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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
4節 求めた強さ

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71.届かない世界

「ふっ!」

訓練の始まりは、今までの静かさを全て破壊するようなアマラの一息だった。

アマラの全力の、一切手加減しない踏み込み。

ハジメ相手では躱されて反撃を貰う、アスティア相手では木刀を振り切る前に1本貰う、リリア相手では軽く投げられる。

決して悪いわけではない。フィルマ相手には危険過ぎて出来ない薙ぎ払い。

それをライファは、

―― 。

構えていた巨剣(ウツギ)で音もなく受けきった。そこらの木刀なら軽く両断する威力、剣ですら()し折るかもしれない。

そんな強力な一撃をライファはほとんど動かず、一切音もなく受け止めた。

「えっ」

当然、アマラが一番その威力を分かっている。あいさつ代わりでもある。それでもそんな簡単に受けられる威力ではない。

それを簡単に、何でもないように音もなく受けきる。布と綿で衝撃を抑えているとは言え異常だ。

そんなありえない光景にアマラは固まってしまった。

「想定外なのは分かるが、固まるのは良くないな」

「あっ……っ!」

ライファは受けきったまま、一瞬体重をかける。

次の瞬間、ぶつかり合ったままの木刀から来る重さに耐えきれずにアマラはがくんと膝をついた。

そのまま留まる事を許さず、ライファは木刀に体重を乗せると遠くに転がした。

「くっ……」

「良い一撃だ。力に任せてないがちゃんと力が籠っている。受け身はまだ苦手なようだが、これだけ力があるなら及第点だな」

ライファは満足そうにアマラを見つめた。アマラは土だらけになりながら、諦めずに立ち上がる。

「もう少し打ち込んで来い」

「うん」

アマラは返事すると再び踏み込み、今度は上段から一気に振り下ろす。力任せではない、しっかりと訓練してきた振り下ろし。

―― 。

それをライファは音もなく受けきる。力だけでは不可能な、絶対的な技術を持っているからこそできる対応。

アマラもとっくに気づいている。

――今のアマラでは、どう頑張っても足元にも及ばない。

その事を理解して全力で戦う。

ハジメ相手でも出来ない、リリア相手でも出来ない。

ライファ相手だからこそ出来る、全力(全ての力)を使った一撃。

「上手く力を使えてるな。ただ、しっかりと相手を見ろ。例え強力な一撃でも外したら意味がない」

「うん」

受けきるためには技術以外にも、アマラ以上の力が要る。絶対的な実力差を見せつけたうえでの対応。

悔しくないと言ったら嘘だ。けれども悔しさをかき消すほどの高揚感がある。

「もう少し打ち込んでみろ」

ライファの言葉はしっかりと届いている。

アマラは何も言わず、再び全力をぶつけ始めた。



「ライファさんって、こんなに凄いんだ」

フィルマが動けず転がりながら2人の訓練を眺める。アビエスも小さく頷くと、目の前で広がる力のぶつかり合いから目を離せない。

「やっぱライファさんの事は知ってるの?」

「そりゃあ、元軍所属で冒険者Aランクの3人って言ったら軍の中でも有名だから」

アビエスの言葉でハジメには該当する3人の顔が思い浮かぶ。ハジメも出来ないこの戦いを見てしまうと、有名と言うのも納得できる。

「凄いよな。これ見ちゃうと、やっぱ俺は武官として続けられなかった」

「そうか?俺はいつか勝ってみたいって思うな」

アビエスが諦めと覚悟を込めて呟くと、フィルマは楽しそうに呟く。ハジメは何も言えず、その力の頂上決戦とも言える戦いを眺める。

戦い自体はとても静か。アマラの転がる音と時々響くライファの声。

生半可な実力だったら一瞬で終わる力のぶつかり合いは、ライファの圧倒的な力と実力の上で続いている。アマラは理解しながら、ただ全力()を出せる相手に全力を出す。

「ハジメはどうなんだ」

アビエスがまるで呟きのように聞いてくる。声になってしまった事に気づいていないかもしれない。視線はずっと戦いを見ている。

「どうもこうもないよ。今の俺には勝てない。だから出来る事を増やして、勝てるようになる」

自分には出来ない次元の戦いを、覚悟を持ってみる。

――Aランクになる

そう覚悟を決めた時から存在する問題。ライファやアマラとの力の差。

避けられないが、避けるしかない。

これまでだって出来る事は増やしてきた。それでもどう頑張っても勝てない。

だからと言って諦める事は出来ない。リリアに言った以上、必死に実力を上げるしかない。

「出来るの?」

フィルマが聞いてくる。その言葉には興味が含まれている。いや、同じ非力として参考にしたいのかもしれない。だからハジメは、ただ力強く戦いを見続ける。

「出来ないといけない」

それはただの絶望(願望)

