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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
4節 求めた強さ

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70.気分転換

「今日は荒れてる」

「仕方ないよ、そう言う日なんだから」

アマラとハジメ、2人はいつも訓練している広場へと来ていた。兵士や冒険者が訓練や練習をしていたが、今日は様子が違う。

いつも通りぶつかり合う音が響いているのだが少し荒く、どうも全体的に気が立ってピリピリしている。

特に冒険者の様子が酷く、兵士はその空気に当てられただけのようだ。

「そう言うアマラも少し苛立ってるでしょ」

「ハジメも人の事言えない」

かく言う2人も少し苛立っており、今は握る木刀に苛立ちをぶつけている。

今日はBランク昇格試験の日。リリアとアスティアは朝から試験会場に行っていてこの場には居ない。

ラナラスはギルドで仕事をしていて、エリスは孤児院へ慰労に行っている。

ハジメとアマラで依頼を受けるか考えたのだが、この精神状態で動くのは流石に危険。ジッと待っていてもイライラしていたので、自然と広場に足が向かっていた。

そして同じことを考えてる人は多い。

人によっては居酒屋だなんだもあるが、それで何か問題ごとを起こしたら試験を受けに来た仲間に迷惑がかかる。当然その事を理解しているから、広場で気分転換(八つ当たり)に来ているのだ。

そのため広場は普段より人が多く、感情がいたるところから波紋のように広がっていく。苛立ちと不安を混ぜた空気が渦巻いているが、2人は一切気にせず広場の隅の方に行くと補強された木刀を構え、向き合う。

「「……」」

お互い知った仲。

まずハジメが何も考えず、ただ力のままに踏み込み、振り下ろす。

普段だったら絶対にしない、守りも反撃も考えない雑な1撃。それをアマラは、ガンと力強く受けきった。

威力を殺し切れていない音。ハジメが非力とは言え正面から受け止めたら木刀にヒビが入る。音は大きかったがヒビも入らず受け止めたのは、アマラが王都(サイシア)に来てからのたゆまぬ努力の結果。

もう剛力()だけとは言わせない、しっかりとした実力者の(結果)

