもって、けれど目を逸らす事も出来ずに見つめ合う。

「でも、()()()()。リリアに鍛えられて、教わって、それで終わり、何もない。強くはなったけど、その先が出来てないの」

アスティアが後悔するように、けれど強い意志を持って目を逸らさずに向き合う。

実際アスティアは王都(サイシア)に来て格段に強くなった。実力もついたし知識も増えた。

けれど、それは全てリリアから貰った成果。その先で積み上げた物はまだなく、教わった事以上の事が一切出来ていない。

レイドのギルドリーダーでさえ、リリアのサポートがあったから出来た物なのだ。

「だから私は昇格試験に落ちて当然だったの。今の私のすべてはリリアに教わっただけ。その先が何もない、ただのリリアの劣化。それじゃあ昇格できるわけないよ」

既に答えが出ている。だからこそ結果を直視して、後悔も諦めもせず前を向いている。

「そんな事は――」

リリアはそこまで言葉にするが詰まってしまう。アスティアは気にせず、とても綺麗に微笑んで返す。

「そりゃあ、落ちたから辛いよ。でも今は落ちて良かったと思ってる。こんな中途半端で昇格したくないよ」

場が静かになる。アマラとラナラスも手が止まり、大切な友人の覚悟を聞いている。

「だから今年は、それに気づいたのが一番の成果なの。だから来年、昇格試験までにしっかりと()()を作る。そうじゃないと、また来年も一緒だからね」

「……ホント、アスティアは強いね」

リリアが羨ましがるように言葉を絞り出す。アスティアはニコリと笑うと、持っている空のコップをリリアに向ける。

「そりゃあ、リリアの弟子だから」

「――」

リリアは何も返せない。分かりづらい誉め言葉に気付くと笑いそうになって少し俯いてしまう。

けれどすぐに落ち着くとアスティアと顔を見合わせた。

「そうだね」

リリアは誉め言葉を素直に受け止めると、アスティアが差し出したコップに自分のコップを優しく添えた。



「リリア、昇格おめでとう」

「ありがとう、アスティア」

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