ハジメは戦いを見つめながらも自分だったらどうするか、答えの出ない問題を探し続ける。

「――悔しいな」

「「えっ」」

とっくに出てきた結論。ハジメはそれを言葉にすると、アビエスとフィルマが驚いて顔を向けた。

「……何だよ」

当然ハジメも声と気配で気づく。そのぶっきらぼうな言葉に、アビエスがどう返事するか悩む。

「いや、さ。ハジメも悔しいとか言うんだな」

「当たり前だろ」

ハジメは苦笑いを浮かべながら当然の答えを返す。それでもアビエスは驚きながら言葉を続ける。

「だってハジメ、俺にアドバイスした時は周りを気にするな、出来る事を増やせ、だったろ」

「そうだよ。でも完璧になんか出来ないよ。悔しいと思うし、辛いとも思う」

「……ハジメはもっと、何があっても目標だけ見れる人なんだと思ってた」

「どういう意味だよ」

アビエスの含みのある言葉にハジメが嫌そうに返す。アビエスは気にせず、戦いを見ながら言葉だけをハジメに向ける。

「ハジメも、俺と同じ人間なんだなと思って」

「――当たり前だろ」

アビエスがどこか安心したように呟く。何を言いたいのか分かった上でハジメは苦笑いを返した。



「思った以上に力を使うのが上手いな」

「そう?ありがとう」

アマラが少し疲れてきて止まった頃、ライファは満足そうに声をかける。

反対にライファに疲れた様子はなく、まだまだ余裕がある。これが実力差なのだろう。

「次はこっちから行く。どうするかは考えろ」

「――うん」

ライファの言葉にアマラが緊張しながら答える。その言葉に嬉しそうに笑うと、ライファは無造作に近づいてくる。

しかし一切隙は無い。

アマラもそれが分かるくらい実力を付けているが、そのせいでより実力差を実感する。

「行くぞ」

「 」

ライファが間合いに入ると一撃、巨剣(ウツギ)を振った。キレのある、遠くから見ていても反応出来るか怪しい一撃。

それはアマラにとっても一緒だった。

ほとんど反射的に、何も考えずに薙ぎ払われる巨剣(ウツギ)に自分の木刀を入れる。

それでどうにかなるほどライファの力は優しくない。アマラの力ですらどうにもならず、いつかのハジメのように吹き飛ばされる。

「……え?」

アマラの困惑の声が響いた。薙ぎ払われた巨剣(ウツギ)はアマラを吹き飛ばさず、顔のすぐ横でピタリと止まっていた。

木刀は受ける事叶わずに巨剣(ウツギ)に動かされ、威力を殺すことも乗る事も出来ず無意味にそこにある。

その状態を理解できず、アマラは呆然とする。

「ここまでにしよう。これはまだ早かったな」

ライファはそこで終わりと言わんばかりに巨剣(ウツギ)を引くと、肩に乗せる。

「……うん」

ここまで来ればアマラも何が起きたのか分かる。

――ライファの一撃を一切受けれず反応も出来ず、命に関わる怪我する前に止められた。

圧倒的な実力差を感じる対応に悔しいと言う感情で心が沈む。ライファはその事に気付くと少し雑に、わしゃわしゃとアマラの頭を撫でた。

「力は充分、動きも悪くない。普段からしっかりと訓練してる証拠だ、剛力でここまで出来る奴がいる事が嬉しいぞ」

とても優しい言葉に、アマラは悔しさからうっすらと涙を浮かべながらライファを見る。

「アマラは剛力らしいが、良い意味で剛力らしくない部分もある。そのまま育てば、きっと仲間の力になれる」