「「……」」

ハジメはすぐ距離を取ると、今度はアマラの番。

全力で、こちらは横薙ぎでハジメに襲い掛かる。

「――っ」

カン、とアマラの時よりも軽い音が鳴るが受け止める事は出来ない。木刀の勢いに乗る様に動くと、ほぼ180度引き釣り回されて止まる。

寸止めが出来ていない、躱せていないで訓練だったら怒られる対応。けれど今はただのお遊び(八つ当たり)。お互いに分かった上でやっている。

「ふっ!」

「はっ!」

そこからはお互いに本気の切り合いが始まる。先ほどまでと違い、ぶつかり合う音は一切無い。ギリギリの間合いの中で切りかかる、躱す、の繰り返し。

しかしそこに寸止めは無く、信頼しているのはお互いの実力。当てない、躱すの信頼の上で苛立ちを振り回している。

「――うっわ」

「すげぇ」

それは周りで見てる人たちを驚かせるほどの演武。見ているだけでは剛力には見えない2人の戦い。補強された木刀の音のみが圧倒的な力を示す。

けれど補強も完璧ではない。剛力の力で何度も打ち合ったったら耐えきる事など出来ず、砕けるだろう。

お互いそれが分かっているから最初のお遊び(八つ当たり)以外は打ち合わず、それ以降は気分に任せて暴れている。

――きっと、大丈夫。

お互い考えるのはパーティの仲間の事。必死にこれまで鍛え、強くなり、もう手が届かない位置に行った友達。

ただ努力が実る事を祈って、2人は苛立ちをぶつけ合う。


「ハジメは何やってるんだ」

どれほど暴れただろう。気が向くままに暴れ汗をかいたので一休みしようとすると声をかけられた。

久々に聞いた声に一瞬誰か分からなかったが、ハジメが振り返ると巨剣を背負った人が立っていた。

「ライファさん、お久しぶりです」

「久しぶりだな、ハジメも元気そうで何よりだ」

ハジメの挨拶にライファは気楽に手を上げて挨拶する。そしてその後ろ、見慣れた2人の姿も居た。

「凄かったな。あんなの出来るなら俺たちじゃ勝てなかったわけだ」

「そうか?ギリギリ当たらない位置で振っているだけだから、相手の動きをしっかり予想すれば出来るだろ」

「それが難しいんだよ」

アビエスは諦めたように呟いたが、フィルマは何とかなると楽観的。どこか隊商レイドの時の気楽な雰囲気と懐かしさにハジメとアマラも気が緩む。

「フィルマ。良かったらやる?」

「やる」

「ダメだ」

アマラの誘いにフィルマの目が輝く。木刀に手にいそいそと挑戦しようとするが、アビエスが止めた。

「何でだよ」

「フィルマ、アマラとやるたびに木刀折ってるだろ」

「……そんなこと無い。折っても2本だ」

「毎回1本は折ってるじゃねぇか。そのせいで2日前も廊下掃除してただろ、少し自重しろ」

呆れたアビエスに勝てず、寂しそうに目線を落とす。まるで叱られた子供みたいな姿にライファが小さく噴き出した。

「ハジメ。この人誰?」

そこまで話すとアマラが緊張したようにハジメに聞いてくる。目線はライファに向いており、凄い緊張を含んで見つめている。

「ライファさん。Aランクの冒険者で、剛力持ち」

「――アマラ・クドラ」

「ライファだ」

ハジメの紹介に、アマラは緊張した面持ちのまま自己紹介をする。そのままお互いに睨み合う。

ライファは面白そうに。アマラは、まるで威圧されるように動けず固まる。

「……」

その空気にアビエスとフィルマが飲まれる。お互い剛力、特にライファはその中でも最上位に位置する。

ハジメは慣れてしまったが、アマラから見たら力の塊を感じているのだろう。どう対応して良いのか分からず緊張している。

「良いな。ちゃんと見えてる」

「そう?」

ぼそりとライファが呟く。アマラはどうしていいのか分からないらしく、小さく呟き返すしか出来ない。

「あぁ。ちゃんとしている。ここまでしっかりしているのはハジメ以来だ」

ライファの賛辞にどう返事をして良いのか分からないのだろう。助けを求めるようにハジメに視線を向けた。

「ライファさん、アマラを威圧しないでください」

「威圧はしてねぇよ。アマラも気にするな」

ライファは少し困ったように呟くと、アマラは小さく頷く。

そこでやっと周りの視線が集まっている事に気付いた。気になるのは当然、今まで凄い演武を見せていた2人がAランク(ライファ)と仲良く話しているのだ。

その視線から逃げる様にライファが聞いてくる。

「それで2人はこの後どうする?」

「私はもう少し暴れたい。ハジメは」

「俺も暴れたい」

「暴れたいって、もしかして昇格試験か?」

周りにも同じように仲間が昇格試験を受けてる人は多い。ハジメ達と似たり寄ったり、今も八つ当たりしてる人は多い。

ライファの驚いた言葉にハジメが頷く。

「はい。リリアとアスティアが受けてます」

「……そっか、リリアがついに昇格試験を受けるのか」

ライファが感慨深く呟く。

