6.x.それを見ていた大人達
「よかったじゃねぇか。最悪にならなくて」
ライファの言葉を聞きながら、グレンは先に帰ったリリアとハジメを眺める。リリアのピリピリした感じが減って、普段の穏やかなリリアに戻っている。
「まぁ、な。殲滅魔法が使えるってなったら、さすがにどうしようもない」
グレンはそう言うと、今回隠していた真実に心を痛める。
本当に先天魔法を確認するだけの準備だったら、ここまでの面子を揃える必要はない。問題は、その先だった。
――万が一、先天魔法が使えたら。
ヒカリもハジメも使えないが、迷い人で先天魔法を使えた者は過去に居る。それはありもしない勇者として崇められ、敵として暴れ、広大な森を大きく焼いた。それは先天魔法が使えたグレンやリズウェルとも比較にならない威力だった。
そんな危険人物が何かの拍子で再び敵になる可能性を考慮しなければならない。様々な話し合いが行われ下された判断。それが、ライファ達Aランクが呼ばれた理由だった。
もちろん反対はあった。頭脳を生かすべき。知らない知識を持っている可能性。何かあった時、味方として使える可能性。
それでも、その危険を覆せるほどの安全を確保できなかった。
だから、何があっても対処できる3人が呼ばれた。
その事はリリアには朝、ハジメと合流する前に話していた。私が育てた責任を持つと覚悟を決めていたが、それは大人の役割だと拒否していた。リリアには悪い事を言った。
「……未だに慣れないか?」
「……今は先天魔法、か」
ライファの辛そうな言葉に返されたグレンの下手な笑みに、すぐ近くに来て居たリズウェルがグレンの手を握る。リズウェルの笑みは、グレンよりも上手だった。
戦争で使われてきた歴史とそれを知る人たちにとって、殲滅魔法――今の先天魔法には複雑な気持ちを持つ。特に使っていた人たちには、今でも心の奥にとげのように残っている。
「それもあるけどさぁ、グレン?」
「何?どうした」
ずっと話を聞いていただけのヒカリが、すごく怖い笑みを浮かべながらグレンに近寄って来た。
「リリアちゃんの事。なんであんな、馬の骨に付けたの?」
「……日本語を単語だけでも理解が出来てかつ戦闘力がある、しかも護衛のために一緒に事務作業まで完璧にできる人なんて、リリアしかいなかったんだよ」
「それは……仕方ないわね。それが出来る適任は今はリリアちゃんだけだし。リーダーも未だに事務仕事下手だし」
「おい、何で俺に流れ弾飛んできた。下手だがAランクに見合ったぐらいには出来るぞ。リリアと比べるな」
「まぁね。リリアちゃん、本当に頭良いから。向こうで勉強していた私といい勝負するもん」
ヒカリがまるで孫を見るかのような優しい目で、遠くにいるリリアの背に向ける。だからこそ、ハジメにつけたことを根に持っているのだろう。
「そうだ、グレン。気が付いてるか?」
「何が?」
話は終わった、と思ったタイミングで言われたライファの言葉の意味が分からず、グレンが頭をひねる。その様子に困ったようにライファが頭をかく。
「やっぱりか……あいつ多分、『剛力』が顕現しかけてるぞ」
「……はぁ!?」
グレンが驚きを声にする。周りは声を上げてないが、それでもかなり驚いている。
「ライファ、それは本当か?」
「本当だ。さっき背中を軽く叩いた時、体の動きに違和感があった。あれ多分、剛力だ」
その事にグレンが天を仰ぐ。衝撃は大きいらしいが何とか受け止めたのか、ライファを見て声を発する。
「……ライファ、確証は?」
「ほぼ確実だな」
「……どの程度の力だ」
「あの感じだと、今後成長しても俺の半分ぐらいか。俺の武器が持てる程度、振るのは難しいと思うぞ」
ライファはそう言うと、背負ってる巨大な剣を指さす。
「ライファの半分……平均にも行かないなら、何もしなくて大丈夫か」
――何もしなくて大丈夫か。
その言葉の意味が分からない程、ここにいる人間の察しは悪くない。ただその言葉を言う事が出来た事に全員が安堵する。
グレンはその視線のままライファの背負う武器を見ていると、
「ライファ、確かその武器って」
「おぉ。これ以上大きいのは作れないからって、持ち運びやすいサイズに作ってもらってる。強度も切れ味も充分あるから、これ以上大きくしないで正解だったぞ」
そこまで聞くと、グレンは手をつなぐリズウェルを見た。
「リズウェル、ハジメの剛力はどう思う?」
「……ハジメさんの体に、気のせいと思いましたが変な魔力の流れはありました。グレンさんと似ていますから、多分合ってるかと」
「なら本当か」
「……おい、何で俺の言葉は色々確認取るのにリズウェルの言葉はそのまま信じるんだ」
「リズウェルだから」
「……」
グレンの真顔の返事に、ライファは少し疎外感を感じた。