「……ホント?」

「嘘を言う意味がない」

アマラの泣きそうだけど嬉しそうな言葉にライファが笑う。そのまま近くで事の成り行きを見守っていたハジメ達の元へと歩き出す。

「これからも何度か訓練付けてやる。怪我しないよう、気を付けろよ」



「今ならリリアが言っていた意味が良く分かります」

「どういう意味だ」

ライファが戻ってくると、ハジメは思った事を口にする。どこか悪意のありそうな言い方に、ライファが少し困ったように返す。

「今の訓練は冒険者――というか、人にして良い訓練じゃないです」

「……」

傍から見たら、まるでトラックに吹き飛ばされるような威力、それを不意を突いて打ち込むのだ。ハジメは吹き飛ばされるだけで済んだが、アマラだったら吹き飛ばされて壁とこんにちは、大怪我は当然、死んでいてもおかしくない。

それほどにハジメの心のこもった言葉にライファは何も言い返せない。しかもフィルマもアビエスも小さく頷いており、アマラでさえ珍しく視線を逸らしていた。

「……ハジメ、何かリリアちゃんぽくなったな」

否定できず悔しそうなライファだったが、何とか仕返しできることを見つけると呟いた。言ってる意味が分からないと言った感じでハジメは首を傾げると、ライファは悪だくみするようににやりと笑う。

「言葉の棘が鋭くなったぞ。リリアちゃんみたいだ」

「……」

まさかそんな事を言われると思っておらず、今度はハジメが黙る。しかしライファの仕返しは続く。

「表情もリリアちゃんに似て来てるよな。今の黙った表情なんてそっくりだぞ」

「それは、リリアに失礼じゃないですか?」

「そうか?気にしないと思うぞ」

ライファは気にした様子もなく笑う。仕返しが成功して楽しそうな表情にハジメは何か返そうとするが、良い言葉が浮かばずに黙るしかない。

「今のリリアに言う」

救いの手はアマラから出された。ハジメと似ている、そんな事をリリアに言ったらきっと怒るだろう。

ライファもその事に気付くと、少し慌てた様にアマラを止める。

「分かった、俺が悪かった。だから言うのは止めてくれ。ハジメもそう思うだろ」

「そうですか?」

ライファの慌てた様子が楽しくて、笑いそうになりながら意地悪を言ってしまう。しかしライファの視線は、恐怖ではなく同情である。

「ハジメとリリアちゃんが似てるなんて言ったら、ハジメも酷い目にあうと思うぞ」

「……」

次に返された言葉にハジメは固まり、その光景を思い浮かべる。

言った瞬間、きっとリリアは照れる。その後に、いつかのライファのようにボコボコと殴られる姿が目に浮かんだ。手加減するか怪しい。

その拳はライファに行くのかハジメに行くのか、予想も出来ない。

「……アマラ。頼むから言わないで」

「そう?」

「うん、お願いだから」

その絵は不思議なほどにしっくりきて、ハジメも止める側に回る。アマラがとぼけると2人がかりで止め始めた。


そのどこか平和な光景に、横で眺めていたフィルマとアビエスが耐え切れずに吹き出す。

ハジメとライファが凄く不満そうに2人を見るが、余計に面白かったらしく笑い声が酷くなるだけだった。

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