当然、ライファは全てを知っている。だからこそAランク(実力者)ではなく、リリアをずっと見てきた兄としての呟きに、ハジメは何も言えなくなった。

「――俺も少し、暴れて良いか?」

「え?」

「もちろん」

ライファの呟きにハジメは驚くがアマラはすぐに返事をする。返事を聞くと嬉しそうに巨剣(ウツギ)を手に持つが、慌ててアビエスが止めた。

「ここではやめてください。ライファさんが戦ったら周りに被害が出ます」

「そんなつもりは――いや、それもそうだな」

ライファは周りを見ると近くで訓練する人が居る。本来問題ないが、剛力としてすさまじい力があるライファでは狭すぎる。力を込めて振れば、訓練相手は飛んでいくだろう。

「屋内訓練場行くか。アビエスは鍵を頼む、俺は布と綿を借りてくる」

ライファが歩き出すと、ハジメとアマラも歩き出す。アビエスが鍵を借りに行くので、フィルマは2人と一緒に先に屋内訓練場へと向かった。



「でさ、アビエスは何があったの?」

「え」

ライファが布と綿を探しに行っている間、屋内訓練場でのんびりと待つことになった。

アマラはライファの力が気になるらしく、何も言わずに準備を始めた。既にライファと戦う気満々だ。

今はフィルマと無手で、柔道と空手を足したような感じで遊んでいる。

技術的な意味ならフィルマも戦える。しかし剛力の有無(体重差)に振り回されていて、アマラはちゃんと手加減しているが悲鳴と鈍い音が聞こえる。

「軍の制服。それ、文官のだよね」

アビエスの着ている制服が、武官ではなく文官の物になっていた。レイドに参加した時は武官だったので、配置替えしたと言う事だ。

「そうだよ、文官になった。勉強する事ばっかりで大変」

アビエスは楽しそうに言うが、少し責任を感じたハジメはバツが悪そうにする。その表情にアビエスは少し不満そうになる。

「ハジメが気にする必要ない。多分、これで良かったんだ」

「……良かったのかな?」

フィルマの悲鳴が断続的に続く中、2人は気にせず言葉を続ける。その悲鳴を聞きながら、アビエスはゆっくりと考えを言葉にする。

「良かったよ。多分あのままだったら俺は、遠からず自分の実力を過信して、周りに迷惑かけて、どこかのいざこざでくだらない理由で死んでいた」

「……」

ハジメは何も言えない。過信がどれだけ危険か分かっているからだ。だからこそアビエスの言っている事は正しい。

「だから、どうなりたいか考えてデンドンさんに相談して文官になったんだ。今は勉強漬けでさ、毎日新しい事を知って、出来る事が増えてってる」

「……それは――」

「謝るなよ。そりゃあ武官で居た時は自分が強いと思ってて、実際は違くて悩んだけどさ。今はその時の経験を生かして、武官経歴の文官って立場で仕事が出来てるんだ。どっちも分かる人なんて少ないからさ」

アビエスが楽しそうに笑う。自分の仕事と役割に自信があるのだろう。レイドの時とは違う安定感がある。

「だからハジメも何かあったらいつでも来いよ。ギルド仕事もあるんだから、何か2人でデカい仕事出来るかもしれないからさ」

もう才能や実力を不安視するアビエスは居ない。ただ自分の力を見て、しっかりと前を見ている。

だからこそハジメも笑って未来を見た。

「その時は俺に優先して回してくれよ」

「そこはしっかりとルールに従って、な」

お約束の返しに笑いあう。

そのままフィルマの呻き声と悲鳴をBGMにアマラの練習を見ていると、屋内訓練場の扉が開いた。

「待たせたな、ちょいと人に捕まっちまって」

そこにはライファが少し疲れた様に立っていた。巨剣(ウツギ)は既に布と綿で着飾った訓練用になっている。

「待ってた、お願い」

その姿を待ちわびていたアマラが声をかける。

疲れきって足元に転がるフィルマをお姫様だっこすると、小走りにハジメ達の近くに向かう。

ライファは訓練に混じる気のないハジメに目線を向けるが、目線を外して拒否されたので声をかける。

「ハジメは良いのか?」

「アマラが期待してますから」

ライファの確認にハジメは苦笑いを浮かべる。当のアマラはやる気満々、ハジメ達の近くに置いていた木刀を手に持つと適当に距離を置いた。

「ライファ。お願い」

アマラがいつも通り構えると待ち構える。

たった数ヶ月。それでも王都(サイシア)で積み重ねた日々に嘘は無い。

だからこそ、既にライファとの実力差を分かっている。

それでも足を止めないため、アスティアとラナラスの仲間として胸を張って立てるように、最強とも言える相手に対して構える。

覚悟が決まったアマラの表情に、ライファは適当な位置に移動するといつも通り構えた。


「――いつでも来い」

「よろしく」


言葉は最小限、観客も最小限。きっとこれを知る人が居たら、勿体ないと叫んだだろう。

静かに、訓練は始まった。

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